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後の入居者の方が使えば良いのに、、、は通じない退去時の原状回復について

遺品整理現場での四方山話

ちょうど2月~3月は賃貸物件の退去シーズンになりますので、遺品整理の現場でも良くある疑問としての、エアコンやリフォームした浴槽などの原状回復について、市営団地を例に書いてみたいと思います。

市営団地に限らず一般の賃貸物件でも同じ取り扱いのケースが多いと思いますので、「なんでそんなもったいないことをするんだろう?」と、一般の方からすると不可解な点が多い賃貸物件における退去ルールについてです。

なんでこの話しを書こうかと思ったのかという少し前に実施した遺品整理です。一件は死後事務受任で行った市営住宅の遺品整理で、もう一件は成年後見人の先生からご依頼で行った市営住宅の退去に伴う室内整理を行ったことがきっかけです。

遺品整理に限らず、通常の退去の場合でもそうですが、市営住宅の退去の際は一般の賃貸住宅と違って国土交通省のガイドラインに沿ってすんなり退去立ち合いが終わるケースがほとんどです。

ただ、すんなり終わるようにするのにはもちろんちゃんと「原状回復」を事前に行っておく必要があります。

別段難しいことを言われる訳でもなく、基本的には

・「部屋の家財を全て出す」
・「棚やエアコンなど入居後に設置した機器などは取り外す」
・「最後に掃除をする」

と当たり前のことをするだけです。

ふ~ん、まー、当然だよね。と思われることでしょう。

しかし、市営住宅に同居している家族なら別ですが、結婚して別の場所にマンションや戸建てなどで生活している家族にとっては「え、それ必要!?」と思われる原状回復に関する不可解な点がいくつかあったりします。

原状回復はなにも長年使って汚れた壁紙や床材を新品に取替えろ!というものではなく、基本的には上で書いたような、荷物を出して、後から取り付けた物を外し、簡単に清掃さえすれば問題ありません。

ただ、長年住んでいた間には入居者の故意や過失で汚した部分や壊した部分なども出てくるでしょうから、そうした部分はお金で清算するということです。

では、話しを戻して市営住宅の退去の際によくある「え、それ取り外さないとダメなの?」の代表的な物をご紹介します。代表例としては、

・エアコン
・インターホン(モニター付きに変更しているような場合)
・網戸(残しておいてもOKとなるケースは多い)
・BSアンテナ
・浴槽、風呂釜
・ウオシュレット
・カーテンレール

運営する行政地区によって多少内容は変わりますが、ここら辺の内容はどこの市営住宅でも、原状回復の際は取外しを要求される部分かと思われます。

ただ、遺品整理などを行うタイミングによっては、「エアコンは昨年新品に交換したばかり」や「介護に必要だから浴槽を新しくした」など、設備がほぼ新品の状況で遺品整理などを実施するケースもあったりします。

エアコンなどは新しければ家族の家の古いのと交換ということもできるでしょうが、浴槽ともなるとまず流用は難しいこととなります。(同じ団地内に家族が住んでいるなどなら別ですが)

例えば、このような昔ながらのバランス釜は市営住宅で良くみかける設備です。

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ただ、長年使用していると当然バランス釜自体が故障したり、動きがおかしくなってきたりしますし、なにより釜がある分浴槽が狭いという難点もあります。

ですので、下のようなタイプにリフォームするケースも珍しくありません。

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(死後事務委任契約に基づきで整理した名古屋市の市営住宅)

浴槽も広くなり、介護用に手すりなどをつけて利便性がアップしているのは一目でわかりますよね。なにより、工事してから2年程しか経っていませんので、非常に綺麗です。

でも、市営住宅を退去するにあたってもこの浴槽も元に戻さないといけません。

「え、古いバランス釜の状態に戻すの?」と思われるかもしれませんが、そうではなく、多くの市営住宅でバランス釜が設置されているような物件での原状回復とは下のような状況です。

