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【読書と音楽】Catcher In The “  ”

・記事概要

The Catcher in the Rye/J.D.サリンジャー 村上春樹訳 (『ライ麦畑でつかまえて』という邦題でも知られる小説、以下ライ麦)

Catcher  In  The  Spy/UNISON SQUARE GARDEN(ユニゾン、日本のロックバンド)の5枚目のアルバム


ユニゾンのファンである私がCatcher In The Spy(以下CITS)というアルバムの元ネタを探ってやろうではないか、と意気込んで本を読んだ記録である。

元々別記事の一部としてしたためられていたが、読書の記録の一部分で扱える範疇を超えそうなので、独立したひとつの記事として投稿した。

ネタバレ中のネタバレ、1番美味しいところを抜き出して美味しくなさそうに食べる感じの記事になってしまった。

タラタラ書いたので長い。


・ストーリー・ライ麦(小説)

成績不振で退学を余儀なくされた主人公がプレップスクールを去っていく数日間の物語。

プレップスクールを放校になったのはこれが初めてではなかった。

学期の終わりまであと数日、親元に帰るわけにもいかずふらふらと彷徨うこととなる。

気に入らない寮の友人らと会話し、全校生徒が集まるフットボールの試合を抜けて先生と別れの挨拶を交わし、ホテルに泊まり、酒を飲み、女を引っ掛け(ようとするがうまくいったとは言えない)、、、というささやかな非日常の日々を過ごす。

一言感想を述べると、読み終わった途端に主人公が経験したイベントを忘れてしまいそうなくらいサラッとした本だった。(圧倒的読解力不足)


・タイトルの意味は

さて、キャッチャー・イン・ザ・ライというタイトルは、主人公が道端で見かけた少女が歌っていた「Comin Thro' The Rye(ライ麦畑で出会ったら)」という曲からきている。


モラトリアム的主人公が親のいない隙を狙って帰宅、妹と対話するシーン。
妹は主人公にこう投げかける。

「けっきょく、世の中の全てが気に入らないのよ」
「気に入っているものをひとつでもあげてみなさいよ」

答えられない主人公に、さらにこう語りかける。

「それはもういいから、他のことをあげてみて。将来何になりたいかみたいなこと」


この答えが、the catcher in the ryeなのだ。


「でもとにかくさ、だだっぴろいライ麦畑みたいなところで、小さな子どもたちがいっぱい集まって何かのゲームをしているところを、僕はいつも思い浮かべちまうんだ。(中略)
それで僕はその辺のクレイジーな崖っぷちに立っているわけさ。で、僕がそこで何をするかっていうとさ、誰かその崖から落ちそうになっている子どもがいると、かたっぱしからつかまえるんだよ。(中略)
そういうのを朝から晩までずっとやっている。ライ麦畑のキャッチャー、僕はただそういうものになりたいんだ。(後略)」


