ザクザクのお祓い

 大学の後輩のAちゃんは、幼稚園の頃から見ていたある夢があった。
 それは、気を抜くと見てしまう悪夢で違う夢を見ている時や、ボーッとしている時に割り込んできていた。その夢というのは、「辺り一面雪景色で、大人の男性が複数人で鍬とかスコップで地面に横たわる白装束の女性をザクザクに突き刺している。男性たちはやりたくないように見え、女性は声を一言も発していない。ザクザクにやられているのに手足が動くからその状態でも生きているようには見える。その現場は女性の血がたまっていて自分はその様子をちょっと離れたところから見ていて居ない事になっている。」というものだった。Aちゃんは、その様子を遠くから見ていて精神的にきつく見てしまった次の日は学校を休んでいた。
 それが高校生になり、相変わらず見ていた夢にちょっとした変化が起きた。それはザクザクしていた時に流れていた血が血じゃなくて膿みたいな色に変化していた。しかし、それでも女性は生きているようで少し動いているのが見える。さらに、ザクザクしている男性たちは相変わらずとても厭そうな表情で行っていた。
 それから大学生になりそこでまた夢に変化が起きた。それは、ザクザクしていた男性がザクザクしながら
「これで本当にお祓いになるのかな…」
と言い出したということ。お祓いという単語も怖いけど、そんなお祓いなんて聞いたことないAさんはその後調べてみたが、やはりそんなお祓いはなかった。Aちゃんはやはり気分の良いモノではないから大学とか休みがちではあったものの、友人はいい人ばかりでこういう話を真剣に聞いてくれたり休んだ日の代返、ノートを見せてくれたりした。
 大学二年生になり、所属していた“旅行サークル”は夜中に強行して旅行に行ってしまうようなサークルで“夢”のことで落ち込んでいてもそのテンションで元気づけられていた。ある日、同じように誘われて夜中に行くことになったが行先は「有名なところだから!!」といつものテンションで言われどこかは分からないが行くことになった。運転手は翼を授かるあの飲み物を飲んで「ちょっと時間かかるから寝ていてもいいよ」と言うのでAちゃんは寝ることに。すると、またあの夢を見てしまった。しかし、今回の夢はまたいつもとは違っていた。ザクザクしていた男が若干イライラしたような感じで
「こいつがお祓いする立場なのになんでこいつをお祓いしなきゃならないんだよ」
と言いながらザクザク…ザクザクと鍬を刺していると悲惨すぎて段々とおかしくなってきたのか別の男が笑いながら
「こいつもう体の中ほとんど膿じゃねえか」
ザクザク…ザクザク…
気が付くとAちゃんの足元まで膿が流れてきていてあまりの気持ち悪さに目が覚めた。
すると、どこかの駐車場に停まるところだった。夜も深まり運転手を休ませようということだった。その場所は、サークルのメンバー曰く
「ここら辺は冬になると一面雪景色で綺麗なところなんだって。だけど、民族学的にヤバい地域で昭和の初期位に村人が集団に刺されて亡くなってて結構凄惨な現場だったからかニュースにはならなかったらしいよ。」
何だか夢にちょっと似てるな、と思っていると外の空気を吸いたいという人、例の飲み物を飲みすぎて気持ち悪くなった運転手、ちょっと周りを見ようという人、飲み物を買おうという人…と車から出ていき中にはAちゃんだけになった。起きていても暇なので寝ようと目を閉じた。そこからの話はAちゃんは、それは夢だったと主張するが本当のところはどうだったのか…
Aちゃんの見た夢というのが、気が付いたら車から出ており先ほど通ってきた道に立っていた。
「〇〇ですー!!」
 Aちゃんに何か伝えたいのか走ってくるのが見えた。はっきりと。真夜中で真っ暗で街頭もないのに…。よく見るとその人は白装束だった。今は夏なのに夢の設定が冬なのか路面が凍結している。Aちゃんは、こけないように恐る恐る走って逃げていたが、”ソイツ”は路面状態とかお構いなしにこけながらも走りながらAちゃんに向かって何かを叫んでいた。
「〇〇ですー!〇〇ですー!!」
 逃げようにもAちゃんは転ばないように必死だけど、”ソイツ”はお構いなしだから段々と近づかれてしまって顔が見えてギョッとした。それはいつも夢で見ているザクザクされていた白装束の女だった。その女はAちゃんに報告できることが嬉しいのか満面の笑みで何かを叫びながら走ってくる。ヤバい追いつかれる…と思った瞬間、目が覚めた。

 夢でよかったと思い時間を確認すると5分くらいしか経っていなかった。車から出ていたサークルメンバー全員が車に慌てた感じで乗り込んできた。
「早く出るぞ!!早く!!」
「分かってる!慌てさせんな!!」
 何かあったのだろうと言うのは分かるが寝ていて直前まで悪夢を見ていたため、何があったかは分からなかった。運転もこれまでの安全運転とは異なり土屋圭市顔負けのテクニックで爆走していった。ある程度走って森みたいなところから街みたいな景観になりコンビニに駐車したところで、
「はぁ…怖かったぁ…こんなこと現実にあるんだな…」
「何かあったんですか?」
とAちゃんが聞くと
「あ、Aちゃんは寝てて聞こえなかった?俺ら外で休憩してたら、森の方から『お祓いは終わりました!!!』って言いながら走ってくる”何か”が見えてやばいと思って逃げたんだよ。」
 Aちゃんはその後、ザクザクしている夢を見なくなったそうです。
[終]

この話は怖い話のツイキャス"禍話"「禍話第三夜(3)」で話されていた「ザクザクのお祓い」を文章化したものです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?