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【惜別】「幸せを呼ぶ黄色い新幹線」ドクターイエローとは?

2024年6月14日
鉄道ファンをはじめ、多くの人に親しまれている新幹線「ドクターイエロー」の引退が発表されました。

※鉄道新聞様の記事より。
JR東海、JR西日本のリリースもこちらからご覧いただけます。

東海道新幹線を運営するJR東海は2025年1月頃、山陽新幹線を運営するJR西日本は2027年頃を目処に順次引退させるそうです。

白地に青いラインがお馴染みの東海道・山陽新幹線において、黄色に青のラインの新幹線はひときわ目立ちますし、いつ見られるかもわからないレアさから「幸せの黄色い新幹線」と呼ばれている存在。
引退が発表されると、ニュースでも大きく取り上げられました。

鉄道ファンからすると「いよいよ引退か…」と惜別の念が込み上げてきますが、多くの方にとってはなんでニュースになるのかよくわからないかもしれません。

そこで今回は、割と鉄道も好きな筆者が、ドクターイエローについて少し語ってみたいと思います。
また東海道・山陽新幹線について最近話題になっていることもお話ししようと思います。


ドクターイエローとは?

そもそもドクターイエローとは何者か?

昔、「たけしの万物創世記」という番組で新幹線を取り上げた時に、たけしさんが「なんか肝臓を壊した医者みたいな名前ですけど」なんて冗談を言っていましたが、これは愛称です。

正式名称は「新幹線電気軌道総合試験車」。
レールの歪み、架線の状態や信号設備の状態を走りながら検測するための新幹線。
つまり、新幹線を走らせるための環境を監視するために走っているのです。

そのため、当然一般のお客さんは乗ることができません。
ただ、車内は折を見て公開されていて、動画でも見る事ができると思います。
以前、CSのフジテレビONEで放送されている「みんなの鉄道」で車内を見たことがあります。

レールに赤外線を当ててゆがみや減りを検測する装置や、パンタグラフを常時監視できる観測ドームなどが装備されていました。
ケーブルを取り廻すために、新幹線の車内なのにデータセンターのように高床になっている車両も。

夏休みには、子供たちを対象に乗車ツアーが開催されることもあるようで、最後尾の車両は休憩スペース兼、イベント用として通常の新幹線と同じ座席が並んでいる車両もあります。


東京~博多間というとてつもない距離。
区間を区切り、短い区間を検査できたとしても、目視より計測機器を使った方が検測の精度は高いでしょう。

しかも、営業運転速度とほぼ同等の速度で検測できれば、高速運転時の状態も確認できます。

日本の鉄道は、壊れてしまった時に修理するのはもちろん、それ以上に、「壊れる前に直す」ことを常としています。
普段から施設の状態を監視し、危険と判断した状態で新品と交換することで、なるべく事故を起こさないようにしているのです。

この「予防保全」の考え方により、日々安全運行が行われているわけです。

そのために、線路などの状態しきい値を設けることにより、修繕箇所の判断をしているのです。

しきい値を超え、危険と判断された箇所は、保線係に連携されます。
保線係は終電が走り去った夜中、街灯箇所を修繕するのです。
この作業を、60年間ずっと続けてきました。


ドクターイエローのルーツは、東海道新幹線のモデル線区をテスト走行するために作られた試験車両、1000系まで遡ります。

東海道新幹線開通後、2編成あった1000系が電気軌道試験車に改造され、使用されました。
その時から黄色のボディに青い線が入っていたようです。

初代は1975年まで活躍したそうです。
この初代、最期は浜松の工場に新設された、新幹線専用の解体装置の試験に使用されたのだとか。
なんとも寂しい最期ですが、どの車両よりも早く本線を走り、最後まで新幹線の未来のためにその姿をささげたのでした。

現在、パンタグラフだけが大宮の鉄道博物館に保存展示されています。


2代目は当時走っていた0系新幹線をモデルに新造されました。
最高速度は210km/h。
今のドクターイエローと同じ、7両編成になりました。

こちらは2005年ごろまで活躍したそうです。
先頭車両が愛知県にあるリニア・鉄道館に保存展示されています。
展示されているのは前述した観測係の休憩スペース兼イベント用車両。
さすがに検測機械は機密情報もあるため、処分されたのでしょうね。

日テレ鉄道部様の公式Youtubeより。
さすが日テレ鉄道部。ドクターイエロー同士が連結するという激レア映像をお持ちとは!

