山中有監督が語る「WHAT’S A GOOD PHOTO TO YOU?」の舞台裏
2023年6月24日、山中有監督が手掛けたSIGMAの新しいブランデッドムービー「WHAT’S A GOOD PHOTO TO YOU?」の一般公開を前に、ユーザーの皆様をお招きしてSIGMA本社で先行上映会を行いました。
会場には監督ご本人も駆けつけ、SIGMA代表 山木が進行役として上映後にトークステージを実施。映画制作の舞台裏についてお話頂きました。
今回のnoteでは、トークイベントでの内容をレポートします。
読めば映画がさらに楽しめますよ!
映画本編は以下の特設ページからご覧ください。
山中有監督×SIGMA山木 トークステージ
山中有監督とSIGMAの11年
山木:今日はお忙しいところ、週末の貴重な時間を使って弊社までお越しいただきありがとうございます。素晴らしい作品をご覧いただき、この週末が少しでもいい時間になればと思っております。
監督の山中有さんです。
山中:ご覧いただきましてありがとうございました。
山木:これから山中さんに今回の映画制作の裏話などを伺っていきたいと思いますが、はじめに当社と山中さんの関係について簡単にご紹介させてください。
山木:ご覧の通り、2012年からずっと山中さんに映像制作をお願いしてきました。当社の会津工場のムービーを作っていただいたのが最初ですね。
六本木のミッドタウンに21_21デザインサイトという美術館があり、そこでテマヒマ展〈東北の食と住〉という展示をやっていたんですね。東北の職人さんをフィーチャーした展示で、最初に入るとまずムービーが流れていたんですが、その作品を作っていたのが山中さんで、その映像の素晴らしさに感動してしまったんです。そこで、ぜひうちの工場のムービーも撮ってくださいとお願いして、そこからのお付き合いです。
結果として想像以上の作品を作っていただいて、私も嬉しかったですが社員も非常に喜びまして、それで調子に乗ってチャプター3まで作ってもらいました。
同時に製品を紹介するムービーも作っていただきながら、2016年に「blur」という初めてストーリー性のあるショートムービーを手掛けてもらいました。撮影はロサンゼルスでしたね。さらに2020年「しんしん」という、今度は日本を舞台にしたショートムービーを作っていただいて、そして今回の「WHAT’S A GOOD PHOTO TO YOU?」が最新作ということになります。
面白いのが、「blur」も「しんしん」でも“ダメな親父”が出てくるんですね。BMWのブランデッドムービーでも監督をされていたのですが、これもダメな親父が主役で。
山中:そうですね(笑)なぜダメな親父が毎回出てくるのか……自分がダメな親父だからなのかもしれないですけど、理由はわからないですね(笑)
山木:みんな非常に味のあって良いキャラクターなんですけれどね(笑)山中さんが手掛けたショートムービーは、当社のウェブサイトやYouTubeでご覧いただけますのでぜひご覧いただければと思います。
SIGMA自身が「いい写真って何だろう」と自問自答しながら伝えている姿を見てもらいたかった
山木:それでは「WHAT’S A GOOD PHOTO TO YOU?」についてのお話に移りましょう。
今回も山中さんからご提案いただいた企画だったのですが、制作の背景やどういった発想で生まれたのかを教えていただけますか。
山中:そうですね。はじめに山木さんから何か新しい映像を、というご依頼をいただいたんですけれども、内容はお任せしますというふうに仰っていただきました。
