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「『ghostpia』を制作者と一緒に語りつくす夜」 超水道ミタヒツヒト氏インタビュー

『ghostpia』を制作者と一緒に語りつくす夜
 超水道ミタヒツヒト氏インタビュー

サムネイル制作:canavis(アンビエント音楽家)

参加メンバー(順不同敬称略)
SIGH(ゲームライター)
みお(ゲームライター)
カワチ(ゲームライター)
庵野ハルカ(兼業ブロガー)
スーさん(ゲームクリエイター)

スペシャルゲスト
ミタヒツヒト氏(超水道

2023年7月22日にゲームライター・カワチ氏のYouTubeチャンネルにて、『ghostpia シーズンワン』の内容を、制作者の超水道ミタヒツヒト氏とともに語り合う番組「『ghostpia』を制作者と一緒に語りつくす夜」が配信された。そこでは初出しとなる開発の裏話や演出意図、ミタヒツヒト氏の原点となるカートゥーンに対する愛などが語られている。

本記事は貴重な話をお聞きして、動画としてだけではなくテキストとしても残すべきだと感じた結果、参加者の1人として配信を文字起こししたものだ。テキスト化する上で放送の雰囲気や会話の流れを反映し、あえて話し言葉のままにしている箇所も存在する。読みやすいように発言を削り再構成した部分も多いが、ミタヒツヒト氏をはじめとした超水道メンバー様や、参加者にテキストの監修を受けたものであることをご留意願いたい。そして目と耳で受け取る情報の印象は異なるため、こちらのテキスト版だけではなく、配信動画版もぜひチェックしてほしい。

カワチ
今回はいつもの感想会と見せかけて特別編で、題して「『ghostpia』を制作者と一緒に語りつくす夜」です。今回は元々2014年にアプリで発売され、今年Nintendo Switchでリメイク版が発売された『ghostpia シーズンワン』という作品がありまして、自分のサーバーにファンが多いため製作者のミタヒツヒトさんお呼びしつつ、質問していければと思っています。よろしくお願いいたします。まずは参加者の自己紹介から始めたいと思います。

カワチ
ライターの「カワチ」と申します。『ghostpia』はゲームメディアのGamerさんでミタさんにインタビューをさせていただき、縁ができた関係で今回色々と聞いてみたいと考え、個人配信の方にお呼びしてお話ししようと思った次第です。超水道さんはアプリ時代からプレイをしているファンで、『ボツネタ通りのキミとボク』という、さまざまな作品で没になったキャラクターが集まる街を舞台にしたストーリーが独創的で、こういう作品を作るところがあるんだと思って、 それからずっとファンで追いかけています。

SIGH
ゲームライターの「SIGH」と言います。主にノベルゲームやアドベンチャーゲームなどを中心にプレイしています。超水道さんの作品は自分のスマホがandroidなので、ノベルスフィアというWEBサイトで過去作をプレイしました。『ghostpia』もそのサイトにあったのですが、存在を知ったときにはすでに移植作業に入られているということで、今回のNintendo Switch版を待っていました。

スーさん
「スーさん」と申します。カワチくんとは専門学校時代からの友達で、長い付き合いです。コミュニティで話題になっていた『ghostpia』を自分も遊ばせていただき、すごくよかったです。今回はミタさんもいらっしゃるということで、いろいろとお話も聞けたらなと思って楽しみにしております。仕事はゲームの開発をしております。よろしくお願いします。

みお
ゲームライターの「みお」です。『ghostpia』のことは恥ずかしながらNintendo Switch版が発売した頃に知り、プレイしたのはもう少し後なんですが、それを後悔するぐらいにはいい作品でした。

庵野ハルカ
「庵野ハルカ」です。カワチさんのチャンネルでも割と出演させていただいてますが、普段は「game game」というゲーム好きのコミュニティで配信をしています。『ghostpia』はモバイルアプリ版の最後あたりの更新時に知りました。そのため超水道さんの過去作をあまりやれてないのですが、これからやっていきたいなという気持ちでいっぱいです。よろしくお願いします。

カワチ
では、ミタさん自己紹介のほどよろしくお願いします。

ミタヒツヒト
放送に呼んでいただき、ありがとうございます。超水道というチームで『ghostpia』を制作しました、「ミタヒツヒト」です。よろしくお願いします。

カワチ
まずは、『ghostpia』の作品紹介から入ります。『ghostpia』は幽霊と呼ばれる人たちが住む、ずっと夜で雪が降っている街を舞台にした作品です。 その街の異邦人である小夜子というキャラクターが主人公で、不思議なヨルという女の子に出会うというストーリー。小夜子はこの街を出て故郷に帰りたいと思っており、街には謎のロケットが落ちているなどのいろいろな秘密が存在し、これはなんなんだろうといった感じの謎もたくさんあります。

カワチ
自分が本作をプレイして驚いたのは、やはり演出がすごいことで、文章というよりはアメコミを読んでいる感じで楽しめる作品です。ノベルゲームは簡単に作れるからという理由で制作される方もいらっしゃると思うんですが、ここまで演出に労力をかけてくれたのが、それだけでうれしいというか評価したい部分です。

庵野ハルカ
絵的なアイデアが豊富なのが印象的でしたね。スプリットスクリーンや水玉コラなどが出てくるんですよ。

カワチ
バイオレンスな要素もありますよね。

みお
やわらかくてかわいらしいイラストやミタさん独特の語り口で、一見優しい印象のゲームに見えるんですが、そのなかで強烈な暴力が出てくるのが、本作の特異性を際立ててるんじゃないかと思います。最初のクラーラをぶん殴るシーンで、このゲームにときめきました。

スーさん
『ghostpia』は最初雰囲気ゲーかなと思っていましたが、実際にプレイするとギャップがあり、テキストに味があって引きつけられました。絵と演出との絡み合いも相まってですが、アドベンチャーゲームは書き手のセンスが如実に出ると思うので、 ミタさんの描く世界観を楽しみながらプレイしました。海外のアニメとかであるようなブラックジョークのさじ加減や、テンポ感も含めて楽しかったです。

カワチ
まずは、以前ミタさんにインタビューしたとき、『ダブルキャスト』が一番思い出に残っているゲームというのをお聞きしたので、その部分からお聞きしたいです。

ミタヒツヒト
小学校1年生のときに『ダブルキャスト』が家にあって、ヒロインにスリーサイズを聞く分岐が最初の方にあるんですよね。それで親に「スリーサイズってなに?」と聞いてしまい気まずくなった記憶があります。親にまだ「それを知らなくていい」と言われて、教えたら周りで言うからコイツはと思われてたんでしょうね。そんな思い出があります。

カワチ
ミタさんが影響を受けたのは、『ダブルキャスト』のようなゲーム以外だと、作中での暴力描写みたいなものはアメコミからでしょうか?

ミタヒツヒト
コミックというかアニメですね。コミックの翻訳本は高くて、子供では手が出なかったですね。代わりにケーブルテレビで「カートゥーンネットワーク」があり、それをずっと見ていました。その頃よく見ていたのは『おくびょうなカーレッジくん』という作品です。この世の果てみたいなアメリカの農場に住んでる老夫婦がいて、 そこにはロズウェルしかり、宇宙とか地底などからさまざまなオカルトがやってきて、老夫婦になぜか襲いかかるんですけど、そのことに唯一気づいている臆病な犬がなんとか退けていくという話です。

ミタヒツヒト
その臆病な犬が「カーレッジくん」という名前で彼のビビり芸を見て笑いつつ、心優しい犬なのでたとえば宇宙からやってきたエイリアンは、実は母星では落ちこぼれで心に深い傷を抱えていたら、一緒にその傷に寄り添ってあげます。あとは地球がぐるぐる回った拍子にバナナが支配する未来世界に行って、地球を逆回転して戻ってくる展開もありますね。 なにを言っているかわからないと思うんですけど、そういった自由なアニメがあって『ghostpia』も影響を受けていると思います。

カワチ
『ghostpia』はノベルゲームの文脈とは違う文脈で作られているのかなと感じたので、 海外のアニメと言われたら少し納得ですね。

ミタヒツヒト
親に「お前はオタクにならないように育てる」と言われていたんです。それで日本のアニメや深夜アニメはあまり見せてくれない家でしたが、カートゥーンは対象外だったんですよ。

