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「つくらない」をつくるデザインへの挑戦 -ナガオカケンメイ 著『もうひとつのデザイン』-

 人々が日々の暮らしを営むために必要な、身の回りにある数々の「モノ」と、それらを形づくるうえでの重要な構成要素となる「デザイン」。

 この『もうひとつのデザイン ナガオカケンメイの仕事』という本は、モノとデザインのより良い関係性について、あらためて読者に考える機会を与えてくれます。

 以下に、この本の読書を通じて気づいたことや感じたことについて、メモしておきたいと思います。

【Discovery / この本を読んで得られたこと】

 この本の著書のナガオカケンメイ(以下、ケンメイ)さんは、デザイン活動家という肩書きで、「D&DEPARTMENT PROJECT」というストアスタイルの活動体をベースに、国内外での店舗運営、展覧会・イベントの開催、60年代商品の復刻、書籍の出版など、幅広い活動をなさっている方です。

 一般的なデザイナーという職種のイメージからは一線を画すケンメイさんのこれまでの活動の軌跡と、デザインやものづくりに対する深い考察の一端が、この本にはまとめられています。

▶︎「つくらない」をつくる

 1995年頃からリサイクル店巡りを趣味としていたケンメイさん。そこで、ガラクタから最新の商品までが、一堂に並ぶ光景を目の当たりにしながら、そのほとんどがデザイナーの手を介して生まれてきていることに疑問を感じたといいます。

 この経験をふまえ、ケンメイさんは新しいモノをつくり出しては廃棄し続けるデザインではなく、新しいモノを極力つくり出さないデザインへの模索をはじめることとなりました。

 ケンメイさんの多岐に渡る活動を貫くテーマである「ロングライフデザイン」とは、世の中の流行に左右されることなく、長年に渡ってスタンダードであり続ける力を持ったデザインのことを指します。

 元々、グッドデザイン賞の一部門として生まれた言葉だそうですが、この考え方を広めることで、日本人のデザインに対する価値観や購買行動を見直すことに繋がるのではないかと、ケンメイさんは考えたそうです。

 まず、ケンメイさんの手がけるD&DEPARTMENTの代名詞といえば、2000年のプロジェクト始動から行っているリサイクルショッパー(買い物袋)の使用です。

 これは、お店の利用者に他店で買い物をした際にもらったショッパーを寄付してもらい、そこにD&DEPARTMENTのコピーが書かれたテープを貼って再利用するという取り組み。
 極めてシンプルなアイデアですが、「つくらない」というコンセプトがストレートに伝わってきます。

 2020年からは、ショッパーに加えて、エコバッグを再利用するプロジェクトもはじまったそうです。

 また、業務用の厨房機器を中心に取り扱っているリサイクル店で大量に並んでいるという、ブランドネームが入ったグラス。

 こういった廃棄寸前のものにも、D&DEPARTMENTのコピーを加えるなどのちょっとした加工を行うことで、リサイクルグラスというジャンルの商品として、再び生活のなかに入っていく機会を与える取り組みも行っています。

 昨今のデザイン系の教育現場では、「つくらない」「もう必要ない」「持続可能な」という大義名分を語る一方で、いまだに「新しくつくること」を教え込んでいる状況があると、ケンメイさんは言います。
 (こうしたジレンマは、自分の携わっている建築の分野でも、ほぼ同じ状況があるように感じます。)

 そうしたなかで、単なる理念の表明に留まらず、実際のプロジェクトに落とし込んだ取り組みを継続的に行ってきたところが、ケンメイさんの凄いところです。

▶︎「らしさ」からはじまるものづくり

 リサイクル店巡りを趣味としていたケンメイさんは、中古市場で見つかる良い商品の多くが1960年代に生まれたものだということに気づいたそうです。

 1960年代の日本は、戦後復興期から高度経済成長期にさしかかり、品質面はもちろん、デザイン面でも人々の生活を豊かにする商品づくりを目指す意識の高いものづくり企業がたくさん生まれた時代だと、ケンメイさんは考察しています。

 そうしたものづくりの原点の見直しが、これからの企業のブランディングには必須だと考え、ケンメイさんが企画したのが「60VISION(ロクマルビジョン)」です。

 この企画は、「企業原点」と「原点商品」の大切さに賛同する企業とともに、原点を意識した新商品の開発を進め販売していく活動で、現在までに、以下の12社がこの企画に参加しています。

【60VISION 参加ブランド / 参加企業】
▼現在も参加中
・カリモク60 / カリモク家具販売(株)2002年〜
・アデリア60 / 石塚硝子(株)2003年〜
・イトーキ60 / (株)イトーキ 2004年〜
・マーナ60 / (株)マーナ 2005年〜
・マルニ60 / (株)マルニ木工 2006年〜
・ホッカ60 / 北陸製菓(株) 2007年〜

▼一時期の参加
・ノリタケ60 / (株)ノリタケカンパニーリミテド 2003年〜2011年
・エース60 / エース(株) 2004年〜2010年
・ホウトク60 / (株)ホウトク 2004年〜2011年
・ヤマギワ60 / (株)ヤマギワ 2004年〜2011年
・コトブキ60 / (株)コトブキ 2006年〜2010年
・ムーンスター60 / (株)ムーンスター 2008年〜2010年

 企業の原点を追求するということ。それは、自分たち「らしさ」を再確認する作業でもあります。

 長らく大量生産・大量消費の時代が続いてきた日本の消費社会においては、激しい流行の波に晒される新商品はすぐに売れなくなり、中古市場に出回ったり、廃盤となるスピードも早まっていきました。

