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ストラテジストの緻密な計算がもたらした勝利

2021年F1フランスGP。
正に、レッドブルホンダの作戦勝ち!
残り2周のオーバーテイク劇。しかし、今回のレッドブルの勝利は本当に見事な「作戦勝ち」だった。

キツくなるタイヤと昨年のイギリスGPの教訓

異次元の速さでポールを獲ったレッドブルのフェルスタッペン。
しかし、スタート直後でオーバーランしてしまい、ハミルトンにトップを明け渡してしまう。

大方の予想では、ミディアムタイヤでスタートして、20周前後でハードタイヤに交換。1ストップで最後まで走り切る作戦がセオリーと考えられていた。
しかし、各ドライバーが左フロントタイヤのグレイニング(ささくれ摩耗)を訴え始める。
セオリー通りにハードタイヤに替えても、その不安は払拭しきれない。

思い出すのは昨年のイギリスGP。
レース終盤、ボッタスのタイヤがバースト。皆が思っていたよりもタイヤが持たなかった。
たまらずフェルスタッペンがピットイン。
ハミルトンにも同じ状況があるなら、ファイナルラップまでレースはわからない。
そして、ファイナルラップでハミルトンのタイヤがバースト!
しかし、勝ったのはハミルトン。手負いながらも走り切っての勝利。
タイヤの異常にもっと早く気づいていれば、手負いのメルセデス勢に対してプレッシャーを与え続け、勝てたかもしれない。判断は難しいし、レースにたらればはないけれど…。

ストラテジストの緻密で絶妙な計算

話は戻ってフランスGP。
恐らく、レッドブルのストラテジスト(作戦考案者)は裏でものすごい計算をしていたはず。
このまま走り続けて、ハミルトンを抜ける確率は?タイヤ交換をするなら何週目がベスト?中古のミディアムタイヤに替えてゴールまで走り切れる?走り切れるなら、どれぐらいプッシュし続けられる?
そして、ボッタスとハミルトンを抜くには何週目にピットに入ったらいい??

そして答えは出た!
33週目にフェルスタッペンがピットイン。
中古のミディアムタイヤに替えてピットアウトした時には、4位を走っていたチームメイトのペレスの後ろ。

ここで、メルセデス勢の動きに注目。
走り切れれば、何とかトップは明け渡さずに済むかもしれない。
でも、ピットに入れば確実にフェルスタッペンの後ろ。このままハイペースを維持し続ければ、ファイナルラップまでにトップに戻れるか?でもレースペースはレッドブルの方がやや上回っている。

結局、ステイアウトするしかなかったメルセデス勢。
ペースに勝るフェルスタッペンをペレスが前に出し、いよいよ追撃が始まる。

44週目、まずはボッタスを簡単に料理。
タイヤがキツくなってきているボッタスは成す術なし。
そこからバックマーカーを丁寧に抜きながら、徐々にハミルトンに迫っていく。

ボッタスを抜いてからずっと両者のタイムを見ていたが、驚くことにハミルトンのペースもフェルスタッペンと変わらない。
かなりキツい状況のハードタイヤのはずなのに、驚異的なタイム。超人のなせる技。
それでも、1秒近くフェルスタッペンの方が速い。
じわじわと近寄ってくるフェルスタッペン。

そして残り2周。両者の差が1秒を切り、メインストレートでDRSを使って差を詰める。
じっくり差を詰めてゆくフェルスタッペン。
そして、ミストラルストレートへ。

フェルスタッペンのDRSが作動した時、もうハミルトンに残された術はなかった。
タイヤも限界。抵抗すらできない。いや、敢えて抵抗しなかったのかもしれない。
フェルスタッペンが横に並び、そのまま前へ。
リアウイングのHONDAのマークがどんどん遠ざかってゆく…。

あと1周、ピットインのタイミングが遅かったら、最後の最後で抜けなかったかもしれない。
それほど、絶妙なタイミング。
今日の勝利はストラテジストの見事な働きと、タイヤをいたわりつつプッシュし続けたフェルスタッペンの実力。
F1とは、正にチームワーク。
いくらドライバーが天才でも、驚くほどにマシンが早くても、ホンダのパワーユニットが他を凌駕していても、それだけでは勝てない。