スーさん
『サウスパーク』は見ていましたか?『ghostpia』のバイオレンスだったり、ノリがぶっ飛んだコミカルだったりするイメージは『サウスパーク』風かもしれないと思いながらプレイしていました。

ミタヒツヒト
子供の頃は見てなくて、大人になってから見ましたね。ああいったぶっ飛び方は、海外アニメによくある飛び方だと思うので、たとえばケニーが毎回死ぬ展開は『ghostpia』にも繋がっていると思います。

カワチ
それでは質問に入りましょうか。今回は進行を区切りたいと思っていて、まずは音楽やシステム面を含めた作品全体や世界観に関してお聞きして、その次に具体的なストーリーとキャラクター。そして最後にミタさん自身のことや制作論、次回作についてお聞きしていく流れでやっていこうかなと思います。ちなみに、ここからは完全に『ghostpia シーズンワン』のストーリーのネタバレもありでいきますので、まだプレイしてない人はクリアしてから聞いてもらえればと思います。


庵野ハルカ
街の広場にミサイルが刺さっていますが、あれはすごくこの作品を象徴する存在だなと思っています。ミサイルが刺さったまま不発弾になっている状態で爆発するのかしないのか、『ghostpia』の暴力性を秘めた静けさという側面を象徴する存在だと思います。そして似たモチーフをギレルモ・デル・トロ監督の映画『デビルズ・バックボーン』で見たことがあるんです。スペイン内戦の頃の孤児院を舞台にしていて、中庭の広場に不発弾が刺さっているんですね。この映画にも幽霊が出てくるので内容的には若干シンクロしていると思ったんですが、この映画はご覧になったことがありますか? 

ミタヒツヒト
その作品は見たことはないですが面白そうですね。どちらかというと『Fallout 3』のメガトンに似ていると、プレイヤーの方に言われたことがあります。ただ舞台が雪が降っていて閉鎖的な教会がある街ということで、『ghostpia』の企画の最初期段階に映画版『サイレントヒル』のDVDを、グラフィッカーの山本すずめくんに渡して見てもらった記憶があります。

SIGH
2014年の『ghostpia』初リリースより10年ほど、2018年の第四話からSwitch版で追加された第五話が世に出るまで5年ほど経っていますが、そのなかでシナリオを変更したり、ミタさんが『ghostpia』で描きたいものの変化があったりはしていますか?それともシーズンツーの最後まではじめから構成されているのでしょうか?

ミタヒツヒト
シナリオのプロットは最後まで用意していますが、やはり制作しているなかで、所々の描写などで僕の書き手が変わったなと思うところはありますね。たとえば文章の自力については、これだけ時間がかかっているわけですから、多少なりとも文章のレベルが上がらないと成長のない人間になってしまうので、上手くなる分にはいいのではないか思います。それによって細部が変わる部分はあると思いますが、プロット自体を動かす予定はないです。

カワチ
全体のプロットやオチは、いつ頃から完成していたのでしょうか?

ミタヒツヒト
10年ほど前に企画を出して、超水道でやろうと言ったときからオチは決まっています。ストーリーを書き進めるなかで、ここでこういう要素を書いたからここと繋げていけるよねと、少しずつ内容を太らせることはありますが、オチは近所のジョナサンの明け方に、超水道メンバーへ話したプロットのままになっています。

スーさん
プロットの話が出たので私もよろしいですか。漫画家が作品のなかでキャラクターが1人歩きをして、いい意味で作者を裏切ってキャラクターそれぞれが自由に動きだすと言われる方がいらっしゃると思います。ミタさんは各キャラクターのテキストを書いてるなかで、プロットの流れは変わらないけど、細かい部分で自分の想定と違う動きをしていると感じたキャラクターはいましたか?

ミタヒツヒト
いわゆるキャラクターが勝手に喋り出すやつですよね。そういうことはあまり僕にはなくて、そうなる人が羨ましいんですよ。想像力や出力がやや乏しいせいなのかもしれないですね。ただ小夜子の地の文はなるべく決められたテキストをただ書いているというよりは、 思考の流れをそのまま反映させることを心がけています。それが「キャラクターが勝手に動きだす」現象に近いのかもしれないですが、 僕はキャラクターをプロット通りに魅力的に書くことで、いっぱいいっぱいかもしれないですね。

スーさん
ミタさんの場合は、設定を含め事前に決めてるプロットに沿って執筆されているのですね。たとえばですがバトルやスポーツを題材にした漫画家が、「キャラクターが勝手に動きだす」と、インタビューなどで話すのをよく見かけます。

カワチ
筆が乗ってくるというか。『ghostpia』ではバトルシーンもありますが、その部分はいかがですか?

ミタヒツヒト
バトルは基本的に、僕が書いた流れを絵にしてもらうというイメージなので、書きたいように書かせてもらっています。だからグラフィッカーは結構困っていると思います(笑)

スーさん
それではバトルシーンは絵コンテのような形で、こういう感じにしてほしいというイメージもセットで書かれる感じでしょうか?

ミタヒツヒト
そうですね。コンテも必要に応じて、こういう構図にしてほしいと作ることはあります。ただ基本的に超水道は紙文化で、シナリオを紙にすり出したり、PDFにしてiPadの赤ペンで書き込んだりしながら、山本すずめくんと2人でずっと話し合ったりします。だから顔合わせてひたすらマンツーマンで制作するというイメージですね。

庵野ハルカ
それではシナリオを書きながら、絵も同時並行で進むのでしょうか?

ミタヒツヒト
本当はシナリオが先にできてた方が、絶対絵を描く人はうれしいと思うんですが、 なかなかそうもいかず……。ただ最低限の流れと、「ここはこうします」という指示の部分は書かないといけないので、 そういう意味でまずはシナリオがないとはじまらないイメージです。

SIGH
舞台の街の定員が1024人というのはコンピュータで使うバイト、2の10乗の数字から取っているのではないかと思ったのですが、答えられる範囲でなにかありましたらお答えいただければ。

ミタヒツヒト
昔からその点に気づいてくださる方は少数いらっしゃって、本当によく読んでいただいてありがとうございますという気持ちです。ただそれがどういう意味を持っているか、あるいはデタラメなのかはぜひ「シーズンツー」で確かめてみてくれ!(笑)

みお
ヨルは街にとっての異物のような存在のため、そのことを「1024」というコンピュータ的に綺麗な数字から1人増えるという表現で表している感じがしますよね。

SIGH
あとキャラクターの指が4本なのは、『アドベンチャータイム』などのカートゥーンアニメに影響を受けてということですが、超水道の過去作と比べていい意味で異質感が出ております。指が4本ということにカートゥーンへの意識という以外で、物語上の意味を持たせていますか?

ミタヒツヒト
4本指だとみなさん最初から気づきました?

SIGH
クラーラが指を立ててるシーンなどで、明示されていたかなという印象です。

ミタヒツヒト
たしかにあのシーンは指に目線が行くカットですよね。4本指の設定は僕からグラフィッカーにお願いをしました。意識しないとわからないですし「なんで?」と言われたんですが、「海外アニメではそうだからこういうルックにしたいです」と言って、「本当に?」と返されました。

ミタヒツヒト
海外アニメがなぜ4本指になのかは諸説あって、実際に絵として描くと4本指だと不自然な形になり、手のバランスを取るのが大変らしいですが、アニメで動いてると自然に見えるそうなんです。アニメーターとしても描く指が1本減るので省力化になり、動いてると気にならないという点で、誕生した表現なのではないかと言われています。あとは中指を立てられないようにするという説もありますね。正しいことはわからなかったのですが、止め絵のバランスを取るのが大変になるらしく、「ごめんなさい、ごめんなさい」と言いながら、『ghostpia』の作画をしてもらいました。そして4本指がストーリーに関係あるかは「シーズンツー」を最後までプレイして、意味があるのかないのかを自分の目で確かめてくれ!(笑)

庵野ハルカ
最後までこれで通されるぞ(笑)

スーさん
どうなのかは「シーズンツー」で描かれると思うのですが、今ひらめいたこととして先ほどの「1024」の数字の件と逆で、指が4本で1本足りないことと合わせて、作中で時間の感覚がないときに「9999年」と言うじゃないですか。それはつまり「1」足りていないということなので、ヨル以外の全員はなにか足りないけど、ヨルは完璧みたいなことじゃないかなと思いました。

庵野ハルカ
話は変わるのですが、序盤で小夜子の体が溶けるような表現があったことが印象的で、不死でありながら痛みを感じ、夜に行動する本作の幽霊と呼ばれる存在はヴァンパイアのようだと思いました。こうした本作独自の幽霊表現のアイデアはどうやって生まれたのでしょうか?