 ヒット商品を追ったり、マーケティング調査をしたりして、「つくりたい」ものではなく、「売れそうな」ものをつくりたがる市場の流れのなかで、「原点回帰」というコンセプトはある意味素朴過ぎて、利益を追求する企業としては、なかなか社外の意見を受け入れることが難しい内容のようにも思えます。

 それでもこうやって「60VISION」という価値観を複数の企業が共有するプラットフォームをつくることで、実際に数々の商品化にも繋がっていることに感銘を受けました。

 企業側の意識変革や気づきを促すことも、デザイナーの重要な仕事のひとつだと考えるケンメイさんの活動。これも一種の「つくらない」をつくるデザインのひとつです。

▶︎地域の魅力の「伝え方」

 ものづくりやお店づくりの現場において、さまざまなアイデアを実践してきたケンメイさんですが、その情報発信の仕方も個性的です。

 ケンメイさんは2008年に松屋銀座で開催した企画展「DESIGN BUSSAN NIPPON」をきっかけに、自分のなかでの「東京中心のデザイン」という考えが崩れ落ち、長らく季節や風土に育まれた「地方のデザイン」こそ、真のデザインなのではと感じるようになったそうです。

 そうした想いから、全国47都道府県ごとに「その土地らしさ」をデザイン目線で紹介する新しいタイプのトラベルガイドをつくりたいと考え、2009年より発刊し続けているのがデザイン観光ガイドブック『d design travel』です。

 『d design travel』は、各県ごとにワークショップ形式の公開編集会議を行い、その土地の人と一緒に「その土地らしさ」についての議論を交わしながら、本をつくっていくそうです。

 交通や物流が発達し、そのスピードも早まっていくなかで、人は「どこにでもあるもの」ではなく、「そこにしかないもの」でないと価値が無いと判断してしまいます。
 だからこそ、「その土地にしかない」「その土地らしさ」を見つけ出し、差別化することもデザイナーの役割だとケンメイさんはいいます。

 そして、その土地の人自身に、自分たちの個性を再発見してもらい、自分たち自身で物産、まちの風景、祭りなどの「その土地らしさ」を伝える活動をしていってほしいと思いながら、この本をつくっているとのこと。

 また、この本の取材や編集で得られた知見やネットワークを活かして、東京都の渋谷ヒカリエ8階に「DESIGN BUSSAN NIPPON」を常設化したミュージアム・ショップ「d47 museum」や、47都道府県の「食」を生産者や器のつくり手の想いとともに伝える「d47 食堂」をつくり、できる限り多くの方々にも全国の「らしさ」を味わってもらえる機会を提供しています。

 これらの活動の延長線上に、最近ケンメイさんが力を入れているプロジェクトとして「d news」の活動があります。

 「d47 museum」が47都道府県単位の活動だとすると、「d news」は市町村単位を尺度として考えたアプローチ。
 『d design travel』で取材した地域の「その後」を追いかける記事を掲載した季刊誌『d news』や、中長期滞在向けの宿泊付店舗「d news」があります。

 そして、この実店舗「d news」の国内1号店として、クラウドファンディングによる資金調達を経て、ケンメイさんの故郷である愛知県阿久比町に「d news aichi agui」が2021年12月にオープンしました。

 元々、知多木綿の生産が盛んだった阿久比町に残るノコギリ屋根の機屋の建物をリノベーションしてつくられた店内には、天窓から光が差し込む大空間にカフェ、ショップ、ギャラリーなどが、混ざり合うように共存しています。

 この本で、ケンメイさんは自分たちのお店では、「売れる」ことよりも「根をはる」ことに関心を持つべきだと書いています。

 つくり手や産地にスポットライトを当てたり、イベントやワークショップをやったとしても、それが表面的な話題づくりだけだと、変な流行づくりに加担してしまう…。
 社会や生活者と接する以上、自分たちの表現を伝えるメディアを持ち、モノを売るだけの「ただの店」にならないようにしたい…。

 あえて、何も無いといわれる故郷にお店をつくり、その土地が持つ資源を軸に、文化的な発信をし続けようとするケンメイさんの強い想いが、この「d news aichi agui」には詰め込まれているような気がします。

 観光ガイドブックの作成から、廃工場をリノベーションした店舗の開設まで、ソフト面とハード面の双方を駆使して、自分たちの考えていることや、その地域の魅力を伝えていこうとする姿勢に、行政ではなかなか手の届かない側面からのローカリズムの可能性を感じました。

 なお、この「d news aichi agui」の近況をはじめ、「D&DEPARTMENT PROJECT」の一連の活動の足跡は、ケンメイさんのvoicyでも聞くことができるので、個人的にはおすすめです。

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 この「d news aichi agui」、私の自宅から車で20分程とほど近い距離にあり、先日、妻と長男と一緒に訪れさせていただきました。

 ケンメイさんのいうとおり、自分にとっての阿久比町の印象も、前々から日本の昔ながらの原風景の名残のある良いまちだなと思ってはいましたが、それでも、こののどかな集落に本当にお店までつくってしまうとは大変驚きでした。

 現在、自分も古い建物を直し活用していく仕事に携わっていますが、このケンメイさんが手がけた「d news aichi agui」をみるにつけ、センスと想いのある方の手にかかると、これほどまでに面白い場所にできるんだなと、感動しました。

 これも、何事も全く新しくいちからつくるのではなく、そこに元々あるモノや環境の本質的な価値を見定めたうえで、いかにして、そこに再び生命を吹き込むことができるのかを常に考えているからこそ、なせる技なのだと思います。

 手のひらに乗るぐらいの小さな商品から、人の住処にもなるような大きな建物に至るまで。
 この本は、ケンメイさんの自叙伝のようでいて、実は全てのものづくりに関わる方々にとって、頭の片隅に入れておきべきヒントが隠されている、そんな1冊でもあるかもしれません。

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