期待と違和感？F1スプリント予選レース
2021年F1イギリスGP。
今大会、新しい予選フォーマットが試験的に行われた。
いつも通り行われるタイムアタックの予選は金曜日の夕方、そして土曜日に初の試み「スプリントレース」が行われる。
レースが2回見られるのだから、よりエキサイティングな展開になるか？いつも通り失敗に終わるか？
とにかく、新しいことはとりあえずやってみないとわからない。
F1予選方式の変遷
今まで予選のフォーマットは紆余曲折あり、現在行われている「ノックアウト方式」はとてもうまく考えられた方法で、今ではモータースポーツ全体としてもスタンダードになった。
かつての予選は、金曜、土曜に1時間ずつのセッションが用意されて、各車自由に何度でもタイムアタックができた。
思い出すのは1991年の鈴鹿。
中嶋最後の凱旋レース。それまで重量バランスに苦しみ、不調だったティレル・ホンダのマシンに鞭打ち、なんどもアタックしては観客を沸かせた。
その前の年、90年はフェラーリのプロストがトップタイムを塗り替えると、呼応するようにしてマクラーレン・ホンダのセナがコースに登場。見事にそのタイムを塗り替える、という展開がエキサイティングだった。
でも、上位チームのマシンはポールを争って抜きつ抜かれつを展開するが、ずっとそれを続けているわけではない。
順位が固まり、コンディション的にもタイム更新が望めない場合は、翌日のレースを控えてマシンやタイヤを温存させる。
しかし、サーキットに足を運んだ観客やテレビでセッションを見守るファンは、下位のチームはがんばって何度もタイムアタックするのに、上位チームのマシンはあまり走らずにがっかりしてしまう。
主催者側はそれを危惧していた。
そこで、2004年から、各車順番に出走し、1アタックのみを行う方式に変更。
それを2回繰り返し、最終的にグリッドを決定する。
これなら、全部のマシンがアタックするのを均等に見ることができるし、他車の影響がないサーキットがクリアな状態でタイムアタックすることができる。
BAR・ホンダの佐藤琢磨がタイムテーブルのトップに躍り出て、鈴鹿のスタンドが湧いたことも。
しかし、2005年の鈴鹿だったと記憶しているが、下位のチームが走るころはよかったが、中盤～上位が走るころに雨が降り始め、まともにタイムアタックできなかった。
急に天候が変わると不利が生じるという、思わぬ弱点が露呈してしまった。
そして、2006年から現在のノックアウト方式へ。
Q1ではより上のグリッドを目指して下位チームが頑張ってアタックし、Q2ではQ3進出を狙って中盤のチームがしのぎを削る。そしてQ3ではポールポジション争いで上位チームのスリリングなタイムアタックが見られる。
途中、カウントダウン式ノックアウトが実用化され、カウントダウンが始まるとみんなアタックを諦めてしまって逆効果だったこともあったが、ノックアウト方式は本当によく考えられたフォーマットで、他のカテゴリーもそれに追随し、今ではモータースポーツ界では当たり前のものになった。
そして2021年から新たなフォーマットとして、スプリント予選レースが行われることに。
通常の予選はソフトタイヤのみ。スプリント予選と決勝は自由にタイヤを選択することができる。
「Q3に進出したマシンは、Q2通過時にタイムを出した際に使ったタイヤで決勝をスタートする」というルールもなくなった。
そして、スプリント予選レースの上位3人にはポイントが付与される。
レーシングカートレースの「予選ヒート」をF1でやってしまおう、という考えのようだ。
これも、F1をよりエキサイティングに、という主催者側の思惑だが、果たして機能するかどうか。
金曜日：タイムアタック予選
金曜日、現地時間18:00頃より通常の方式で予選がスタート。
いつも通り淡々と進むが、タイヤの駆け引きがないだけに純粋にタイムアタックを楽しむことができる。
Q1では角田が苦戦。今まで好調だった姿がウソのように、Q1敗退が決まってしまった。
チームメイトのガスリーも結果が振るわない。アルファタウリのマシンにとって、シルバーストーンサーキットは鬼門のようだ。
しかし、地元のヒーローのひとり、ジョージ・ラッセルが大活躍。
決して上位争いができる状況ではないウィリアムズのマシンを駆って、2戦連続のQ3進出。
予選では本当に速い。一体彼のマシンには何が起こっているのか？純粋に彼の実力なのか？
それでも、デビューからずっと下位を走って地道に頑張ってきた姿に、誰しも声援を送る。
しかも、チームにとっても彼にとっても地元の凱旋レース。Q3でひとりアタックする姿に、どのスタンドの観客からも熱い声援が送られた。
Q3は不調から一転、メルセデスのハミルトンがトップタイム。
見事ポールを獲得…と言っても翌日の予選スプリントレースのポールだけど。
そのあたりが、長年同じフォーマットを見ていると違和感を感じてしまう。
当然、地元の英雄にスタンドからは大歓声だが、果たして翌日も同じような展開になるだろうか？
土曜日：予選スプリントレースが開幕