そして3代目が現在活躍し、引退が発表された現在の形式。
2000年当時最新の700系がベースとなっています。

最高時速は270km/h。60kmもスピードアップしました。
2代目も老朽化の波と、スピードアップの波にさらされての引退だったのだと思います。


おまけ① N700系統とは?

ちなみに、「700系」という言葉をよく聞くと思うのですが、現在東海道新幹線を走る新幹線にはN700系、N700A系、N700S系の3種類が存在します。

アタマに「N」が付いて、おしりにはAやらSやら付いてるけど、結局同じ形なんでしょ?何が違うの?と普通は思いますよね…。
しかし、微妙に違うのです。

N700系は山陽新幹線区間を300km/hで走り、700系と座席数を合わせるために、JR東海とJR西日本の2社で共同開発されました。

独自開発となる「空気バネ式車体傾斜装置」により、カーブに差し掛かると内側に1度傾き、スピードを落とさずに走ることができる機能が初めてつきました。
これにより、東海道新幹線区間を270km/hで走ることができる区間が増え、さらなるスピードアップにつながりました。

日本車両製造(株)様のHPより

N700A系はマイナーチェンジモデル。
Aは「Advance」。より性能が向上したことを表しています。

主な機能として、線路の起伏などをあらかじめインプットしておき、上り勾配でも最適な速度を出すことよって、より270km/hで走れる区間が増えました。

この機能やブレーキ性能の向上もあり、東海道新幹線区間の最高速度が285km/hに向上。
この形式に搭載された新機能は、N700系にも追加投入され、性能が統一されました。

車体の側面に描かれたN700系のマーク。
大きなAが描かれているのはN700Aとして新造された車両。
小さくAが追加されているのが、N700系に改造が施された車両です。

日本車両製造(株)様のHPより
ちょっと見にくいですが、2両目に大きな「A」のマークも見えます。

そしてN700S系。
見た目はほぼ同じですが、フルモデルチェンジと言える車両です。

Sとは「Supreme」。
機能も快適性も至高の域まで達したことを示しています。

N700Aまでは4両1ユニットとして扱われ、その分の走行に必要な床下機器類が4両の車両に分散されていました。

そのため、最低でも4両セットにならないと走れません。
東海道新幹線用の車両は16両編成ですから、4ユニットがひとつになっていることになります。
山陽、九州新幹線を走る「みずほ」「さくら」用のN700系も8両編成ですから、2ユニット。
いずれもちょうど4の倍数というわけです。

しかし、N700Sではその機器が小型軽量化。
4両1ユニットの縛りがなくなり、よりフレキシブルに編成を組むことができるようになりました。

これは、他線への流用や、海外への輸出を見越したものです。
現に西九州新幹線はN700Sの6両編成。
日本の新幹線方式を採用している台湾の新幹線も、新しい車両はこの形式の10両編成に決まりました。

日本車両製造(株)様のHPより

N700Sは他のN700系列と形は似ていますが、先頭車のボンネット付近に伸びる青いラインが他の2形式と違うところ。


…と、かなり脱線してしまいましたが…。
何が言いたかったかというと、実は700系は東海道新幹線からは既に引退しています。

そういう意味でも、東海道新幹線を走る700系のフォルムはドクターイエローのみだったため、あのカモノハシのようなボンネットの新幹線は東海道新幹線では完全に見られなくなってしまうのです。

日本車両製造(株)様のHPより

新幹線は高速運転をするため、在来線車両よりも寿命が短いのです。
N700系も登場してから15年以上が経過。
そろそろ引退の時期を迎えるタイミングにきました。
その分、N700S系がどんどん投入されることになります。

最近のニュースでは、グリーン車よりも快適な一人用個室が新たに追加されるのだとか。

昔、2階建てのグリーン車を連結していた100系にありましたよね、個室。
利用されたことがある方もいらっしゃるかと思いますし、水曜どうでしょうでも西日本カブの旅で新幹線の個室を使うシーンが出てきますね。

※乗り物ニュース様のHPより。


なぜ幸せを呼ぶ新幹線なのか?

