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ネジバ語文法

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志賀十五による人工言語、ネジバ語の文法書です。
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ネジバ語文法25: ピボット

As discussed in §9.1, an S/A argument is shared with each verb in cosubordination (1). (1) Var-aq=gat kar xu~xut, fuk=sot. 1sg.m-erg.hum=1:pst 3sg.m.abs tr~hit go=thither “I hit him and (I) went away (A=S)” However, an S/P argument, or an

ネジバ語文法25: そのほかの従属節

 助動詞は格標識と共起し、さまざまな従属的意味を表す。このことから、格標識は接辞というより接語とした方が適切かもしれない。 1.1. “When”  “When” は「~することと」のように表す (1)。 (1) Sa-varab gat-ke, qat xivo su~suk VBLZ-child 1:PST-COM N3:NEG:PST fish TR~like 「子供のとき、私は魚を食べなかった」 意味を明確にしたければ、場所接語を用いる (2)。 (2)

ネジバ語文法24: 補文節

 助動詞は補文節の末に現れる。補文節はふつうSかPとして機能し、文末に現れる。(1) はSとしての補文節の例である。 (1) S-ur fok [ba-pafs xok=sur] 3SG-NPST good ADVLZ-rapid wake=3:NPST 「早く起きることはいいことだ」  補文節を目的語にとる動詞には sisir「知る」、papanas「話す」、xoxobof「思う」、mimir「見る」kikik「聞く」xixip「言う」vovosip「教える」などがある

ネジバ語文法23: 関係節

 関係節は主要部に先行する。関係節では助動詞が節末に現れる。S あるいは P のみ、すなわち絶対格標示の名詞のみ主要部となりうる (1)。準機能名詞も主要部となりうる (こちら参照)。以下の例では [ ] 内が関係節である。 (1) [Ko=sur Ziugo-q ka~kap=sat]-a fom [this.ABS=3:NPST Z-ERG.HUM TR~buy=3SG.PST]-NMLZ read 「これは十五が買った本だ」  S、P以外の名詞句を関係節で修飾したい

ネジバ語文法1: 音韻論

1. 音節構造 ネジバ語の基本的な音節構造は図1のとおりで、Cは子音、Vは母音、( ) は任意であることをそれぞれ示す。C3は /s/ でなければならない。 C1V1(V2)(C2)(C3) 図1: 音節構造  強勢は単語の最初の音節にかかるが、母音の連続 (二重母音) はその位置に関係なく強勢を受ける。この構造の唯一の例外は、名詞化接頭辞 i-/e-/a- を含む名詞で、これは VCV 構造となる。ただし、この接頭辞は通常、先行する要素と融合される。加えて、この接頭辞に

ネジバ語文法2: 助動詞

1. 助動詞 助動詞は文法要素 (人称と時制) のみで構成される。これは文 (または節) を完成させるために必要な要素である。言い換えれば、助動詞は定形標識である。助動詞の可能な形態を表3にまとめている。  ここでは簡単な例を挙げる (1)。助動詞は前接語 (enclitic) なので、先行語があればそれと音韻的に結合する。 (1) a. Gat fuk 1:PST go 「私は行った」 b. Ku=qur? come=N3:NEG:NPST 「お前は来ないのか?」  

ネジバ語文法3: 名詞範疇1

1. 自由代名詞 自由代名詞は節内において任意の要素である。一人称・三人称代名詞は女性形が無標である。つまり、男性も女性も女性形で指示できる。三人称代名詞は人間、非人間、場所、時、事態の区別がある。再帰・相互代名詞 sas は自動詞主語 (S) と他動詞主語 (A) として機能することはできない (後述)。 2. 指示詞と不定代名詞 指示詞と不定代名詞は、その文法的な振る舞いから同じカテゴリーに属す。 指示詞と不定代名詞は、名詞と同じように格接尾辞がつく (1a)。準機能

