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インパクト志向金融宣言「中期計画(2023-2025年)」を策定しました。

インパクト志向金融宣言が発足して1年半が過ぎました。署名機関数も当初の21機関から大きく伸び、まもなく60に迫ろうという勢いです。そこでこのたび、これからの3年を視野に入れた「中期計画」を策定しました。その背景と内容について、事務局を務めるSIIF・小笠原由佳がご説明します。


全機関から集めたウィッシュリストを元に活動を選定

インパクト志向宣言は2021年11月に21の金融機関が署名して発足しました。それから約半年かけて署名機関同士で議論し、まず「Theory of Change(TOC)」(下図)を決定しています。

Theory of Change(TOC)

2022年6月には7つの分科会が活動を開始し、テーマごと、分野ごとの議論を積み重ねてきました。2023年1月に発行したプログレスレポートでは、各分科会がその活動状況を報告しています。

こうして活動が活発化・多様化し、なおかつ署名機関が増えていく中で、全員が共有できる、具体的な行動計画の必要性が浮上してきました。プラットフォームとして3~5年というタイムスパンで何を目指すのか。改めて議論することにしたのです。

インパクト志向金融宣言では、3カ月に一度、全署名機関・賛同機関が参加するワーキングレベル会合を持っています。2022年11月の第4回ワーキングレベル会合で、「インパクト志向金融宣言のこれまで、これからについて」ディスカッションしたことを起点として2023年1月の第5回ワーキングレベル会合、2月の集中討議、4月の第6回ワーキングレベル会合と議論を重ねました。まずは、この宣言を通じて実現したいこと、例えば、「認知度向上・市場拡大」「プラットフォームの強化、知見やナレッジの深化、発信」等、など、あらゆる意見を出し合いました。併せてアンケートも実施し、網羅的なウィッシュリストを作成しました。

このウィッシュリストをたたき台に、各分科会にもおのおの中期活動計画を策定してもらいました。ウィッシュリストのうち、分科会がカバーする項目については、分科会主導で進めることとしています。

他方で、分科会ではカバーできない項目も数多くあります。このうち、プラットフォーム全体として取り組むべき課題は何か。インパクト志向金融宣言の宣言文や「TOC」に照らしつつ、優先度や実施体制も併せて検討しました。オンラインとリアルの両方で何時間も議論を重ね、月1回行われる運営委員会にも2度諮っています。こうしたプロセスを経て、この7月の第7回ワーキングレベル会合にて「中期計画」が決議されました。

中期計画の前提となる活動の方向性を明確化

中期計画の前提として、まず、インパクト志向金融宣言が目指す方向性を改めて明確化しました。ここで議題となったのは大きく3つです。

1つ目は署名機関数。計画の成果指標として、署名機関数に目標値を定めるべきかどうか、という議論がありました。もちろん、署名機関の増加は望ましいことですが、おのおのが内発的な動機から署名してくださることが大前提です。インパクトファイナンスに意欲的な機関が集まることによってプラットフォームの魅力が高まり、その結果として参加機関が増える、という好循環をつくりたい。そのためには、目標数の設定はふさわしくない、という結論に至りました。

ただ、現状では署名機関のアセットクラスに偏りがあることも事実です。まだ参加の少ない証券会社や年金基金、地方銀行などへのアプローチについては、今後検討していく必要があると考えています。

2つ目は、活動の「公益」と「共益」をどう考えるか、です。「TOC」にも掲げている「インパクトファイナンスの拡大」は本質的に公益性の高いものです。ただ、プラットフォームとして公益に貢献できるようになるためにも、署名機関同士の共益的な活動も進めていかなければなりません。

共益的な活動の具体例には、情報や方法論の交換・共有、相互のネットワーク構築が挙げられます。これまでも、「インパクト志向金融宣言に参加したことで、新しいネットワークが得られた」という声をたくさんいただきました。プラットフォーム参加の魅力として、これからも大事にしていきたいところです。

公益的な活動としては、アセットオーナーへの働きかけや、インパクト志向金融宣言で開発した指標・指針やベストプラクティスの対外発信、また公的な機関へのエンゲージメントが挙げられます。

こうした活動を通じてインパクト志向金融宣言の信頼性が高まれば、署名機関であることの対外的な価値も高まっていくものと考えています。

3つ目は、他のプラットフォームや外部機関との連携です。私たちのビジョンは、署名機関だけでは達成できません。関連するさまざまな機関と協力し、連携していきたいと考えています。

中期計画は6本柱。実行に向けて、組織も一部再編

中期計画は2023年ー2025年の3年間を対象とし、6つの柱で構成しています(下図)。それぞれについて具体的な活動内容を挙げ、優先順位を付けました。

インパクト志向金融宣言 中期計画

中期計画の1本目の柱は、これまでの活動の継続です。2本目もこれまでもやってきたことですが、今後は事例・データ・ツールの収集にとどまらず、国内事情に即した、より使い勝手の良い指標や指針を開発したいと考えています。

3本目の「人材育成」は今、インパクトファイナンス業界全体の大きな課題となっています。重要項目の1つとして推進していきます。

4本目は情報発信です。金融業界のみならず、事業会社の方々にも、もっともっとインパクトファイナンスに関心を持っていただきたいと思います。同様に、マスメディアを通じて、広く一般の方々にも理解を広げていかなければなりません。そのために、例えば「インパクト大賞」を創設するなどして、発信機会を増やす方策を探っています。

5本目は4本目に似ていますが、どちらかというと業界内部を対象にしています。例えば、今年1月の「プログレスレポート」発行は、署名機関自身にとっても大きな意味がありました。自社の経営陣にも成果を説明しやすく、インパクト志向金融経営を推進する追い風になったようです。ほか、政策立案者や、年金基金などのアセットオーナー、さらにその資金の出し手である個人、また投資先、証券会社などとのエンゲージメントによって、インベストメントチェーン全体としてインパクトファイナンスを拡大する動きにつなげていきたいと考えています。

インパクト志向金融宣言のプラットフォームは、2025年4月以降、外部の助成金に頼らず、資金的に自立することを目指しています。そのために、プラットフォームの活動基盤を整え、運営規程の策定を進めることが6本目の柱です。

これまで7つあった分科会は、テーマに応じて再編し、役割分担を行います。具体的には、全署名機関に共通するテーマである「IMM」「海外連携」「定義・算入基準」については、「分科会」から「企画チーム/プロジェクトチーム」に組織変更しました。今後も、必要に応じてチームを新設する計画です。他方で、アセットクラスやテーマ別の「地域金融」「ソーシャル指標」「VC」「AO/AM」は分科会として存続します。今後、新たに「デットファイナンス分科会」の創設も予定しています。

中期計画策定のためにこれまでの活動を踏まえて改めて議論したことで、このプラットフォームの方向性が一層クリアになり、署名機関と共有することができました。今後はこの中期計画を羅針盤に、相互の連携を深めながら活動を推進していきたいと考えています。

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