普段企業さんからご依頼いただくときは、そんなざっくりしたオーダーはないんですよね。だいたい「うちはこういう会社で、こういうところを訴求してほしい」とか「こういう商品があって、ここがいいので訴求してください」とお願いされることが多いです。なので、山木さんからの依頼はすごく特別で。お任せいただいてとてもありがたいと感じる一方で、そうなると私もすごく迷うんですよね。
基本的に、企業さんは「自分たちはこういういいものを作ってる、こういう風に社会に貢献したい、こういう未来を作っていきたい」といった、自分たち側からのメッセージを発することが多いんですよね。
例えばSIGMAの場合だと、「このレンズを使えばいい写真が撮れますよ」と言うのは簡単なんです。でも逆に、「そもそも、いい写真って何ですか」という風にユーザーの方々は思うと思うんですよね。その答えも人や国、文化によっても違うし、それこそ所得によってももしかしたら違うかもしれなくて。
SIGMAさん自身が「いい写真って何だろう」と自問自答しながら伝えている、その姿をユーザーさんたちに見てもらいたかった、というのがこのプロジェクトのきっかけです。
山木:なるほど。結果として「あなたにとっていい写真とは何ですか」というたった一つの質問だけでこんなにバラエティに富んだコメントが出てきたということに、本当に驚きましたね。
もともとこの企画は、大体10分から15分くらいのショートムービーを作りましょうという話だったのですが、いろいろな方に取材していく中で山中さんが乗りに乗っちゃって。全然納品してくれないんですよ(笑)期間も最初半年くらいでやる予定だったのが1年経っても納品してくれなくて。しまいには「30分以上になってもいいですか」と。
「いいですから好きにやってください」とは返したんですが、正直言うと、30分以上「あなたにとっていい写真って何ですか」と聞いて答えるだけの映画を最後まで見てもらえるんだろうか、という一抹の不安はありました。ところが、それが見切れるどころか、もっと長くてもいいと感じるほどで驚きました。
山中:僕も最初は、やっぱり15分から20分くらいが限界かなと思っていたんですよね。こういったスタイルのドキュメンタリーってあまりないですし、こういう風に人が喋ってるだけの映像って一番眠くなるんですよ。無理だろうなと思っていましたが、実際撮影してみると予想以上に色々な答えが返ってきて。それでやり始めたら面白くなってしまい、皆さんにご迷惑をおかけすることになるという……
山木:足掛け2年ぐらいかかりましたよね(笑)
山中:そうですね、本当にすみません……(笑)
「写真は人を傷つけることがある」、でも同時に「奇跡」でもある
山木:著名な方から一般の方まで色々な方にインタビューをされましたけれど、特に印象に残っている方や、印象に残っているコメントはありますか?
山中:そうですね。やはり自由にやっていいと言っても、企業プロモーションの一環なので、あんまりネガティブな答えは避けようかなと思って外したところもあります。
ただ、1度外した後に復活させたカットがあって、それは中学生の男の子の「写真は人を傷つけることがある」というコメントなんです。まさに現代的な話なんだろうなあ、と思っていて。今は誰でも、いつでもどこでも小さなスマホのカメラで撮れる時代になって、その中で今の中学生がそういうこと言っているということが僕はすごく印象的だなと思い復活させました。
山木:今回は著名な写真家の方にもご登場いただきましたが、改めて伺って何か感じたところはありましたか?
