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映画感想:ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス(ネタバレ有り)

 僕は1を監督したスコット・デリクソンがとても好きな監督だったので、今作から降板したと聞いた時はガッカリしていた。
 1はちゃんと面白かったが、スコット・デリクソンの真骨頂であるホラー要素が薄め且つ、ユーモアがドタバタと過剰気味で、エンタメに振り切った作りになっていた為、少々物足りなさを感じた。(これは邪推だが、ディズニー傘下ということと、万人向けエンタメ作品ということで、スコット・デリクソンが気を使ったのではないかと僕は思っている。他にも、マッツ・ミケルセンを呼んでおいてあの扱いはないだろとか、トニー・トッドの声が聞きたかったとか、そういう文句はある)
 それを、2では遠慮せずにホラー要素を濃くするよ!とスコット・デリクソン自身が言っていたし、ナイトメアというホラーと親和性の高いヴィランを出したいとも言っていたので、ああ、2こそスコット・デリクソンの真骨頂が拝めるのか!と期待していたからだ。

 その後、サム・ライミが引き継いで監督すると聞いた時は、正直いうと不安だった。サム・ライミは言わずもがな、ヒーロー映画の金字塔であるスパイダーマン三部作の監督だし、元々ホラー映画の人だったから、確かな実績こそあれど、『オズ 始まりの戦い』が、あれ?な感じだったし、最近はプロデュース業ばかりしていたので、映画に対する情熱を失くしてるのかな?と思っていたのだ。その上、制約の多いMCUなので自由にやれず、消化試合的な映画になるのではないかと考えていた。
 それに加えて、僕はディズニープラスのドラマ群、ないしはMCUフェーズ4を熱心に追っていなかったし、ノー・ウェイ・ホームでジョン・ワッツが撮ったトビー・マグワイアのスパイダーマンを拝んでいたので、ここへきてサム・ライミなのかあ……どうなんだろうなあ……と、冷めた感じで今作を待っていた。

 それで、結果から言うと、本当にすいませんでした。
 MCU?グロ無理?子供向け?ディズニー?うるせえ黙れ!これが俺の映画だ!とサム・ライミが神輿に乗って高笑いしながら突進してくるような映画だった。その神輿を、ゾンビやら亡霊やら骸骨やら大人の都合で違う名前のシュマゴラスやらプロフェッサーXやらMrファンタスティックやらブルース・キャンベルやらが血まみれになって担いでいるのだから、面白い面白くないの話ではなくなってしまった。ノー・ウェイ・ホームまでとは言わないけど、こんなのずるいだろ!

 今作は作りが歪と言えば歪なのだが、そんなの気にならないくらいサム・ライミ味が濃すぎる。ひとつひとつの場面が終わる度に、ああ、面白いなあ、僕は今、サム・ライミの映画を観ているんだなあとしみじみ感じてしまって、映画、ひいては続き物のMCUとしての面白さを感じる余裕が無かった。ワンダ、なんか色々あったのね、とか考えている場合ではなかったのだ。
 というか、この映画、サム・ライミにしか撮ることが許されなかったのではないか。
 MCUの別次元ヒーローたちはまだしも、この間まで20世紀FOX傘下だったXーMENの大御所でもあるプロフェッサーXやMrファンタスティックをあっけなく殺したり(死に方のバリエーションの豊富さ!)、クライマックスがまさかの顔面グログロなゾンビ・ストレンジの活躍だったり(お前ラスボスじゃなくて味方だったのかよ!)……。いくらマルチバースにかこつけるとはいえ、サム・ライミ以外がやったら怒られるのでは。というか、サム・ライミがやるなら文句なんか言えないよなあ……。
 似た話で、最近『スペル』を見直した時にも感じたのだが、風が吹いてカメラがグラグラとクローズアップしていったり、ドアがズームしながらバンッ!と閉まっていったりする演出も、サム・ライミがやってるからこそ許されるものだと思った。『死霊のはらわた』を傑作にしたサム・ライミだからこそ許される技法。最早、ホラーとか、スプラッターコメディとか、そういう枠ではなく、巨匠サム・ライミというジャンル、概念の話になってくる。
 今作を評価するのは、その点に尽きてしまう。良くも悪くも、それが受け入れられるかどうか。僕は、最初のシュマゴラス(ガルガントス)戦で受け入れてしまった。即落ちサム・ライミだった。
 あからさまにスパイダーマン三部作、主に2を意識した画作りとアクション。黄土色の外壁のビルに引っ付いて上下に移動しながら多脚の敵と戦うなんて、もろに2のドックオク戦じゃないか。やたらとタコタコ連呼するし、外壁に助けた人を放置するし。その後わざわざ屋上で談義するなんて、目配せどころではない。スパイダーマンを撮った俺がやってるぞ!というサム・ライミの開幕ビンタみたいだった。
 それから、もろに死霊っぽく迫ってくるワンダ。水たまりに目が浮いたり、ドロドロ這い出して来たり。攻めてくる時に暗雲を引き連れて現れたり、目元に黒いメイクを施して悪い魔女だ!ってコテコテのことをやったりするのも、サム・ライミだから(略)。
 サムライミサムライミ書いてきてゲシュタルト崩壊しそうだが、本当にそんな映画だったから仕方がない。ここまでやってくれたら、スコット・デリクソンだったらどうやったかなんて考える余裕すら無くなってしまった。

 でも、これはMCUのドラマ群を置いてけぼりにしている僕だからこそ楽しめたのかもしれない。ワンダヴィジョンを見ているか見ていないかで、今作のメインヴィランであるワンダに対する印象は大分変ってくるのだろう。サム・ライミのサド趣味が主にワンダに対して炸裂していたし。僕はさすがに可哀そうに思えた。
 もっとも、あのワンダのダーティな強かさはもろにサム・ライミの描くヒロイン像からくるものだっただろうけど。規模や扱う命の軽さは違うけど、スパイダーマンヒロインのMJやスペルのヒロインに確かに通じるところがある。どんなことをしてでも自分の願いを実現したいけど、心のどこかでそれを小さく迷っているというサム・ライミ特有のヒロイン。
 まあしかし、明確に死に際を描かれていないし、ワンダも後々ひっそりと救われるのかもしれない。
 結果として、MCUがどうこうとか、良い悪いとか、そういうことではなく、サム・ライミ最低か、サム・ライミ最高か、みたいな評価になると思うのだが、僕はサム・ライミ最高でした。純粋に、子供の頃スパイダーマン3を観た劇場で十数年ぶりに、またサム・ライミの監督した映画を観れたので、満足です。
 この映画のおかげか知らないが、なんとダークマンの続編の話が持ち上がったというし、そっちにも期待したい。サム・ライミ、リーアム・ニーソンはアクションするのに仕上がってるぞ!撮るなら今だ!もしくはずっと話が進んでないスポーンでもいいよ!


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