ドクターイエローはJR東海、JR西日本それぞれ1編成ずつしか存在しません。

検査のために走るので、タイミングは10日に1度。
しかも、いつの時間に走るのかは公開されていません。
大事な検査業務ですからね。

そのため、走る姿を見られるかどうかは、関係者以外は神のみぞ知る。
たまたま見ることができたら、これはラッキー!ということに。
そんなレアさが人気を呼んでいるのだと思います。

ドクターイエローは主に臨時列車のダイヤを使って、のぞみの停車パターンと、こだまの停車パターンで走るのだそうです。

確かに、小田原駅のようにのぞみが通過する駅には通過線がありますから、そこも検査しないといけない。
逆に、ホーム付近も検査の対象になりますから、まんべんなく見るにはこれが最適なのでしょう。


おまけ② 覚えてほしい3つの名前

さて、ここで最近話題になっているお話を。
のぞみに乗り遅れてしまった人が、慌てて次に発車する新幹線に乗り込んだら、全部の駅に停まって到着時間が大幅におくれてしまった、という話が話題になりました。

新幹線にも、通勤電車のような「各駅停車」や「快速」「急行」のような種別の列車があるのです。
何度も新幹線に乗っている方ならもちろんご存知かと思いますが、詳しく知らない方のために、ルーツからご説明しましょう。

現在、東海道新幹線には3種別が存在します。

1964年の開業時、特急「こだま」と超特急「ひかり」の2種類が登場しました。
ひかりという名前は一般公募で、こだまという名前は元々あった特急電車から取りました。
(こだまもビジネス特急が誕生する際に一般公募で決まりました)

音の速さと、光の速さ。
その名の通り、特急こだまは各駅停車、超特急ひかりは速達タイプとして、主要駅しか停まらない設定になっていました。

現在もその原則は変わりません。

ひかりは現在、主に2つの停車パターンがあります。
・静岡県内の主要駅には停車するものの、名古屋〜京都間の駅は全通過
・小田原を出ると静岡県内の駅は通過するものの、名古屋以西は各駅停車

ひかりが停車する駅を利用する人にとっては、こだまを利用するよりも早く目的地に着けるメリットがあるのです。

では、みなさんがよく乗るであろう「のぞみ」はいつ生まれたのか?

1992年に、新型車両300系を擁して、ひかりよりも速い「のぞみ」が登場しました。

こちらも愛称は一般公募で決まりましたが、面白いエピソードが。

愛称を決めるにあたって、会議に出席した、作家の阿川佐和子さんの助言があったそうです。
鉄道ファンによるお父様からあるアドバイスを受けていたのだとか。

「昔から、特急電車の名前は大和言葉だった。新しい列車の名前も大和言葉がいいのではないか」

一般公募で一番票を集めたのは「きぼう」だったそう。
きぼうの大和言葉は「のぞみ」。
この助言により、愛称が決まったのだそうです。
確かにこの方が呼びやすく、親しみやすいですよね。

のぞみの特徴は、デビュー当時最速を誇っていたこと。
最高時速270km/hで、東京〜新大阪間を2時間30分で結ぶことを売りとしていました。

当時最速のひかりでも、最高時速230km/hで、3時間以上かかっていたところを、いきなり30分も短縮してしまいました。

朝一番ののぞみは、なんと名古屋を通過してまで2時間30分を実現させるほど。

現在ののぞみは、東京を出発すると、品川、新横浜、名古屋、京都、新大阪と、停車駅が決まっています。
(山陽新幹線内は列車によって停車駅が若干異なります)

しかし需要が急拡大し、いつしかダイヤはのぞみ中心になっています。
のぞみは東京駅をバンバン発車し、ひかりやこだまは途中駅で後から来るのぞみが通過するのをやりすごさなければなりません。