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そう、何も無い状況が原状回復となります。(本来は手すりも撤去するのですが、管理事務所に相談したところ、手すりはそのままで大丈夫とのことでしたので、そのままにしてあります。)

何も無いのが原状回復?と不思議に思うかもしれません。最近の一般的な賃貸物件の場合ならお風呂はあって当然の物という感覚でしょう。

しかし、市営住宅などの古い団地のお風呂というのは、場所だけあり、浴槽やバランス釜などは入居者が入居する際に購入して設置している「後から取り付けた設備」のケースが多くあります。

ですので、入居当時に空っぽの浴室なら、退去時にも浴室は空っぽにして返すのが原状回復となる訳ですね。

ただ、上で書いたように遺品整理や退去のタイミングによっては、ほぼ新品の浴槽だったりして、原状回復とは言え、処分してしまうのはもったいないと考えるのが普通ですよね。

これは、浴槽の例以外にもエアコンだったり、給湯器でも同じことが起こり得ます。(次の引っ越し先はエアコン等が設備である場合など)

「別に買い取ってくれと言うわけでもないのだし、次の方が改めて高いお金出して買わなくてもそのまま使ってくれればいいよ」と遺品整理などを依頼されるご家族の方は皆さんそうおっしゃいます。

でも、いくら新しく新品同然の浴槽や釜であっても残置するのはNO!です。

もちろん、管理事務所や市区町村の考え方によっては変わることもあるでしょうが、基本的には原状回復が原則で、もともと無かった浴槽や釜(エアコン等のその他の後付け設備)を残しておくのはNGとなります。

なんでそんなもったいないことをするの?せっかく新しい設備があるんだから有効に活用すればいいじゃない?と思うところなのですが、これには貸主側としての難しい問題があります。

まず、基本的に団地などでは同じ間取りで同じ家賃ですよね。もちろん、世帯の収入状況によって減免などはあるでしょうが、ベースは一緒のはずです。

なのに、「あの部屋には浴槽や釜があったのに、私が借りた部屋には無かった!」となれば、当然不満もでるでしょうし、トラブルのもととなります。

また、入居者が入れ替えた浴槽などを残置することを無制限に認めてしまうと管理上の問題も出てきます。浴槽などは入れ替える年代や入居者の好みによって、設置される機器は千差万別となるでしょう。

そうした種類の異なる機器が入り混じってしまうと、何か故障が起きた際に管理事務所側での対処ができなくなってしまいます。

また、賃貸借の契約の基本として、入居前に設置されている機器については特約などで排除していない限り、その部屋の「設備」とされます。

そうした、貸主側が提供している部屋に備え付けられている設備が故障した場合に誰がその修理費用を負担するのかというと、基本的には貸主側となります。

つまり、貸主側には設備が故障した場合に修理する責任が出てきてしまう為、そうした余計な管理の手間や費用を負担しないようにするには、どれだけ新しくても浴槽などの残置は認めず、もともと無かった設備は全て撤去してもらう。

そして、新しく入る方は自分で設備を設置して、故障した場合も入居者が自分の負担にて修理する。とした方が、管理する側としてはトラブルも抑えられて楽なわけです。

こうした事情は一般の賃貸物件で設置した新品のエアコンなどでも生じる問題ではありますが、管理戸数の多い、市営団地などでは管理する上では例外を認めないのが一番確実な方法という訳ですね。

遺族や家族にとっては遺品整理の際に「なんてもったいないことをするんだ!」と思われるかもしれませんが、管理する側に切実な事情があるんだなとご理解頂ければと思います。

どうでしょうか?これから4月に向けて転居を予定されている方も多いと思われます。

最近は国土交通省のガイドラインなども一般に認知されており、クロスの張替えやルームクリーニング等の基準も明確になってきていますが、こうした残置物に関するトラブルは前の入居者が良かれと思ってやったことが、トラブルとなってしまうこともありますので注意が必要ですね。

遺品整理や死後事務に関するご相談は名古屋の第八行政書士事務所までどうぞ~。



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