山中:そうですね、特に上田義彦さんと藤井保さんは、写真の世界では大御所の方々ですよね。例えば無印良品の写真を撮られていたり、素晴らしい芸術作品や写真集をいくつも出版されている。
山木:映画の中で藤井保さん、上田義彦さんも「写真は奇跡みたいなものだ」といったことをおっしゃっていたのがとても印象的でした。プロの写真家の方であれば、自分の意図で作り上げているのかなと思っていたのですが、その中でも思いがけない瞬間に予想や想像を超えたものが撮れる、そこに写真の素晴らしさがあるというようなことを仰っていたのが意外だなと思いましたね。あの境地まで行くとそういう感じになるんだなと。
山中:僕らが見えていない世界が見えているんだろうなと思いますよね。でも同時に、「奇跡」という言葉は正に本質なのかなという気もしました。
山木:山中さん自身は映像を主に撮られていますが、そのように感じられた場面は今までの経歴でありますか。自分の意図した以上の何かが撮れてしまったような、そういう奇跡を感じるような瞬間というのは。
山中:今回はまさに奇跡を感じる撮影でしたね。それこそ、撮影初日で1人目か2人目にインタビューした方が「僕、写真撮るの今日が初めてなんです」と仰っていて。本当に先週レンズが届いたばかりだと言うんです。そんな方にいきなり会うんだと思って、すごくびっくりしましたね。
山木:それも奇跡みたいな感じですかね。
山中:そうですね。もしかしたら映像も奇跡の連続なのかもしれません。そうすると、そういった奇跡を呼び込める人でなければ結局良いものを撮れないのかな、というような気にさせられる時もありますよね。
河川敷や街中の老若男女100名以上へインタビュー
山木:今回のロケでは河川敷や街中など、いろいろな場所で撮影されたと伺っていますけれども、とりあえず出会った方全員にどんどん声を掛けるという方法だったんでしょうか。
山中:僕はそこまでだったんですが、スタッフがすごく頑張ってくれて。いろんな人に……いわゆるもうナンパみたいな形ですよね(笑)とにかく老若男女に声をかけるんですが、やっぱりほとんど断られるんです。その中でもOKしてくれた方々を撮影させてもらいました。
山木:よくご協力頂けたなと思うし、よくこれだけいろいろな経験や思いを持ってる方にこんなに出会えたなというところにも驚きました。
山中:ドキュメンタリーは撮ってみないと分からないところがあるんですが、やってみたら本当にうまくいったなというか、写真に対する思いってみんな持ってるんだなと思いましたね。
山木:今回かなりの量のインタビューをされていて、だいぶ切り詰めたり割愛したりして35分に収めたと伺っています。映画としてはこれで完成だとしても、入れたかったシーンもまだあったりするんですか。
山中:そうですね。インタビューした合計が100人ぐらいで、映像で使っているのは40人ぐらいなんですけれども、やはり採用されなかった映像の中にも素晴らしいお答えもいっぱいありました。本作では齋藤陽道さんというフォトグラファーに出演頂いたのですが、彼に関しては、家庭で過ごしている様子やお子さんを連れて写真撮影に出かける様子だとかも収めていて、それもかなり素晴らしい映像だったんですけれども泣く泣くばっさりカットしています。
山木:その泣く泣くカットされた映像も見てみたいと、今日お越しの皆さんも思われたんじゃないかなと思います。続編とは言わないけれど、もしかしたら……ということもあるかもしれませんよね。
山中:そうですね。また再編集というかディレクターズカット版といったものにトライしてみても面白いのかなという気持ちもあります。
山木:楽しみにしています。
撮り終わって思うのは、心が動く瞬間にシャッターが切られるんだなということ
山木:写真や映像に関わる仕事をしている中で、こういった映画作品が生まれることについて社員や私も非常に嬉しく思い、同時に感謝しています。SIGMAは小さい会社ながら、写真文化に少しでも貢献できないかという思いでこういったプロジェクトを時々行っているんですが、期待以上の素晴らしい作品を今回も作っていただき本当にありがとうございました。
山中:そう言っていただけると本当に光栄です。
山木:当社はメーカーですので、まずものづくり、いい製品を作って写真や映像で表現をする方たちに貢献していくことが大前提にはなります。そこに併せて微力ですが、少しでも写真や映像そのものをいいなと思ってくれたり、あるいはそのことによって人生や生活に彩りが加わるようなこと、そういったことに少しでも貢献できればなと思っています。
山中さん、最後に何か皆さんへお伝えしたいことはありますか。
山中:この作品を撮り終わって思うのは、やはり人の心が動く瞬間というものが人生の節々にあって、その瞬間にシャッターが切られるんだな、ということをつくづく感じましたね。それは本当に人それぞれ様々なシーンがあると思うのですが、それが今回の一つの大きな収穫だったのかなと思います。
山中有監督作品
ショートムービー
WHAT’S A GOOD PHOTO TO YOU?(2023年)
しんしん(2020年)
blur(2016年)