ミタヒツヒト
たしかにヴァンパイアみたいというのは、おっしゃる通りかもしれないですね。この幽霊のモチーフになったエピソードは実際にありまして、僕は大学生の頃にある商業作品の制作にディレクターとして参加したことがあり、バイトだったのですがなかなかに修羅場の案件でした。多分1年ほど働いて50万ぐらいしか出なかったんじゃないかな。毎日作業をしていましたし大学を休学してまで、僕はなにをやっているんだろうと思っていました。

ミタヒツヒト
そのこと自体はもう別にいいのですが、そのときはずっと昼夜逆転生活を送っていたんですよ。会議は夜にありますし冬場だったと思うんですが、日照時間が少ないので起きても起きても日が沈んでいて、夜中はコンビニしか開いてないから、ご飯買いに行っているときに、夜から出られないなと思ったんです。この「夜から出られない」という言葉が結構素敵だなと思いまして、この修羅場が終わったらイメージを膨らませて作品を作るんだと、その日のうちに山本すずめくんに話をしました。

カワチ
山本すずめさんも同じ仕事をしていたのでしたっけ。

ミタヒツヒト
そうですそうです。だから2人で50万だった説がある(笑)

庵野ハルカ
昼夜逆転していて夜しか知らなかったという生活を送っていたのを聞いて、思い出したことがあって、デヴィッド・リンチ監督が同じことをしていたみたいなんです。デヴィッド・リンチ監督といったら『エレファント・マン』や『ブルーベルベット』などの作品がありますが、監督が一番最初に撮った長編の『イレイザーヘッド』という映画があって、それを撮っている時期は昼夜逆転生活をしていたらしいんです。夜しか知らない生活になっていて、世間で起きてることも全然分からなかったみたいなことを話していて、似た体験をされてるのだなと思いました。

ミタヒツヒト
僕たちはバイトですので、デヴィッド・リンチ監督と比べると少しショボいですけど、そういうことはやはり起こりうるんですね。

みお
夜から出れないという発想が浮かぶのは素敵ですね。自分が昼夜逆転生活をしていても「寝れねぇクソ〜」としか思わないから。

ミタヒツヒト
もちろん99%は「大変なお仕事を引き受けてしまった!」と思っていましたけどね(笑)

みお
システム面の質問ですが、Nintendo Switch版をプレイさせていただいて、『ghostpia』はサウンド・テキスト・ビジュアルで一体感があると感じました。そして一体感を引き立たせているのが、ジャイロ操作でグラフィックが動いたり、テキストを送るときのHD振動の感覚だったりだったと思います。これらの機能のアイデアは、どこから生まれたのでしょうか?

ミタヒツヒト
その点はリメイクするにあたり、最初に決めたことですね。『ghostpia シーズンワン』では、『アンリアルライフ』という作品を制作されているhako 生活さんに、エンジニアとして入っていただいてます。とても技術力のある方ですがそれだけではなく、プレイヤーがどうしたら良い気分でゲームができるかという部分に非常に気を遣われる方で、素晴らしいノウハウをお持ちなんです。その方が「Nintendo Switchならこういうこともできますね」と最初期の打ち合わせで言ってくださり、どう実装していくかを一緒に考えていただいたという感じです。

ミタヒツヒト
ノベルゲームでは絵の動きのなさが、1つ課題として存在するという気はしていました。そうしたノベルゲームの持つさまざまな問題をなんとか解決したい、あるいは緩和したいと思って制作したのが、今回の『ghostpia シーズンワン』なんです。たとえばジャイロ操作で絵がゆらゆらと動くのは「パララックス」と呼んでいるのですが、映画的にカメラが手ぶれしている雰囲気になりますし、プレイヤーの身じろぎがゲーム画面に反映されるのは、スタティック(静的)になりがちなノベルゲームの画面に、ダイナミック(動的)を加えたいという意図です。

ミタヒツヒト
テキスト送り時の振動に関しては、ノベルゲームの原体験はやはりマウスをカチカチとクリックしつづけることだと思うんです。クリックというフィードバックとともにノベルゲームの思い出はあるんだという話をして、Nintendo Switchでもこうしたフィードバックが欲しいと思って作りました。フィードバックの強さも自由に調整でき、こんなものかなと落ち着くまでに何回も作り直した部分ですので、お褒めいただいてとてもうれしいです。巻き戻しもそういう流れですね。

みお
ノベルゲームは通常バックログがありますが、『ghostpia』の巻き戻しはいいですよね。このゲームは絵が毎回動くので、戻ってスクリーンショット撮り直したいときがあるんです。少し戻して撮るのをくり返してたら、フォルダが1500枚ぐらいになっちゃいました(笑)

ミタヒツヒト
バックログの一覧性も良いことではあるんですが、バックログだと演出とテキストが分離されてしまうんです。それはどうなんだろうと思っていて、hako 生活さんに巻き戻しの仕様を入れたいですとお願いをしたら、「これはかなり難しいですよ」と言われました。たとえばプレイヤーは5秒かけてスクロールをしたけど、巻き戻すときは5秒で読んだことをゲーム上でどうやって記憶しておくのかという問題があるんですが、hako 生活さんの技術力で解決していただきました。こだわった相応にお待たせしたので申し訳ないと思いますが、いい意味で変態的な機能を作っていただいたと気に入っている部分です。

カワチ
ちなみにNintendo Switch版の制作期間はどれくらいだったのでしょうか?

ミタヒツヒト
2018年にリリースされたリメイク前の第四話のときには、Nintendo Switch版について話していたので、2018年頃から動いてたのは間違いないです。

カワチ
そのときから移植ではなく、フルリメイクで作ろうというのは決まっていたのですか?

ミタヒツヒト
最初の2カ月ほどは移植でいいかなと思っていたのですが、2カ月経ったら欲が出ました(笑)

庵野ハルカ
今の巻き戻し演出にも関わる部分ですが、各エピソードのエンディングがシティポップ風の曲だったり、YouTubeのローファイヒップホップ配信ラジオを運営する「Lofi Girl」チャンネルの絵を想起させるレイアウトになっていたりします。ビデオテープのようなアナログ風味のグリッチ演出など、80年代的な雰囲気が感じられますが、こういった表現を採用しようと思った理由はありますか?

ミタヒツヒト
作中はノスタルジーが大きな割合を占めており、そのノスタルジーに真摯でいようと考えています。僕たち(超水道)は90年代ぐらいの生まれなんですが、僕たちにとってのノスタルジーはレコードでも8ミリフィルムではないんです。VHSだったりカセットテープだったりの「テープ」なんですよね。そこからブレてはいけないと最初に話し合いました。そしてノスタルジーを軸に、イマジネーションを周りに増やしていったイメージです。

ミタヒツヒト
エンディングがシティポップというのは、音楽を担当いただいた高野大夢さんからのご提案だったと思います。エンディングはフルアニメーションで、少し変なのを入れてお客さんにビックリしてほしかったんです。これも実はカートゥーンへのリスペクトで、『アドベンチャータイム』という作品がありまして、本編は電子音楽で演出もガンギマっているのですが、エンディングはアコースティックな曲で、いい歌詞が流れて草原でハチさんが飛んでいるんです。そこで強制的にクールダウンさせられて、お客さんがポカンとなるんです。それが好きで『ghostpia』でも近い演出をやりたいと思っていて、「雰囲気がガラッと違ってもいいのでどうしましょうか」と高野さんに相談したら、シティポップはいかがですかという流れでした。

庵野ハルカ
なるほど。あれはアニメ版『美味しんぼ』のエンディングのような強制的なチルなんですね。

ミタヒツヒト
そうですね。昔のアニメはそういう意味不明なエンディングが多かったですよね。

SIGH
現代音楽家の高野大夢さんに、『ghostpia』の音楽を依頼することになった経緯を教えていただければと思います。

ミタヒツヒト
高野さんは普段アクースモニウムなどを演奏し、アカデミック寄りの音楽活動をされている方で、ゲームのお仕事はあまりされないのですが、2011年頃に超水道が非常にお世話になっている方の紹介で知り合いました。少しずつ仲良くなるにつれ音楽を作っていらっしゃることを知ったり、演奏会にも呼んでいただいたりしました。ぼんやりといつか一緒にお仕事したいなと思っていたので、『ghostpia』の企画が出たときに、これはもしかして高野さんにお願いできるのではないかと考え、依頼させていただいたという経緯です。

みお
先ほど『ghostpia』はノベルゲームの問題点を解消することを目標にしたと言われましたが、キャラクターが「どうぶつの森」のようなボイスで喋るのはどういった目的で導入されたのでしょうか?