前項で解説したN700系統のおかげで、現在は主要な駅に停まっても東京〜新大阪間を2時間30分を切るスピードを誇るのですが、その反面、こだまは新大阪まで4時間近くもかかってしまうのです。

現在は乗換案内アプリが高性能で、指定した時間に着くために最適な新幹線が検索できるのですが、それに乗り遅れてしまって、後発の新幹線を…と「こだま」に乗ってしまうと、途方もない時間がかかってしまうというわけです。

せめて新横浜でそれに気づければまだリカバリーが効くのですが、新横浜を出てしまうともう後がありません。

そのため、新幹線の種別は覚えておいて損はないと思います。

ちなみにこの3種別、ちゃんとメンバーカラーもあるんですよ。
のぞみが黄色、ひかりが赤、こだまは青。
新幹線の案内表示を見てみると、ちゃんとメンバーカラーに色分けされていますので、注目してみてください。


さて、またも盛大に話が脱線してしまいましたが…
ドクターイエローは編成数が少なく、いつ走るかわからないので、新幹線の線路の近くに住んでいる、職場の休憩所から新幹線を眺められる、新幹線とすれ違う路線で通勤している、という方でもかなりの確率でしか見ることができないでしょう。

筆者も新橋駅付近を走るドクターイエローを見たことがあるのですが、駅で新幹線を待っている時に停まっている姿を見たことがありません。

ただ、大井にある車庫の奥に佇んでいる姿は見たことがあります。

大井車両基地は近辺に首都高のジャンクションがあるので、車で湾岸線や横羽線に乗るときに横目で見ることができますが、近辺は団地が立ち並び、広い公園もあるので散歩にもってこいのロケーションです。

最寄りは東京モノレールの大井競馬場駅。
興味のある方は是非行ってみてください。


ドクターイエロー引退後はどうなるのか?

走行設備の検測という重要な任務を担っているドクターイエロー。
では、そんなドクターイエローが引退した後、検測はどうするのでしょうか?

JRの発表によると、新形式であるN700S系に計測機器を取り付け、営業運転をしながら計測をするのだそうです。

どのような機器でどのように検測するかまでは公開されていないので詳しくはわかりませんが、パッと考えつくのはこのような感じでしょうか。

現在のドクターイエローが誕生したのが2000年ごろ。
あれから20年以上が過ぎ、検測機器も軽量コンパクトになったのでしょう。

さらに前述の通り、N700S系は既存の走行装置を小型軽量化できたとお話しましたが、そのスペースに軽量コンパクト化した検測装置も一緒に取り付けられるのだと思います。

また、営業運転中の列車で計測できるのであれば非常に効率的なはずです。
1編成のドクターイエローが走って検測するより、複数の営業運転車両で検測した方がより多くのデータを得ることができますし、検測の精度も上がるでしょう。

その上、ドクターイエローを走らせるための運転士や、監視を行うスタッフも同乗します。
そのスタッフの分の人件費も不要になりますから、コスト軽減にもつながると思います。

この方式、既に九州新幹線では採用されているのだとか。
テクノロジーの進化により、安全運行への取り組みも大きく変わろうとしています。


でも、昔から「黄色い新幹線」があることは知っていたし、特別感のある新幹線がなくなってしまうのは寂しいものです。

ドクターイエローは鉄道ファンだけでなく、一般の人にも広く知られる存在になりました。
「見ると幸せになれる」なんて面白いですし、素敵ですよね。
そして、ドクターイエローに遭遇した小さな子供たちの笑顔も本当に印象的です。

できれば次期ドクターイエローも見たかったですが、時代の流れとともに役目を終える時が来てしまいました。
寂しいですが、多くの乗客の安全を守るために働き続けたドクターイエロー。
その功績を称えたいと思います。


記事中の画像および、タイトル画像は、数々の新幹線車両を製造されてきた、日本車両製造様のHPより使用させていただきました。

上記画像をクリックするとHPへアクセスできます。

日本車両製造様は日本のインフラを支える重工業メーカー。
全国の新幹線を制作するメーカーのひとつです。
ホームページには歴代新幹線の詳細な情報もありますので、興味のある方は是非覗いてみてくださいね。


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