中継が始まると異様な光景。土曜日なのにグリッドにマシンが並べられ、中継のカメラもグリッドから1台1台を映して回る。
レコノサンス（グリッドに着くためにコースを周回するが、確認のために数周してもよい時間）があったのかはわからないが、その姿はいつものレース前のものと同じ。
初めて行われる予選スプリントレースに期待がこみ上げる…部分もあるが、まだ違和感の方が強い。
これからレースが行われるのに、17周しかない。
レースはいつも通り、ダミーグリッドからフォーメーションラップを経てグリッドへ。
シグナルが5つ点灯し、ブラックアウト。
蹴りだしがよかったのは2位のフェルスタッペン。1コーナーを制し、ぐんぐんハミルトンを引き離していく。
そして、何故か11番グリッドからスタートしたアロンソが5位に。
途中マクラーレンの2台に抜かれるも、その後ろのアストンマーティンのベッテルをうまく抑え込んでラップを重ねてゆく。これぞベテランの味。
スタートがややうまくいかなかったレッドブルのペレスが単独スピン。
前を走るマシンの乱気流を受けてしまい、スピンしてしまったようだ。
何とかコントロールしウォールへの激突は免れたが、その後タイヤのバイブレーションがひどく、リタイヤしてしまった。
予選とは言えレースなのだから、こういった展開もある。うまくいかなくても明日があるのはポジティブに捉えるべき要素かもしれない。
結局、その他の順位は大きく変わらず、フェルスタッペンが優勝…ではなく明日の決勝のポールポジションを獲得。ハミルトンは前日の歓喜から一転、悔しい結果となった。
レースを終えたトップ３のドライバーは、パレード用のトレーラーに乗せられ、その上でインタビューを受ける新しい試み。確かに予選なんだから表彰式はない。
予選スプリントレースの優勝者には、1950年代のグランプリを彷彿とさせるリースが。
新しい予選方式は、特に大きな問題もなく終了。あとは決勝レースを残すのみとなった。
総括
予選でレースをするなんて、恐らくF1の歴史上はじめての事だと思うが、予選もレースも形が固まっていて長年その流れでレースウィークを見てきているので、やはりずっと違和感がある印象。
見るほうは楽しいが、マシンを扱う方は大変だったろうと思う。
予選はマシンの限界を削るような争いだし、その後に2回もレースをしなければならないのだから、エンジンのマイレージもマシンの細かいトラブルも気になるところ。
実際に3日間通してサーキットに足を運ぶことができたらとても楽しいだろうが、テレビ観戦だとイマイチその熱は伝わりにくいのではないかと思う。
実際、金曜日の予選は日本では夜中の2時。日本GPを欧米のファンが見ることを考えると「おあいこ」かもしれないが、ちょっとキツい。土曜日のスプリントレースも翌00:00から。実は疲れて、見ながら寝てしまった…。
でも、すべてネガティブにとらえているわけではない。
これを年間続けるのであれば、もっと工夫が必要だと思う。
金曜日の予選を短くするとか、土曜日1日でタイムアタックと予選レースをやってしまうとか。
タイムアタックはQ3まで行う必要はないと思う。Q2までにしておいて、あとは予選レースを行うというのもいいだろうし、スーパーフォーミュラのQ1のように、グループ分けしてタイムアタックを行うのもいいと思う。
予選スプリントレースは、大方の予想通り順位の変動があまりなく、すぐに飽きられてしまう可能性がある。
それなら、予選タイムアタックの後に、走行距離をもっと短くしてレースを行う方法もいいのではないか。
アイデアは尽きないが、まだ1回しか開催していないので、主催者側ももっとデータが欲しいところだろう。
次はイタリアGPでこのフォーマットが試され、その後もう1レースでも試行される。
ひょっとしたら鈴鹿が選ばれるかも？夕方18:00頃にやるのか？もう暗くてタイムアタックどころではない…というのは冗談として、15:00頃から始まっても、平日に予選を行ったところでどれだけのお客さんが来るのか…。そう考えると日本でやるのは難しそうな気もする。
そして、ポジティブな意見が多ければ、来年から全戦このフォーマットで予選が繰り広げられる。新たなドラマを生みそうで楽しみではあるが、今のところ課題も多いような気がする。どのように解決して、ノックアウト方式のように全世界のファンが納得するフォーマットができるか。これからの展開に期待したい。
※タイトル画像はＦ１更新Twitterより掲載しました。
リースを贈られたフェルスタッペン選手が誇らしげです。
これで4戦連続ポール！日曜のレースにも期待！
Silverstone's king of the sprinters 🤩👑#BritishGP 🇬🇧 #F1Sprint @Max33Verstappen pic.twitter.com/TZz6ZhxXPe
— Formula 1 (@F1) July 17, 2021
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか？