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オフサイドにおけるディフレクション考察

サッカー4級審判の資格更新講習の受講が完了し、24年度も審判活動ができることとなった。
今回の講習内容(E-ラーニング)は、オフサイドにおける「意図的なプレー」と「ディフレクション」について詳しく解説がなされていて、結構よい内容だったと思う。

理解した内容を定着させるためにも、ここでアウトプットしておきたい。

オフサイドにおける「意図的なプレー」と「ディフレクション」だが、これはDF側からの視点に立っているということを、まず理解しておきたい。
また、「ディフレクション」というのは、ボールが選手に当たり方向が変わるなど、「意図的なプレーではなかった」ということである。

簡単に整理すると、 
オフサイドポジションにいる攻撃側選手にボールが渡った場合、
①「意図的なプレーをした」DFがボールに触れたりした結果であれば、オフサイドにはならない
②「意図的なプレーをしていない」DFがボールに触れたりした結果(ディフレクション)であれば、オフサイドになる
のであるが、
DFのプレーが意図的なのか、意図的でないのかの基準が明確でないと、オフサイドになったり、ならなかったりの判断がバラバラになってしてしまうから、2022年にこのあたりの基準が明確化された。

 僕の推測では、2022年になってこのように基準が明確化された背景には、「なぜオフサイドではないのか?」という議論となった、UEFA Nations League(20-21) 決勝戦フランスvsスペインにおけるエムバペの決勝ゴールがあると思う。
 
下記動画は(たぶん)それを検証したものなので、まずはこれをチェックしてみてほしい。

 ゴールを決めたエムバペは、テオ・エルナンデスからパスが出た瞬間に間違いなくオフサイドポジションにいる。
パスを受けたエムバペは、そのままゴールを決め、これが決勝点となった。
当然VAR介入。たまたま観戦していた僕も、明らかにオフサイドだろうな…と思っていたのだけれど、結果は「オフサイドではない」という判断でゴールが認められた。
 
VARのチェックを通じて、
①スペインのDFエリック・ガルシアがボールにチャレンジしている
②そして、わずかだがボールに触れている
③その結果、オフサイドポジションにいたエムバペにボールが届いた
④この場合、エムバペはオフサイドポジションにいたとしても罰せられない
という判断になったとのことだった。

オフサイドに関するルールは次のとおり(抜粋)。

第11条 オフサイド
2.オフサイドの反則

オフサイドポジションにいる競技者は、相手競技者が意図的にプレーしたボールを受けたとき、意図的なハンドの反則を行った場合も含め、利益を得ているとはみなされない。ただし、意図的なセーブからのボールを除く。

JFA「サッカー競技規則2023/24」

⇒要するに、攻撃側の選手Aがオフサイドポジションにいてボールを受けても、そのボールが、守備側選手が意図的にプレーをした結果、受けたものだったなら、Aはオフサイドの反則を取られない、ということ。

で、「じゃあ、『意図的にプレー』ってどんなこと?」ということに対しては、次のような規定が明示されている。

「意図的なプレー(意図的なハンドを除く)」とは、競技者がボールをコントロール下において、次のプレーができることである。 
・ボールを味方競技者にパスする、
・ボールを保持する、または、
・ボールをクリアする(例えば、ボールをけって、またはヘディングして)。
これは、競技者がコントロールできる状況にあるボールをパスする、保持しようと試みる、または、クリアすることがうまくいかなかったり、失敗したりした場合であっても、ボールを「意図的にプレーした」という事実を無効にするものではない。

JFA「サッカー競技規則2023/24」11条2項

⇒後段がポイントで、(守備側が)『コントロールできる』状況で、ミスパスやクリアミスをしたら、それは意図的なプレーとみなされるということ。

エンバペのゴールに戻ると、エンバペはオフサイドポジションにいたけれども、エリック・ガルシアが意図的にクリアしようとチャレンジした結果のこぼれ球を受け取ったので、オフサイドではない、という判断となったのだろう。
そして、仮にエリック・ガルシアの足がボールに届かず、触れることなくエムバペにボールが渡ればオフサイドだった…

これっておかしくない? という議論に(おそらく)なり、その結果、次のような文書が発信されることとなった。

「意図的なプレー」と「ディフレクション」との違いに関するガイドラインの明確化について
これまでにオフサイドに関して注目を浴びた状況が多くあったこと、また、守備側競技者が動いてボールを触れたすべてのケースにおいて、オフサイドポジションにいた競技者が「オンサイド(オフサイドで罰せられない)」となるわけではないという考えがあることから、IFABとFIFAは、サッカー関係のステークホルダーと協議し、”意図的なプレー”と”ディフレクション(ボールが競技者に当たり方向が変わる)”の違いについてのガイドラインを明確にした。 

2022年8月31日付日サ協発第220134号

そして、競技規則にも次のような文言が加わった。

第11条 オフサイド
2.オフサイドの反則

競技者がコントロールできる状況にあるボールを、結果的に、「意図的にプレーした」とみなす指標として、必要に応じて、次の基準が使われるべきである。
・ボールが長く移動したので、競技者はボールをはっきりと見えた。
・ボールが速く動いていなかった。
・ボールが動いた方向が予想外ではなかった。
・競技者が体の動きを整える時間があった、つまり、反射的に体を伸ばしたりジャンプせざるを得なかったということでもなく、または、かろうじてボールに触れたりコントロールできたということではなかった。
・グランド上を動いているボールは、空中にあるボールに比べてプレーすることが容易である。

JFA「サッカー競技規則2023/24」

E-ラーニングの講習では、 この規定を基に、ディフレクション(意図的なプレーではない)と判断する考慮事項が詳しく説明された。

すなわち、
ボールにアプローチした守備側競技者のプレーにおいて、
①ボールをどのようにプレーしたらよいのか判断する時間が短かった
②至近距離からボールが来ていた
③ボールのコースが途中で変わった
④体勢を崩した状態でボールをプレーしていた
⑤競技者がバランスを崩していた
⑥ボールに触れられるかぎりぎりの状況でチャレンジをしていた
⑦競技者が準備をできずにボールに触れた結果、オフサイドポジションにいた競技者にボールがわたってしまった
このような場合、競技者が「意図的にプレー」をしたとは判断しない
とされ、 
状況を総合的にみて、「ボールにアプローチした守備側競技者が意図的なプレーをしたとはいえない」と主審が判断した場合、ディフレクションにより攻撃側競技者にボールがわたったと考え、オフサイドの反則の対象になる、ということである。

要は、DFがボールにチャレンジしたこぼれ球がオフサイドポジションに渡った場合でも、DFのチャレンジが瞬間的だったりギリギリの対応だったりしたら、オフサイドにしていいよ、ということだ。

このルールが施行されていれば、エリック・ガルシアのプレーは上記①・④・⑥あたりに該当するので、エンバペのゴールは、オフサイドで取り消しとなっていただろう。

なお上記ルール施行後に開催された22年のカタール・ワールドカップでは、フランスvsチュニジアにおいてグリーズマン(フランス)のゴールがVARの後、ディフレクションということで取り消しとなっている(残念ながら状況がよくわかる動画はネット上に存在しなかった…)。

まあ、このようにルールが明確化されたといっても、4種リーグの主審や副審とかで、意図的プレーかディフレクションかの適切な判断など、とてもできそうもなく…そんな判断が必要となる状況に直面しないことを祈るばかりである。

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