ライ麦畑でつかまえて、というタイトル自体はだいぶ前から聞き覚えがあった。

勝手に「さあ、私を捕まえられる?」的な恋愛小説を想像していたが、全然違った。


ストーリーで引用した妹のセリフの通り、主人公は「けっきょく、世の中の全てが気に入らない」のだ。

主人公目線で語られる物語の冒頭からしばらく、私はくだらない環境に押し込まれて窮屈そうな主人公像を思い描いていた。

しかし、主人公による友人アックリーとストラドレイターへの所感が増えるにつれ、彼自身が随分と斜に構えた、卑屈な人間であることに気づく。


厭世的でこんな世界にうんざり、というスタンスの主人公が好きなのは今話している妹や、亡くなった弟だった。

彼女らのように無垢な存在を崖っぷちから救わなければいけない、という意志自体は好意的に受け取れる。


書評をするほど深読みできていないので、ライ麦の話は一旦切り上げる。


・CITSの持つ魔力

私にとっての本筋、CITSの話に入ろう。

アルバムとして再生する前から、代表曲を集めたプレイリストで収録曲のいくつかを聴いたことがあった。

好きな曲、いいなと思う音があった。

しかし、CITSは通して聴いた時にただの足し算にすぎない力を発揮する。

初めて通して聴いた時(※)にこれはすごいアルバムだ、と思った。

※作詞・作曲者はアルバムをシャッフルせず収録順に聴くことを推奨している。推奨しているというか、そう聴かれることを意識してセトリを組んでおりその才能に自負がある。


傾向の話をすると、ポップサウンドに寄せた3作目の揺り返しでジャキジャキのロックに振り切っている曲が多い。

ジャケットは黒。中心に眼光鋭いフクロウを据え、闇に浮かび上がる電球、手が写されている。

キャッチコピーは『事件ならとっくに起きてる。


・ディスクレビューに挑戦

この章でやっていることは愚行かもしれない。

それでも、CITSという素晴らしいアルバムを自分なりに咀嚼するために進めたい。

曲ごとに歌詞をより出して解釈らしきものが入る。

まだ聴いたことがない人が想像しやすくするため、勝手にバキバキな曲と柔らかめの曲を判断しタイトル後に記号(★☆)を付した。

1 サイレンインザスパイ ★

アルバムタイトル「インザスパイ」を持つ曲が最初に登場。

幼女の笑い声、「キャッチャーインザスパイ」の呟きに続き重めのバンドサウンドが始まる。

漆黒に差す光で目が眩むような、CITSの世界に一気に引き摺り込まれる。

リード曲らしい疾走感が魅力。

この歌詞は私には理解が難しすぎるのでスキップで。いきなり戦いを放棄する。

じゃあやっぱりぶっ込めサブマシンガンとか

2 シューゲイザースピーカー ★

サイレンからの繋ぎが至上の芸術品。M1とセットでこのアルバムの方針を示しているように感じられる。

「ポピュラーとか知りません、というか私には関係ございませんので」

とでも言うようなサウンドと歌詞。

審議天秤持って来てよ
バランスを計りたい、なんて言う
あなたのバランスなんて聞いてない
そうでしょう

尖っているのに柔らかい。

どんなヒットソングでも救えない命があること いい加減気づいてよねえ
だから音楽は今日も息をするのだろう

音楽が、彼らが息をする。

マジョリティからはみ出して救われない人々の心に確実に刺さるように。

3 桜のあと(all quartets lead to the?)  ★

アニメ提供曲ながら、作品へのリスペクトだけでなく彼ら自身のスタンスがよく表されている。

愛が世界を救うだなんて僕は信じてないけどね
今 目の前の君が明日を生きれるくらいには
ありえない不条理はぶっ蹴飛ばしていけ

等身大のことしか言わない、それでいて確かに寄り添ってくれる。

足りない!キック、リズムを打て!
ベース&ギター
おまけに僕が歌えば四重奏

3人で奏でる至高の四重奏。

4 蒙昧termination ★

M3までに比べややテンポダウンするものの、冒頭にソロで鳴らされるジャキジャキのギターの音色がロック。大好き。

タンタン タタン タッターンてドラムが続くのもいいですね、好きです。(ただの感想)

ユニゾンのサウンドを称するのに「スリーピースバンドなのに重厚な」といった言葉がよく使われる。

それが体現された四重奏を演じた直後に、最低限の音で表現したイントロがくる。

3曲走りきって、手を緩めたかと思いきや全く良心的ではない。

尖りっぱなしだった前半のラスト、アニメからきた新参ファンの期待を裏切る意外性を見せているよう。

手札ならいくらでもあるぜ、と不敵な笑みを浮かべていそうだ。

固定の概念 ぶっ壊してしまいたい
さあ斜めに刺せるカウンターが
ちらほら 来るぞ like a ビショップでもっとやれ

「♪れ れ れ れれれれ ギター!」

ギターボーカル自らによる宣言(コール?)、続くギターソロ、痺れる。

5 君が大人になってしまう前に ☆

アルバム中盤に差し掛かり、曲調が柔らかく歌詞も穏やかな優しい曲に。

孤独を感じて涙流すなら
隣にいるから

必要な時に必要なところにいてくれる。

いつか段々君にとって
必要なくなっちゃうけれど
それこそが未来への許可証なんだね

それでいて必要なくなっちゃったら、それをそっと見守ってくれる。

この距離感が、彼らの音楽を必要としている人に染みるのだ。

6 メカトル時空探検隊 ☆

また表情を変えて今度は少し陽気なメロディ。

正論すぎるパラドクス
面倒くさいから見ないフリ
道理摂理蹴っ飛ばしちゃう
異論はない、
はてさてどうしようか?…

「桜のあと」にも通ずる等身大の優しさ。

そんなに全部難しく考えなくていいじゃん、というフラッとした感覚が心地よい。

7 流れ星を撃ち落とせ ★

少し箸休めをしたところで一気に黒い世界に引き戻される。

大事件なら既に勃発中 逃げろ

アルバムキャッチコピーを思い起こさせる一言がここに。アルバム曲ながらCITSの核を担うといっても過言ではないだろう。

Shooting shooting star どれだけ悲惨な時代だったとて
続くshooting shooting star 君の命は必要なんだよ

攻撃的なメロディーに乗せてごくシンプル、ストレートにあなたの命が大切だと歌う。

撃ち落とされてぇーーーーーーーーーー。(ただの感想)