昨年まで絶対的に速く、他を寄せ付けない強さを誇っていたメルセデス。
今年は、追いついてきたレッドブルと五分の闘いを強いられている。
モナコ、アゼルバイジャンと謎の不調で後退したが、フランスで復調を見せたが、それでも勢いづいたレッドブルに苦渋をなめる結果となってしまった。

これから、チャンピオン争いはますます面白くなってくるだろう。
ホンダ最後の年。レッドブルはチャンピオン獲得に向けて勢いを増している。
しかし、このままで終わるメルセデスではない。
今年はアップデートできる範囲が少ないだけに、どんな作戦を仕掛けてくるか。
そして、恐ろしいハミルトンという存在。前人未踏の8回目のワールドチャンピオンに向けて、恐ろしすぎるほどの牙をむいてくるはずだ。

それでも、ホンダ最後の年にレッドブルにはタイトルを獲ってほしい。
ハミルトンが超人的な強さでドライバーズチャンピオンを獲ったとしても、コンストラクターズタイトルは必ず獲ってほしい。
そのためには、チームメイトのペレスの存在が不可欠だ。

タイトル争いの鍵を握る男、セルジオ・ペレス

数々のレッドブルジュニアドライバーが手こずったレッドブルのマシン。
かなりセンシティブで、フェルスタッペンのみが乗りこなすことができるほどのモノらしい。
若手がダメなら、百戦錬磨のベテランなら…。
白羽の矢が立ったのが、アストンマーチンにチームが衣替えし、ベッテルの加入によりシートを失ったベテランのペレスだった。

ペレスなら何とかしてくれるかもしれない。
私も、昨年からそう思っていた。
小林可夢偉とのザウバー時代から速さを持っていたけど、マクラーレンで大きな挫折を味わい、フォースインディアからレーシングポイントへ。
地味ながらも、着実に経験を積んできたペレスなら、あのマシンを何とかできるかもしれないと。

序盤は苦戦したが、今までのレッドブルの若手たちのように大きく崩れることはなかった。
そして、アゼルバイジャンでの勝利。
チームの役割も理解し、勝てる自信も持った今のペレスは、レッドブルのタイトル獲得になくてはならないドライバーであることは間違いない。

フランスGPでも、持ち前のタイヤに優しい走りで、ハードタイヤへの交換をかなり遅らせていた。
そして、タイヤライフに劣るボッタスを着実に料理し、3位をキープ。
3位と4位では、タイトル争いへ向けての意味がだいぶ違ってくる。
着実にポディウムに立ついぶし銀の活躍。このまま、フェルスタッペンと共にハミルトンへプレッシャーを与え続けてほしい。

どうしても、レッドブルがタイトルを獲るところが見たい。
鈴鹿での二人の活躍に涙したい。
やっぱり、F1はチームスポーツなのだ。

角田の成長を見守りたい

肝心の角田は我慢のレースだったと思う。
いつの間にやら、ウィリアムズのラッセルにも抜かれていた。
彼も1ストップだったので、終盤はかなりキツい展開になっていたことは容易に予想できる。

チームメイトのガスリーが終盤の1秒以内のバトルをしのいで7位に入ったのに比べると、順位的にはかなり厳しいと思う。
しかし、バーレーンのレース運びや、アゼルバイジャンでのポイント獲得を見ても、速さは十分持っている。
足りないのは経験。今年は、1年をかけた勉強の年なのだ。
実力は未知数。ハミルトンやフェルスタッペンのような天才的な速さがあるかはまだわからない。
コースの理解やレース運び、マシンの理解。そして何よりチームとのコミュニケーション。
学ぶことはたくさんある。ひとつひとつ経験を積んで、将来ファンを驚かせる存在になってほしい。
レッドブルへ昇格?フェルスタッペンと互角の争い??
ファンなら大きな夢を見てしまうが、今は夢への一歩を着実に進んでほしい。
その一歩一歩を見守るのも、ファンとしては楽しいし、応援し甲斐がある。
これからのレースも本当に楽しみだ。

※タイトル画像はレッドブルホンダ公式Twitterより掲載しました。
 素晴らしい勝利。優勝おめでとうございます!!


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