ミタヒツヒト
実はこれも経緯のある部分でして、『ghostpia』をリリースする前の超水道は、コミケにも結構出展していたんです。規模が徐々に大きくなってきた同人ノベルゲームサークルは、そろそろボイスを入れるようになって格が一段上がるみたいな雰囲気があると思っていて。超水道も次回作はフルボイスにしないのかと質問をいただくことが多く、「そうなんだ」と思っていました。ただボイスを入れるのは、音を切ったり演出つけたりして大変ですし、僕が演技指導に熱が入るタイプなので、リモートで声だけを収録するとなると多分ディレクションが難しくなると思い、ボイス実装は尻込みしてたんですよね。 

ミタヒツヒト
なによりボイスはどんなに頑張って収録しても、どんなに上手な方に演じていただいても結局は飛ばすじゃないですか。もちろん飛ばさない人もいらっしゃいますが、僕自身がストーリーの先が気になって飛ばしてしまうタイプですし、飛ばすのを想定しつつボイスを収録していただくのはダメじゃないかと思ったんです。でもボイスがあった方がリッチになり喋っている感じも出るので、どうしようと考えたのが『ghostpia』の方法でして、機械が喋っているので飛ばしても罪悪感がないと思うんです。でもこのやり方は意外と喋っている感じが出ていませんか?

みお
キャラクターによって声に個性がありますよね、それが喋っている感じをより演出しているというか。

ミタヒツヒト
個性がありつつ脳内再生できっとこういう喋り方なんだろうなと想像ができる、いい補助線だと気に入っています。こちらのシステムは最初期に山本すずめくんにプロトタイプを作ってもらいました。 機械音のボイスは「あ」「い」「う」「え」「お」「ん」の6音で作っていて、ひらがなは「あ」「い」「う」「え」「お」に置き換えて、それ以外は「ん」になっているんです。『ghostpia』のセリフって僕が漢字をひらきがちなので、なんとなく言ってることがわかりますよね。「うんうん」は本当に「うんうん」って読んでいますし、「うれしいね」も「うえいいえ」なので、プロトタイプができたときはすごくうれしかったのを覚えています。そういった経緯で良いやり方を見つけたので、リメイク版でも据え置きでやらせていただいてます。

カワチ
声優の使用はそのこと自体がウリにもなりますが、パートボイスのような方法も考えなかったのでしょうか?

ミタヒツヒト
その手がありましたね!パートボイスか~。

スーさん
個人的にパートボイスは一長一短な気がしていて、全編パートボイスだと物足りなく感じる時もあるんです。だから『ghostpia』にかぎっての話ですが、今の機械音のままの方が統一感があって違和感はないと思います。

ミタヒツヒト
たしかに今の機械音で少し人間らしくない感じは、『ghostpia』と相性がすごくいいですよね。では異世界転生や学園モノのスピンオフなどを作る際には、ぜひパートボイスで(笑)

カワチ
ドラマCDやアニメになる未来があれば(笑)

ミタヒツヒト
実はドラマCDはあるんです。以前お友達の会社のコトリボイスさんという声優プロダクションがFMラジオで番組を1つお持ちになり、「毎週流れるラジオドラマに『ghostpia』はいかがですか」というお話をいただきました。僕が中高を通して演劇部に所属していたものですから、久しぶりに人が読む台本を書けるということで、「やります!」と快諾して、オーディションから演出までやらせていただきました。

スーさん
それでは『ghostpia』のキャストはもう決まっているのですか?

ミタヒツヒト
あくまでそれはラジオドラマ版としてのキャストだと考えています。 同じキャラクターでも、別の人が演じればそれはそれでどんどん面白くなっていくんですよ。

みお
そのラジオドラマはコトリボイスさんのBOOTHで販売されてるみたいですね。

ミタヒツヒト
相変わらず治安が悪いのでぜひ。夢としてはアニメも面白いかもしれないですが、やはり僕は舞台に原体験があるので小劇場とかでやりたいですね。

庵野ハルカ
ゲームでもアニメーションを導入してる部分がありますが、全て内製されているのでしょうか?

ミタヒツヒト
99パーセント内製ですね。2人のスタッフで作っています。

庵野ハルカ
エンディングもですし、エピソードが後半に入るときのアイキャッチもですか?

ミタヒツヒト
そうですね。ルパン三世の話をしながら、アイキャッチの「ルパンザサ~ド」の感じだよねと言ってました(笑) 2人ともアニメーションフェチで、ジブリ作品などが好きなんです。「好きなアニメを作ろう!好きなものだから組み込みたい!」という気持ちです。

庵野ハルカ
アニメーションを導入したゲームは結構ありますが、「Live2D」やアニメーションが入ったとしても少しだけという場合が多いと思います。一方『ghostpia』は量もありクオリティが高いということで、どこかに依頼して作ってもらったのかなと考えていたんです。そういうことではないということで、すごいなと思いました。

ミタヒツヒト
もしお金がたくさんあったら依頼したかもしれないですが、アニメーションを制作すること自体が楽しいですし、作り手の魂がこもったものを見てもらいたい、そういう作品が世の中にあってほしいという気持ちで『ghostpia』を制作しています。 あってほしいものを作っているというのは、グラフィックチームにも共通するかと思いますね。

スーさん
あとグラフィック系の質問だと、セリフのふきだしの横にドットのちびキャラが表示されていますが、意図や狙いがあればお聞かせいただければ。

ミタヒツヒト
あれは美少女ゲームの顔グラフィックの代わりですね。現代になるにつれ立ち絵や表情差分とリンクした顔のイラストが、キャラクターのネームプレート付近に表示される作品が増えていったと思います。『ghostpia』制作当時の超水道はそうした「しっかりとしたゲーム」を、次こそ作ってほしいと言われることが多かったのですが、そのまま作ってもあまり面白くないというか、商業ゲームのような作品を同人ゲームで作り、それで「まるで本物」っぽくできたとして、結局は「本物みたいなおもちゃ」を作ったような気持ちになりそうだなと。だから自分たちなりに顔グラフィックを解釈して、代わりにピクセルアートを置きました。そうすると画面が読みやすくポップになりますし、ボイスの機械音との相性もとてもいいんです。

スーさん
少し話が戻ってしまいますが、巻き戻し機能でどこまでエピソードを遡れるのかをお聞きしたいです。

ミタヒツヒト
エピソードの頭まで戻れます。エピソードごとにビデオテープのカセットが入れ替わるイメージですね。デバッグのときに最初から最後まで何回も早送りをした思い出があります。

カワチ
ビデオテープを意識しているゲームだからこそ、仕様も「テープ」を軸に考えているというのは面白いですね。それではそろそろストーリーやキャラクターについての質問にうつりましょう。 

庵野ハルカ
「ヨル」、「アーニャ」など、一部『SPY×FAMILY』とキャラクターのネーミングが一致していますが、なにか関係はありますか?(笑)

ミタヒツヒト
Ⓐ『SPY×FAMILY』の大ファンで自分の作品に『SPY×FAMILY』のキャラクター由来の名前をつけたかった、Ⓑただの偶然。どちらでしょう?(笑)

ミタヒツヒト
正解はⒷの偶然なんですが、面白いですよね。『ghostpia』の制作開始が2014年あたりなので全然違います(笑)

庵野ハルカ
それはそうですよね(笑)ちなみにキャラクターネーミングの由来はあるのでしょうか。

ミタヒツヒト
「小夜子」と「ヨル」はストーリー上で意味のある名前にしたいと思っていますが、あまり「キャラクターの名前に凝りました!」とはしたくなくて、素通りしてしまうような名前を付けてしまいがちです。ただ「パシフィカ」はヤマハのギターからではなく、『怪奇ゾーン グラビティフォールズ』という海外アニメに登場する、パシフィカというキャラクターがすごく好きでそこから取ってます。

スーさん
キャラクターに実在するモデルはおられますか?

ミタヒツヒト
『ghostpia』にモデルが実在するキャラクターはいないですが、先ほど話に出たドラマCDに登場するニコライは例外で、以前ひどい目に合わされた人物をモデルにしています(笑)ドラマCDは尺が短い分、エキセントリックなキャラクターを用意しなくてはならず、リアルの体験の力を借りたイメージですね。

スーさん
シナリオを執筆するなかで、ミタさん自身のお気に入りや、苦手なキャラクターがいたら教えていただきたいです。

ミタヒツヒト
一番好きなキャラはニコライです。登場キャラクターは全員好きですが、書くのは全員苦手で常に全力投球をしながら執筆しています。頭のなかでキャラクターが演技してるのを聞きながら書いているイメージですね。

スーさん
作中には「うんこ」などの素敵なワードも多いですが、そういった言葉もひねり出すというよりは、キャラクターとセットで自然と出てくる感じなのでしょうか?

ミタヒツヒト
「うんこ」はひねり出したというよりは宿便で、謂れのある「うんこ」なんですよ。以前僕が別のところで不義理をしてしまったことがあり、お世話になっていたプロの物書きの方が出展しているイベントで「最近どう?」と聞いていただいたので、「こういうことがあったんですよ。申し訳ないことしました」と答えたら、その人が「あいつらはうんこだよ」と言いながら、サインを書いてくださったんです。 「そっか、うんこって言ってもいいんだ」と気づかされて、「うんこ」と切って捨てる爽やかさがすごく心に残っています。

カワチ
そういう心が軽くなるワードとして、「うんこ」があるわけですね。

ミタヒツヒト
なるべくラフな言葉遣いで心に響く言葉を作りたいと常々思っているので、あまり言い回しを複雑にせず頭のなかでキャラクターの演技を聞きながら、セリフを微調整しています。 

スーさん
「うんこ」1つとっても、たとえば「クソ」に置きかえると受け手の印象も変わるので、『ghostpia』としては「うんこ」がちょうどいいですね。作品全体としてもトゲがないですし、ウィットに富んでいて。

みお
「9999年」という数字もですが、「うんこ」の方がいい意味で小学生みたいでいいなと思っています。

ミタヒツヒト
超水道は小学校のときから一緒のメンバーがいて、僕たちはマイルドヤンキーとオタクの二重苦と呼んでますが、気取らない喋り方でおかしなことを言って笑うのが好きなので、たしかにそういうところはあるかもしれないですね。

みお
よく作中で暴力の標的になってしまうクラーラは、普通に見れば愛嬌があって純粋でいい子ですが、小夜子たちは逆にそこが気に入らないと思っている。その考え方はミタさん自身の価値観が反映されているのでしょうか?

ミタヒツヒト
今まで善人に道を阻まれることが多かった気がします。幼稚園の頃はモラルのない子供で乱暴ばかりをしていて、そのときの経験で他人に「いけないんだよ」と言われるのがすごく嫌でした。 その経験以外にも、人生において厄介だったのはクラーラのようなタイプだったという実感があります。自分の経験に基づかないままでは、ああいった描写は書けないですね。

みお
すごく解像度が高いですよね、ああいう感じの子の。

ミタヒツヒト
「あなたに蛮行をさせてごめんなさい」みたいな。ただそういう経験がない人もやはり世の中にいるんだなと思ったのが、『ghostpia』をリリースしたあとの一番の学びでした。もう少し作品寄りの話をすると、なにに「NO」を突きつけるかだと思うんです。現実では善意らしきもの、あるいは自分たちと仲良くするために頑張っている人に「NO」を突きつけるのは、基本的にできないんですよね。もちろんこういうことを描いたら、喜んでくれる人もいるだろうなという気持ちも少しはありますし、逆にこうした描写でショックを受ける方がいるのももちろん分かっています。だけどそれ以上に僕たちが作るべき作品は、今まで影響を受けてきた作品の再生産ではなく、変なものを作っていて面白いなと笑ってもらえることを示したいんです。

カワチ
逆に『ghostpia』で描かないようにしていることはありますか?

ミタヒツヒト
男女のロマンスでしょうか。どういうドラマなのかぼやけてしまうと嫌なので。

カワチ
ただアーニャだけは、少し男の匂いがするというのもありますよね。

ミタヒツヒト
なんだかんだアーニャみたいなタイプに、男性は一番寄ってくるのだろうと思いますし、アーニャのようなポジションのキャラクターは、フィクションにはあまりいないという気がしています。モテるキャラはモテるキャラの形をしていますし、メカニックで赤毛の口が悪い女の子は多分ほかにもいる。ありがちなステレオタイプの属性にのせつつ、少しだけずらして描写すると独自性を感じつつお客さんも飲み込みやすい。こういうキャラクターもたしかにいいよねと思ってもらえるようにするのが、アーニャを描く上で頑張った部分ですね。

カワチ
逆にパシフィカさんは少し近寄りがたい感じがします。

ミタヒツヒト
パシフィカさんは女性のプレイヤーの方から、非常に支持をいただいているキャラクターですね。

庵野ハルカ
私がストーリー的に面白いと思ったのが4話で、レーニャとミェトの関係性の話が面白いなと思ってプレイしてました。ミェトはレーニャに徹底的に尽くそうとするけど、レーニャは違う思惑があるという物語にもかかわらず、オチで無理やり2人をくっつけて、関係を続けさせるところがすごいお話だなと思って、個人的には4話が一番好きでした。人に尽くすことや人を好きになることの、怨念めいた怖い部分を描いていて面白かったです。余談ですが、4話に出てくる寄生虫のアイデアはどこから生まれたのでしょうか?実際に脳に入り込んで宿主を操作する寄生虫はいますが。

ミタヒツヒト
ハリガネムシとかロイコクロリディウム的なやつですよね。寄生虫というのはその通りですが、今思うと銀のダンゴムシは意味不明ですね。あれを怖いと思わせられたのは、僕の文章にあのデザインを与えてくれた、グラフィッカーの力のおかげだと思います。

庵野ハルカ
しかも腕に入ったダンゴムシを取るために、腕を吹き飛ばすじゃないですか。あの辺のバイオレンス表現もいいなと思いました。

ミタヒツヒト
「PVを見ただけでは自分で外科手術するような作品だと思わなかった」と、先日言われました(笑)

スーさん
「シーズンツー」を合わせて全10話の構想だと聞いたのですが、4話で新キャラクターや展開を含めてガラッと雰囲気を変えたのは、最初から決めていたのでしょうか?

ミタヒツヒト
1、2、3話はセットのような部分があり、1、2話で出会って3話で共同生活をして次はどうなるという話の運び方は、ある程度共同生活モノとしてありがちな流れだと思います。そこで予定調和感を崩して、これからも面白いことやるので、すみませんがお付き合いくださいという気持ちで、家の上の階にかわいい女の子が住んでいて、その子が実はヤクの売人で部下をパワハラしているという展開にしました。

SIGH
自分は第5話が非常に好きですが、アレクセイというキャラクターは『ghostpia』のキャラクターのなかでは特に癖の強い方だと思うのですが、どうやってキャラクターを作ったのかが気になりました。

ミタヒツヒト
アレクセイは僕が今までの人生で出会ってきた、賢い人たちを見たときの感慨が表現されているキャラクターです。とても賢くてずっと自分の研究をしている人は、ある意味なにかの敬虔な信徒だと思います。 宗教には限らないんですが、これはきっとこうなんだという1つの真理に憑かれてる感じが好きで、そういったキャラクターを書きたいと考えていました。5話で物語上こういうイベントを起こしたいという構想と、うまくミックスできたと思います。

SIGH
科学者・エンジニアかつ敬虔な人間でもあるということで、アインシュタインみたいだなと思いました。

みお
アレクセイはオタク的な部分が好きで、卑屈だけど卑屈にしようと思っていないというか、自分でもダメなことはわかっているけど、どうしてもこうなってしまうという描写がよかったです。

庵野ハルカ
アレクセイはよくあるテンプレ的なオタクではないのがよかったですね。フィクションに登場するオタクは、いわゆる「キモオタ」として描かれがちな傾向があると感じるんですが、アレクセイの場合はミタさんがドラマを描こうとしている意識が感じられて、オタクかつ優秀なエンジニアでしょうもない部分もありつつ、自分の所属する社会との関わりもきちんと描かれており、奥深さが生まれてると思いました。

ミタヒツヒト
ステレオタイプのキャラクターにしてしまうと、本当にステレオタイプで終わってしまうので、なるべくどのキャラも掘り下げてあげたいですよね。

SIGH
『ghostpia』はテンプレみたいな性格のキャラが、1人もいないのがすごいなと思います。

カワチ
主人公の小夜子がニンジャというのは、ミタさんの趣味ですか?

