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株主総会でキャリアについて考えた

毎年6月に行われる株主総会が、今年も終わった。

招集ご通知を発送、総会で事業の状況を報告。株主に議案の決裁を仰ぐ、という例年と同じ流れではあったが、いくつか今年は新しい取り組みがあった。

招集通知、動画配信、そして私のこと。

まず招集ご通知の内容がこれまでより情報量が多いものになり、レイアウト変更もあって分厚く大きくなった。

ご存知ない方もいるかもしれないので解説しておくと、招集ご通知とは、会社が株主総会を開催するにあたり株主に送付する書面で、株主総会が開催される日時や場所、議題、提出議案などを記載して、参加と議決権行使を促すものだ。年に一度必ず株主に送付するものなので、対株主コミュニケーションのツールとしても、とても大事なものでもある。

2013年マザーズ上場後初の総会時は、慣れない中、最低限度の情報量で招集ご通知にまとめあげるだけで精いっぱいだった。招集ご通知は法令に則って作られるもので、中身そのものを確定するまでには、決算があり、監査があり、議案の検討・作成があり、取締役会があり、と、制作以外の前工程が多くある。2017年の東証一部への市場変更を機に、中身を拡充したいと思ってはいたが、情報量とデザインを変えるとスケジュールがぐっとタイトになることもあり、なかなか手を付けられなかった。そこに、昨年発足したIRチームメンバーが「今回からぜひレイアウト変えたい」と手をあげたことで、今回変更が決まった。

小さな一歩ではあるが、これも「株主とのコミュニケーションの質を上げていきたい」という私達の想いの表れでもある。これまでとは違う、少し大きめのサイズで無事に刷り上がってきた現物を見た時の関係者の笑顔はとてもまぶしく、私も嬉しかった。他社のケースも参考にしながら、これからもこつこつとバージョンアップを重ねていく予定だ。

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もう一つは株主総会の録画動画配信だ。コロナ禍において感染リスクを避けるために、昨年の株主総会から、できるだけ郵送やインターネットでの議決権行使と質問の送付を、ということを株主にお願いしていて、会場への来場は積極的にはよびかけてはいない。

毎年欠かさず来場くださる株主、いつも挙手をして丁寧に質問してくださる株主などもおられ、1年に1度の対面機会が大切ではあるものの、この情勢下では来場を奨励しにくい。そこで今年は、株主総会の様子を録画したものをWEBで公開することにした。どんな状況でも「顔が見えること」の大切さはコロナ禍でより明確になり、昨今世の中でもテーマになってきている「株主総会完全オンライン化」においても、そのあたりは大事なポイントになるのだろう。

そして最後のひとつは、初の社内の女性取締役の登場だ。そしてそれは誰かというと私自身である。会社のトピックとは言え、半分私ごとであるこの件についてコラムに書くのはなかなか難しいのだが、せっかくの機会なので、ここからはこの新しい立場になるにあたって、今私が思っていることについて書いてみたいと思う。

運営席でも取締役席でもない場所に座る

私はいくつかの部門を管掌しているが、広報/IRも担当している関係で、株主総会の運営には毎年関わってきた。一昨年メンバーにバトンタッチするまでは当日の司会も兼務し、リハーサル時には、司会をしながらマイクで進行の指示をしたり、議長や取締役席側に説明を行なったりと、完全現場側だ。

それが今年は一転、一切の仕事から離れ、取締役候補者として株主席の最前列に座り、議事の進行を黙って見守ることになった。株主総会最後に、議長の紹介を受けて、新任取締役として株主に一言ご挨拶をする、というのがこの日の私の唯一の仕事だった。

振り返れば、マザーズ上場後初の総会はとにかく手探りのまま大手町の会議スペースをレンタルし、スタッフ総出で当日の運営をした。近い将来のデジタル化の加速を予想して、上場直後に事業構造を変えたことから、瞬間的に業績が減速した年でもあった。下方修正を出したあとに開かれたその株主総会を波乱なく終えられるかどうか、とても緊張したことを覚えている。結果的に、その事業戦略の転換はその後の成果につながったし、実際そうなると信じて経営は当時舵を切っていたわけだけれども、その日は上場したということの意味を、身をもって痛感した日として記憶に残る。

それから東証一部に市場変更し、総会の場所は都内のホテルの宴会場に落ち着いた。コーポレート部門横断で組成される総会プロジェクトチームも、取締役や監査等委員との討議、試行と反省を繰り返しながら回数を重ね、コロナ禍での対応にもみなやっと慣れてきた、そんなタイミングでの取締役人事。

例年と同じように設営された会場の中、運営でも取締役でもない席にひとり座り、会場でスタッフが働く様子と議長による議事の進行を眺めながら、自分が現場から離れていく一抹の寂しさと、ここから始まる新しい役割への責任感が共存する、不思議な感覚を味わった。

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大事なのは互いの信頼と粘り強さ、そして「機会」

私が選任された理由は、招集ご通知に書かれている通り、広報、IR、人財採用および育成のキャリアにおける経験と知見、そして幸運にも恵まれてきた多様な事業経験にあると認識している。加えて今の時代においては、女性であることで期待される「社会的役割」というものも自然についてくる。

ジェンダーレスが叫ばれる社会にあっても、招集ご通知の女性取締役候補者の名前の下には敢えて「女性」というタグがつく。要は、それくらい世の中では経営の世界において女性が少ないわけで、企業の姿勢としてもその事実から目を背けずにいることが、社会的責任としてとても大事なのだということは、自分がこの立場になってみて、改めてよくわかる。

調べてみると、コーポレート・ガバナンス助言会社の「プロネッド」の調査(2020年7月)によれば、東証一部上場企業における女性取締役は1,354人、さらに社内登用の女性取締役は231人ということだった(※)。当時東証一部上場企業の全取締役総数は19,250人ということなので、正直、これはなかなかインパクトのある数字だと驚く。(※出所:日本経済新聞

経営におけるダイバーシティの確立を目指すという意味で、取締役の女性比率というのは大事だが、経団連が「企業の女性取締役比率を30%にしよう」と会員企業に掛け声をかけてはいるものの、急に人数増やすのはそう簡単なことではないだろう。社外女性取締役に多い弁護士、公認会計士、大学教授といったプロフェッショナル職の人数も限られているし、取締役として責任を持てるとされるまでの執行経験を積み続けた人を、自社内にいったいどれくらい育成できるのか、ということ自体、常に本質的な論点としてあるからだ。これは、もはやジェンダー関係ない話、ともいえるのかもしれない。

特に社内の女性取締役キャリアは、経験者・新卒問わず、一人ひとりのライフサイクルを追いながら機会を豊富に提供し、事業運営と執行の中でマネジメントを含む多様な経験をさせて、と、それなりの時間をかけて醸成していくことが求められる。一方の本人も、自分の能力と可能性を信じ、自分が属するコミュニティや組織、そして自分をとりまく社会を信じ、様々なライフステージを乗り越えながら機会を掴み、たゆまず前進し続ける胆力がいる。組織と本人の互いの信頼と思いの共有、そして粘り強さがあって初めて結果が最後ついてくる。そういう時間軸でもあるのだと、自らを振り返って思う。

かくいう私自身はというと、これまで「女性だから」「女性ならでは」という言葉、感覚、思考を持つことに対して違和感があり、できることならその議論には直接関わりたくないという想いも正直あった。多様性の中で、常にひとりの人間として思考し行動したいという気持ちが人一倍強かったのだと思うが、ありがたいことに、結婚しても出産しても(そして後に離婚しても)上司や周囲は常にそのように私を扱ってくれた。自分の任務に集中して価値創造に専念してきたからこそ、今日まで自然体で仕事を続けてこられたのだとも思う。

しかし、今回の選任を受けて、その「女性云々」に対するザワザワした気持ちが溶けてなくなるように透き通っていったのは、正直自分でも驚いた。おそらく、組織のため、社会のため、そして新しい時代のために職務を全うするという使命が、会社における新たな役割と共に、空から大きな音をたてて降ってきたからなのではないか、と想像する。

要するに「立場が人を創る」というのはこういうことかと、身をもって認識すると同時に、成長の機会を与えられるということの大きな意義を、改めて思う。粘り強くここまで私と付き合ってくれた数々の上司、そして私を力強く支えてくれたメンバーや仲間、これまでお世話になったきた多くの方々には、感謝の言葉しかない。そしてこれからは、私がそうしてもらってきたように、自らの成長を加速させる機会を、より多くの人が享受できる環境を創りだすことが、これからの私に課せられたひとつの責任でもあるのだろう。

変化の波を楽しみながら、シグマクシス第3ステージへ

シグマクシスは来る10月1日に、持株会社体制に移行する予定だ。現在のシグマクシスが持株会社となり、株式会社シグマクシス・ホールディングスに社名を変更して上場を維持。その下に、コンサルティング事業を担う100%子会社、投資事業を担う100%子会社の株式会社シグマクシス・インベストメントなどが配置される。

これまでコンサルティングx事業投資というハイブリッドビジネスを一社で手掛けてきたが、コンサルティング能力と投資能力を各社でより一層向上させ、それを組み合わせることで、グループとしての価値創造力の向上を図るのが狙いだ。設立から上場までの5年が第1ステージ、上場してからこれまでの8年が第2ステージとするならば、10月1日以降は、社会の変化を促すデジタル・トランスフォーメーションを本格的に加速するための第3ステージとなる。

シグマクシスの創業とiPhoneの登場は、ほぼ同時だった。デジタル化の波が社会のあり方をものすご勢いでひっくり返していくこの10数年の中で、リーマンショックに直面し、東日本大震災に見舞われ、復興10年のタイミングで今度はコロナ禍に襲われた。そのたびに世界と社会は激震し、私たちもその例外ではなかったが、どんな時も自分たちらしさは失わずにここまで来たという自負はある。

大事なことは、社会変化を見据えながら、価値創造に向けて自らも大胆に変化し続けることを恐れないこと、そしてどうせやるならその変化を楽しむことだと思う。その姿勢をこれからも貫きながら、”Create a Beautiful Tomorrow Together" というビジョンの実現を目指す、それが私達のチャレンジだ。私も新たな立場で、しなやかに自分らしさを失わず、シグマクシスの成長にむけて貢献をしていこうと思う。

なお、公式ノートマガジン「別冊トゥモロー」での私のコラム連載は、これで最終回としたい。今後、別のメンバーが引き継ぐのか、あるいは別マガジンを立ち上げるのかは、今後検討した上で会社として新たな情報発信をしていく予定だ。

1年間読んでいただいた皆様に心から感謝申し上げたい。

そして、これからもシグマクシスをよろしくお願いいたします。

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(取締役・C&C/内山その)

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