ネジバ語文法4: 名詞範疇2

1. 格 項には、表 8 の格接尾辞のいずれかを付加する必要がある。自由代名詞を含む名詞の格配列は、能格絶対格型である。つまり、自動詞の主語と直接目的語は絶対格、他動詞の主語は能格で表される。 1.1. 絶対格  絶対格はゼロで、自動詞の主語 (1) と他動詞の目的語 (2) を表す。 (1) Var-Ø=gat ku 1SG.M-ABS=1:PST come 「私は来た」 (2) Gat mi-Ø no~nom 1:PST water-ABS TR~drink 「私

ネジバ語文法5: 名詞範疇3

1. 限定所有 ネジバ語では、限定所有に譲渡可能・譲渡不可能の別がある。譲渡可能所有では、所有者は能格で表される。ネジバ語の譲渡可能所有は所有権所有と名詞化された動詞を含む (1)。名詞化された動詞では、S、A、Pの区別は中和され、すべて能格で表される。周辺項に由来する名詞句はリンカー -tu で標示される。 (1) a. kar-aq-i sum 3SG.M-ERG.HUM-NMLZ live 「彼の家」 b. Ziugo-q-i ku Z-ERG.HUM-NMLZ co

ネジバ語文法6: 動詞範疇1

 動詞自体には、人称、時制、法の情報はなく、それらは第2章で述べたように助動詞に表される。連位接続 (cosubordination) の場合のみ、主語が接頭辞として動詞語根に表されうる (後述)。動詞は結合価によって形態変化する。動詞の内部構造は図2に示すように単純である。  自動詞は形態的に無標である。非能格動詞、非対格動詞ともに (CV)CVC構造である。例外は、su「なる」、ku「来る」、xu「得る」、nu「眠る」、mbe「感謝する」で、これらは母音で語根が終わる

ネジバ語文法7: 動詞範疇2

1. 逆受動 逆受動と逆使役は同じスロットに属し、動詞語根の直前である。これらは動詞の裸形に付加される。  逆受動とは、能格標示の他動詞の主語 (A) を、絶対的標示の自動詞主語 (S) に昇格させる形態統語操作である。元の目的語 (P) には処格が付く。意味的には、逆受動は結果状態ではなく、活動の過程を表す。  S=A動詞の自動詞を使えば、動作主的主語を絶対標示にできるので、逆受動はS=P動詞によく使われる。例えば、(1) では逆受動はAをSに昇格させるための唯一の統語操作

ネジバ語文法8: 動詞範疇3

1. 適用態 適用態は、周辺項をPに昇格させるための統語操作である。適用態は、自動詞と他動詞の両方に適用される。元の主語は能格標示となる。元のPは (もしあれば)、絶対格でマークされ、節の中に残ることができる。しかし、新しい目的語は関係節の主要部になりうる一方、元の目的語はならないので、新しい目的語が真の目的語であると言える。適用態は、いわゆる「主題化操作」として分析することができる。時間的名詞句は適用態の目的語にはならないが、様々な周辺構成要素が適用態の対象になりうる。(1

ネジバ語文法9: 動詞範疇4

1. アスペクト ネジバ語に特別のアスペクト標識はない。かわりに、表13の接語が動詞に付加され、アスペクト的意味を表す。 (1) a. Gat na~nas=xue 1:PST TR~create=up 「私は作り上げた」 b. Gur kup=xut 1:NPST eat=inside 「私は食事中だ」 c. Kar=sat kanad=sot 3SG.M.ABS=3:PST play=outside 「彼は遊び出した」 d. Gat Zipan-ki fuk=zen 1

ネジバ語文法10: 動詞範疇5

1. 叙述所有 所有表現には二通りの方法がある。一つは mot「持つ」を使った他動詞表現で、所有者は能格標示の主語、所有物は絶対格標示の目的語となる。この構文は一時所有に用いられる (1)。 (1) Ziugo-q=gur-i kir mo~mot Z-ERTG.HUM=1:NPST-NMLZ cut.ABS TR~have 「十五はナイフを持っている」  もう一つの方法は存在動詞を用いるものである。この構造では、所有者は与格標示、所有物は絶対格標示の主語となる。(2),