ミタヒツヒト
海外アニメに出てくるウソ日本が好きなんです。現実ではありえないですが、外国人が日本人をみんなニンジャだと思っているイメージを戯画化したら面白いのかなと考えてました。ニンジャという設定だと特殊能力やスーパーパワーといった、アメコミ感が少し出ますよね。

カワチ
ニンジャのシーンで流れる音楽もいいですよね。

ミタヒツヒト
あれは「十万石まんじゅう」という、テレビ埼玉で流れている地元の銘菓のCMがありまして、そのBGMが元ネタなんです。高野さんにこのCMの音楽を聞いていただいて、これっぽくお願いしますと依頼するときはさすがに冷や汗をかきました。

カワチ
それでは埼玉の人が『ghostpia』をプレイしたら、この音楽は「十万石まんじゅうだ!」となるんですね。

ミタヒツヒト
そうですね。やはり埼玉といったらニンジャですから(笑)

カワチ
小夜子は主人公にしては感情移入がしづらい複雑なキャラクターだと感じて、主人公として立てるには苦労されたかと思うのですが、どうやって描こうとしましたか?

ミタヒツヒト
たしかに小夜子は、プレイヤーと同化するタイプの主人公ではないかもしれないですね。元々『ghostpia』は無料でリリースしようとしていたので、感情移入というよりはフックとしてキャラの立った主人公にして、面白いやつだなと思ってもらえればいいと考えていました。もし合わなかったら、読まなければいいだけですしね。そういうオリジンはありつつ、心情描写が足りないと本当にただ暴れ回っている人になってしまうので、なるべく地に足のついた描写、たとえば変なことはやっているけど結局は友達の役に立ちたいとか友達と仲良くしたいという、誰もが持っている感情で駆動してもらっています。ありがちな主人公を描いてもしょうがないので、少し変わったことをやりたいという一環ではあると思います。

カワチ
次はミタさん自身や、超水道についてのこれからについて聞こうと思います。まずミタさんや山本すずめさんのように、学生時代からの友人と長く続けていく秘訣を聞いてみたいです。

ミタヒツヒト
超水道のメンバーはみんな性格が良くて、いい人たちなんですよね。 本当に彼らの人格が優しいので、超水道はなんとかなっているのだと思います。強いて言うなら、頑張ることに対してなるべく結果が見えるように頑張ることでしょうか。『ghostpia』は制作をしているだけという期間が5年ほどあったのですが、そのなかでも「これができたね」、「こういうことがあったね」と言い合い、感想をもらったら逐一みんなで喜んだり、やばいことになったらどうしようと夜中までしゃべったり、時間が進んでいる感じを出していく、感情を共有していくことは昔から気をつけてきました。 

ミタヒツヒト
あとは言葉をケチらないというのを僕は考えていて、ただ「すごいね」・「面白いね」ではなく、「ここがこうすごいと思いました」と言うようにしています。僕が最初に文章をあげたときも、超水道のメンバーが詳細に感想を書いてくれるのですが、チームメイトが最初の読者・閲覧者である意識をチーム内で共有しているのが、超水道がうまく回っている理由の1つなのかなと勝手ながら思っています。

カワチ
なるほど、それはとても大事ですよね。どうしても長く続けてると「了解」とか「ありがとう」ぐらいになりがちですが、1つ1つきちんと感想を言うのがモチベーションに繋がりますからね。

ミタヒツヒト
そこは本当に気を付けてる部分ですね。ただ僕がすごい褒め下手なのが、昔からコンプレックスなんです。いつも「言葉が具体的すぎて褒め方が怖い」「本気で言ってないのではないか」と思われてしまいます。超水道は今年で15年目ですが、 まだいいバランスを見つけられていないですね。ただ言わないよりはマシだと思って、言うようにしています。

庵野ハルカ
超水道さんはモバイルアプリ制作から活動をはじめられていますが、そもそもなぜモバイルでゲームを作ろうと思ったのでしょうか?

ミタヒツヒト
元々2008年の高校生の頃からWindows向けのノベルゲームを、NScripterや吉里吉里で作っていたのですが、 大学生の頃に講義のゲストだったメディア最先端の人が「これからはモバイルアプリの時代だよ」と話されていたんです。それで講義が終わったあとに、当時すでに結成していた超水道のメンバーと、「なんかこれからはモバイルアプリの時代らしいよ!」と、そのままなにも考えずにいつの間にか動いてた感じです。

庵野ハルカ
その頃はスマートフォンの普及率が今ほどではなかったと思うので、いきなりモバイルからはじめるのはたしかに最先端だと思います。

ミタヒツヒト
当時iPod touchがiOSの普及を押し上げていたイメージがあり、僕もiPod touchで開発していました。iPod touchは非常に画面が綺麗で、文字もハッキリと表示されるのに感動して、開発を頑張ろうというモチベーションになりましたね。

カワチ
PCに移植したいと思うことはなかったのでしょうか?

ミタヒツヒト
PCにもマルチで書き出せるエンジンを使っており、実は細々とPCパッケージ版をコミケで売ったこともあります。ただコミケでパッケージを指差して、これモバイルだと無料で出てるんだよねと言われるので、売りづらさはあったかもしれません。

SIGH
超水道さんのブログで、新規のノベルアプリを制作する構想がある(※編注:2024年8月現在、『short HOPE long Peace』が発表されています)と書かれていましたが、今後もiOSのみでリリースされていく予定なのでしょうか?androidだけどプレイしたいという人も、大勢いらっしゃると思います。

ミタヒツヒト
開発エンジンはandroidでもリリース可能なものを使用しているのですが、androidだとサポートする部分が無限で、超水道が4人しかいないためデバッグに責任が持てないのです。androidの方には申し訳ないので、ネイティブアプリではないですが、ノベルスフィアに作品をあげていたような形でWEBアプリを用意しようと考えています。

SIGH
あと過去作を『ghostpia』のように、移植される予定はありますか?

ミタヒツヒト
考えたこともなかったですね。お金と時間が無限にあればやりたいのですが、それよりは「シーズンツー」を早く制作してほしいとお客さんは思いますよね。

SIGH
『ghostpia シーズンワン』をプレイして、超水道さんの過去作が気になっている方も多いのではないかと思います。それでは今過去作をプレイするならiOSかノベルスフィアという形ですね。またブログの話になりますが、以前から「超水道月報」を楽しみに見ており、現在は更新が止まっている様子ですが復活する予定はありますか?

ミタヒツヒト
月報はそもそも超水道が、『ghostpia』の開発が長引きながらもきちんと進んでいると報告し、安心していただくために投稿していたので今はお休みをしていますが、また動いている状態になったら復活する可能性はありますね。(※編注:2023年9月より超水道月報が再開されています

SIGH
超水道メンバーさんたちの近況が知れるということで、面白く読ませていただいてました。

ミタヒツヒト
毎月ヒーヒー言いながら更新してたので、そう言っていただけてありがたいです。

カワチ
超水道ラジオは復活しないのでしょうか?

ミタヒツヒト
超水道ラジオは編集が大変なんですよね。自分たちでハードルを上げて、ヒーヒー言うのを何回も繰り返していますが、これもやりたいことリストに入っています。 その代わりに最近はX(旧Twitter)でスペースをぼちぼちやりたい気持ちがあり、そういった形で超水道ラジオを続けていくことはあるかもしれないです。

カワチ
これから超水道を大きくしていこうという気持ちはありますか?超水道に蜂八憲さんが途中参加したのは大きな出来事だったと思いますが、すでに超水道のサークルメンバーは4人で固まっている感じなんでしょうか。

ミタヒツヒト
考えたこともなかったです。実は蜂八さんのあとにも超水道に参加したいと言ってくださる方もいらっしゃいました。ただ超水道はやることが結構ハードなので、やりたいことがあるなら1人でした方がいい、自分のペースで制作ができなくなってしまうとお伝えし、折り合いを考えて断ることがありました。ただ最近は超水道に入りたいとお声かけをいただくことがそもそもないので、多分これからもメンバーは増えないと思います。ただピンポイントでお手伝いをお願いすることはあるのではないでしょうか。

カワチ
今回『ghostpia シーズンワン』の制作で、hako 生活さんが参加されたような形でしょうか?

ミタヒツヒト
そうですね。あとはたとえばグラフィックの物量が多いので、アシスタントのお願いをすることはあると思います。

スーさん
超水道のメンバーのみなさんは社会人をしながら、ゲーム制作を行われていますが、どのように会社員とゲーム制作を両立されていますか?

ミタヒツヒト
超水道は会社員をしながら業務後にゲームを作っているので、本当に同人サークルのたたずまいです。基本的に仕事がやばくなると、制作に取りかかるのも大変になるので、助け合いながらやっています。

スーさん
それではメンバー4人それぞれの仕事と並行しながら、制作をされている形なんですね。

ミタヒツヒト
今はなぜか4人とも同じ会社に集結しておりまして、会社で同じプロジェクトに関わることもあります。この前も僕と山本すずめくんでプロジェクトをしていて、2人で打ち合わせに行った帰りに「実質このプロジェクトは『ghostpia』では?」と言いながら、ドトールでコーヒーを飲んだこともありました(笑)

スーさん
それは面白いですね。本当に公私共々というか、超水道としても仕事としてもずっと一緒ですね。

カワチ
それでは「もう超水道をやめようか」という話は、まったくなかったということですよね。

ミタヒツヒト
やめるタイミングがなかったので、そのまま続けている感じです。社会人になったのと同時にサークルをやめるのを格好悪く感じた、22歳当時の「意地でも超水道を続けるぞ!」という気持ちが、今でも続いているのかもしれません。

SIGH
会社員を続けておられるのは、ゲーム制作を安定して続けていくためとインタビューで語られていましたが、超水道の活動で問題なく食べていける状態になられても、会社員を続けられる展望なのでしょうか?

ミタヒツヒト
ゲーム制作だけで食べていける超水道は、超水道なんですかね(笑)ただ、もしそのときになったらメンバーそれぞれのスタンスで分かれるかもしれません。僕は今の仕事が結構好きですし、社会のなかでいろいろな人に会うのが人間の描写の糧になると思います。社会とはずっと繋がっていたいので、相当すごいことにならないと僕は仕事は辞めないと思います。でも実際にいっぱいお金が入ったら、そのとき何を思うかはわからないですね(笑)

ミタヒツヒト
今働かせていただいてる会社も学生時代から、超水道のことを社長さんがずっと応援してくださっていて、先日京都でBitSummitというゲームイベントがあったときも、「こういう理由で行ってまいります」と言うと、「頑張ってきてね」と返してくださるので、その人を裏切るわけにはいかないですね。

カワチ
『ghostpia』で今後やってみたい、作ってみたいグッズはなにかありますか?

ミタヒツヒト
僕は万年筆が好きなんですが、コラボペンやコラボインクが欲しいなとか思っているんです、クラーラの血の色とか(笑)そういった構想はあるのですが、どんなグッズがいいのかはみなさんのお力をお借りしたいところです。

カワチ
ジジイのグッズは欲しいですよね。

ミタヒツヒト
実はジジイのTシャツは前に作っています(笑) レッドババアブルージジイというアイテムですが、超水道のSUZURIにあるので買えますね。恐ろしいことに何枚か買っていただいています。買った人が迫害されてないといいですが(笑)

庵野ハルカ
ちなみに今回聞いておかなければいけないと考えてこの質問をしますが、「シーズンツー」の完成はいつごろになりそうでしょうか?

ミタヒツヒト
これは聞かれないといけない質問ですね。ただ申し訳ございませんがお答えしにくいですね。僕はもうすぐできますと言ってしまいたいタイプなんですが、実際の制作進捗でガッカリさせてしまうかもしれません。満足のいくクオリティで仕上げられるよう頑張りますので、完成を楽しみにお待ちください。

庵野ハルカ
ありがとうございます。いつまでも待っていますし、楽しみにしています。 あとはストーリーに関わる部分ですが、作中で各エピソードの終わりに現実世界のような意味深な映像が流れていますが、やはり物語の核心に関わってくるのでしょうか。

ミタヒツヒト
それは「シーズンツー」を最後までプレイして、意味があるのかないのかを自分の目で確かめてくれ!(笑)

庵野ハルカ
3回目ですよ、このやりとり(笑)

ミタヒツヒト
聞いていただくのは自由ですし、うれしいですね。答えられるものならなんでも喋りますよ。

カワチ
それではアニメでもゲームでも映画でも、最近ハマっているエンタメはありますか?

ミタヒツヒト
最近は『ELDEN RING』をやっていて楽しいですし、『君たちはどう生きるか』も見ました。あと『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』は、 僕と山本すずめくん2人とも見て「やべぇ」と言っています。グリッチの表現など『ghostpia』と少し通じるところもあって刺さりました。僕らはそれぞれ見ているエンタメが違うんです。お互い「このアニメ面白かったから見てよ」と言われても絶対見ないのですが、「スパイダーバース」は見る、「スプラトゥーン」はプレイするという中間地帯がありますね。あと『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』もインターネットでネタバレされる前に、頑張って自分でクリアしました。大変すばらしかったと思います。

カワチ
ネタバレはしない程度に『君たちはどう生きるか』はどうでしたか?

ミタヒツヒト
僕は大好きでした。 「『DARK SOULS II』みたいな話だね」と会社で言ったら、そこは『ELDEN RING』だろうと言われました。

カワチ
クリエイターとして、ああいった作り方の作品に憧れはありますか?

ミタヒツヒト
僕個人としてはとても憧れるし、なんというか大きな神様を見たような気持ちになりました。

SIGH
カートゥーンがお好きだという話は先ほどうかがったのですが、それ以外のゲームや本での好きなタイトルやクリエイターの話を、教えていただければと思います。

ミタヒツヒト
まず『ダブルキャスト』が好きです。 あとノベルゲームだと『沙耶の唄』や、1作目の『WHITE ALBUM』が好きですね。そしてビッグタイトルは基本好きで、「メタルギア」シリーズは世代なのでプレイしましたし、「テイルズ オブ」シリーズや「バイオショック」シリーズも好きです。『バイオショック インフィニット』がとてもよかったです。

ミタヒツヒト
アニメは基本的に海外アニメが好きで、国産アニメはあまり見ないのですが、ギリギリ国産の『ファイアボール』というディズニー・チャンネルで配信しているフル3DCGアニメは、ここ数年で一番のヒットと言っていいぐらい大好きな作品になりました。

カワチ
『ファイアボール』がやっていたのは、結構前じゃなかったでしたっけ?

ミタヒツヒト
シリーズ完結編となる『ゲボイデ=ボイデ』が、2020年に配信されているんんです。「Disney+」に加入したタイミングで見たのですがよかったですね。ドロッセルお嬢様は本当にすばらしい造形だと思います。 好きな本は『電脳コイル』というアニメのノベライズで、それがフィクションのなかで1位を争うくらい好きです。ノンフィクションだと米原万里さんというロシア語通訳の方が書かれた、『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』という本が好きです。『ghostpia』のアーニャとは関係ないんですが、『ghostpia』の4人の関係性が好きな人であれば、気に入ってくださるのではないかと思います。エッセイではあるんですが、少女時代の女の子同士のお話をずっとされていて、すごく素敵なんですよね。

ミタヒツヒト
あと『灰羽連盟』を忘れてはいけないですね。これは僕にとっては聖典なんです。安倍吉俊さんだと『serial experiments lain』の話がされがちですが、僕は『灰羽連盟』派です。『ghostpia』で小夜子とヨルが仕事を求めてウロウロしてるのは、その影響があるのかなと思います。仕事を探すためだけにすごく尺を割いたアニメなんですよ。

庵野ハルカ
『灰羽連盟』はすごいですよね。最初のほうはずっと仕事を探していて、今の深夜アニメだと少し厳しいテンポ感だと思います。今はとにかく話を前に進める方向なので、あそこまでゆったり進むアニメは今はもうなかなか見ないですね。

ミタヒツヒト
本当に大好きで、超水道のメンバーから誕生日プレゼントでもらった円盤は宝物ですね。

カワチ
『ghostpia』の制作と関係なく、無限に時間とお金があったら作ってみたい作品はありますか?

ミタヒツヒト
18~19歳くらいの超水道が生まれたばかりのときに、最初のオリジナル作品としてリリースしようとしたタイトルですね。オープニングをフルアニメーションで作りたくて、みんなでトレース台を買って制作したのですが、オープニングのアニメーションができたのがコミケの1ヶ月前で、ほかはなにもできてない失敗プロジェクトをやってしまいました。それを最後まで作れてないのがずっと心残りなんです。 今でもプロットやキャラクターは山本すずめくんに描いてもらったものがありますし、お話も用意してあるのでそれを作らないことには安らかに死ねないと思いながら生きているので、時間が無限にあったらそこから手をつけるかもしれないです。それもノベルゲームなので大して変わり映えはしないのですが、悲願や夢といった欲求ですね。

カワチ
そろそろまとめに入りましょうか。今回のまとめとして僕たちが『ghostpia』の感想や、こんな人がプレイしたら楽しいのでは?といった話をして、ミタさんに最後を締めていただく形にしようかなと思っています。それでは僕からはじめますね。『ghostpia シーズンワン』は値段も税込2300円で安く、コミック的な演出やゲームならではの楽しみもあるので、普段アドベンチャーゲームをプレイしない人にもぜひ触ってみてもらいたい作品です。そしてストーリードリブンのゲームがしたいけど、文章を読むだけのゲームが少し合わないと思っている人にもぜひプレイしてほしいですね。ノベルゲームだけではなくアドベンチャーゲームの入門としても絶対に楽しい作品だと思います。

みお
2023年上半期ベストゲームを決めたのですが、『ghostpia シーズンワン』を1位にしました。そのときはクリアしたばかりで熱が冷めてないのかもしれないと思いましたが、時間が経ってみても未だに暫定1位くらいに気に入っています。ミタさんの詩的な独特な語り口、山本すずめさんの可愛らしいイラスト、そのなかに光る暴力表現やトラックもいいですし、HD振動とジャイロ操作でプレイヤーと物語の一体感が引き立っていて、アドベンチャーゲームとしては、ここ数年で一番感動したぐらいのゲームです。先ほど小夜子が感情移入しづらい主人公という話がありましたが、私は思考回路が似ている部分も多く感情移入できるところがあり、そういった面でも心に残る作品になりました。

SIGH
自分の考える『ghostpia』の魅力は、まだ世界観に謎が多くフワフワとした印象を受けますが、そのなかで生きているキャラクターたちの感情や思考が、生っぽいというか地に足がついていることが大きいのかなと思っています。自分も小夜子に対しては非常に感情移入をした方で、阻害感を感じていたり友人との関係に悩んだりする心情描写は、私たちにも通じることも多く、行動の軸に幸せとはなにか生と死とはなにかという洞察や、友人との絆を大切にしたいというシンプルな感情があるのがすばらしかったです。小夜子が少しずつ肯定できる部分を見つけ、友人たちとも関係を修復しながら前に進んでいくストーリーに感動しました。プレイする前はビジュアルからアーティスティックな作品かなと考えていたのですが、コメディやバイオレンスな描写も巧みでエンタメとしても強く、音楽や演出も非常に素晴らしいので、個人的にノベルゲームに求めることがすべて詰まっている作品だと思いました。自分も2023年の暫定1位は『ghostpia シーズンワン』です。

スーさん
自分はゲームや映画はインディーよりは大衆向けというか、みんなもやっているゲームを好む傾向にあります。『ghostpia シーズンワン』も最初はムービーなどを見て少し斜に構えたゲームなのかなと思っていました。その後カワチくんをはじめとする周りの人の口コミを聞いてプレイをしたのですが、自分のなかでインディーゲームというジャンルの間口を広げてくれた作品になり、ノベルゲーム好きとしての新たな楽しみに気づけて、ゲーム開発の立場にいる人間としても身が引き締まる思いを感じました。おすすめしたい人という意味だと、ノベルゲーム好きな人はもちろんですし、逆に今までノベルゲームをあまりプレイしてこなかった人にも勧めたいです。あとは映画になりますが、『グーニーズ』や『スタンド・バイ・ミー』のような、暴力性を秘めたノスタルジックな青春ものが好きな人にもおすすめです。

ミタヒツヒト
『グーニーズ』も『スタンド・バイ・ミー』も大好きです。

庵野ハルカ
『ghostpia シーズンワン』をプレイして、本作はノベルゲームを進化させている1本だなと思いました。ノベルゲームは基本的に立ち絵とテキストがあってという形式のゲームだと思われてはいるんですけど、商業でもインディーでもさまざまな工夫がされている作品が登場している流れをここ何年かすごく感じています。『ghostpia』は立ち絵を出すだけではなくドットやアニメーション、どういうふうにキャラの絵を配置するのかといったビジュアル的なアイデアを詰め込んでます。画面の構成の仕方に関しても、16:9の画面に合ったような演出をされていて、今のノベルゲームというのをきちんと考えて作られてるんだなとすごく感じたんですね。 それで実際今日お話を聞いてみて、やはりそういう意識があって作られてるんだというのがわかったのが、納得感がありよかったです。僕自身もノベルゲームを割とプレイするので、さまざまな作品で「なぜ今こんな古臭いことをやってしまっているのだろう?」と思う瞬間もあるんです。ただ『ghostpia』はインディーゲームならではのアプローチで、ノベルゲームそのものの枠を広げていこうという姿勢がとても好きでした。そのため僕も2023年上半期では上位のゲームになりますね。

庵野ハルカ
『ghostpia』は「ノベルゲームはこういうものだよね」というイメージがある人ほどプレイしてほしいです。ノベルゲームは文字を読むだけのゲームと思われているかもしれませんが、ノベルゲームは進化しているんだと『ghostpia シーズンワン』をプレイすれば理解してもらえると思います。ストーリーも根底にきちんと作者の思想が見えるというか、キャラクターの死生観や言動・考え方に一貫したものが存在していて、非常に読みごたえのある物語でした。

カワチ
ありがとうございました。それでは最後にミタさんにもお聞きしたいと思います。

ミタヒツヒト
今日は「うんこ」の由来も少しだけ話させていただき、とても楽しい時間でした。ありがとうございます。正直な話今日呼んでいただいたことにびっくりしています。『ghostpia シーズンワン』はゲームライターさんなどのゲームの批評をされている方には、見向きもされない作品だと思っていたんです。 ただ読み進められて捨てられてしまうかもしれないと感じながらリリースしましたし、工夫は凝らしたのですがシンプルな作品ではあるので、興味を持って真摯に見てくれるのかなと考えていたのですが、こんなにしっかりと向きあっていただいてうれしいです。 本当にそこが不安だったので、『ghostpia シーズンワン』は本当に幸せな作品だと思います。

ミタヒツヒト
この作品をプレイしてほしい人を僕なりに考えてみたんですが、個人的には「変な作品があったらいいな」と思って変な作品を作ったんですよね。 だから変な作品が好きな人はぜひプレイしてほしいですし、世間に恨みがある人はもっとプレイしてほしい。いろいろな人の感想を聞いていると、結局そういうところに収束しているのかなと思います。もっと言うなら世間に恨みがあるのに人間のことは好きなときは好きみたいな、少しひねくれた人に刺さるのではないかと思います。

スーさん
あとはクラーラみたいなタイプの人にも、あえてプレイしてほしいですよね。クラーラ視点からの感想を聞いてみたいです。

ミタヒツヒト
そういう人から低評価がついたらどうしよう(笑)  今はSteam版を今年の夏にリリースするために頑張っています(※編注:発売中)『ghostpia シーズンワン』を世の中に送り出すためのラストスパートと、「シーズンツー」に向けて、まだまだ走っていきますので応援いただけたらうれしいです。ノベルゲームはアクションゲームなどと異なり、途中経過を見せることができないのですが、きちんと作っていることはお知らせできるように頑張っていきます。

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