8 何かが変わりそう ☆

またしても曲調が一転、爽やかなメロディーに。

一人は好きだけど
孤独が寂しくなっちゃって

誰にでも共感できそうな一節。

「一人だけど独りじゃない」

こう言われたら涙がこぼれてしまうのもやむを得ないと思う。

9 harmonized finale  ☆

こちらもアニメタイアップ曲。

最終回的な位置付けのアニメへの書き下ろしだったと記憶している。

タイトルからフィナーレを謳う、思い切りの良さ。

ピアノの旋律が美しい。四重奏のバンドサウンド以外を排しがちなCITSの中で異彩を放つ存在ながら、全く浮いていない。

曲の根底にあるものが変わらないからだろう。

立派にキレイに見えるように飾ったら
立派にキレイな答えが出るけれど
大層な虚栄心に満たされるほうが怖い


さて、ここまで前半を駆け抜け、少し休んでバキバキに撃ち落とす。涙を誘って盛大なフィナーレを歌い上げた。

しかしこれで終わらないのがキャッチャインザスパイ。

このフィナーレは言わば「クライマックスはここから始まる」位置付けの曲。終わりでありながら実際の役割は終わりの始まり。

ジェットコースターのように激しい上げ下げを繰り返してきたが、まだまだ終わらない。

10 天国と地獄 ★

彼ららしさが全面に出たロックナンバーがまだあります。

ユニゾンのイントロがカッコいい曲ランキングを作れば上位に食い込んできそうな激しいサウンド。

そこに気持ちよく伸びて発散していくような歌詞が乗ってくる。

札束と談合のフラストレイト

勢い、難解な語彙、音数と威力。そしてここにかけられた

白い壁投げつけるfresh tomato

言葉遊び音遊び全開、やりたい放題である。ちなみに作詞者はトマトが嫌いである。

これが心地良すぎて飛ぶ。もう天国でも地獄でもどこへでも飛ばしてくれ。

揺るがない条件と 確かな理由を挙げて
ご回答めしませ

11 instant EGOIST ☆

個人的に、音楽性はメカトルに近いテイストに感じられる。

「フゥ〜!!」って言ってるもん。

陽気でいて優しい。もう優しいっていいすぎたけれども本当にずっと優しいから仕方がない。

さあ願いをのたまいたまえ
不安定な意地を張っていたんだね
ほら よーいどん、でエゴイスト

タイトルから推察される通り、肩の力を抜いて楽になっちゃおうぜ!と歌う。

だからストップモーション
常識はどっか飛んでっちゃったんだよ
さあ眼鏡を曇らせたまえ

型通りに生きねばという重圧を感じている人へ。

12 黄昏インザスパイ ☆

いよいよ本当の終わりインザスパイ。

ここまで長いようであっという間だったはず。

前曲で楽しく「ほらインスタントエゴイスト」と言われてみたものの、みんながその言葉にただ楽しく踊らされる訳ではないだろう。

そうは言っても世を渡り歩いていかなくてはならないし、どうしても目を背けられない辛いことだっていくらでもある。

そんな中で戦う人へ

止まれないなんて焦ってる君に歌うよ
止まれないなら車に轢かれちゃう

止まれ、と命じるのではない。

ただ、止まるべき理由・事実をそっと置いてくる。

負けない どうせ君のことだから

投げやりな印象を与えがちな言葉「どうせ」が、人を勇気づける魔法。


・まとめ(仮)

拙い語彙ながらここまでアルバムを振り返ってきた。

等身大の言葉で、必要な時に寄り添うように、押し付けがましくなくただそこにある音楽。

どんなヒットソングでも救えない命があること いい加減気づいてよねえ
だから音楽は今日も息をするのだろう

多くの人ではないかもしれないが、確実に必要とする誰かに届いているはずだ。


インザスパイのキャッチャー、捕まえて、救う者。

誰かその崖から落ちそうになっている子どもがいると、かたっぱしからつかまえるんだよ。
君の命は必要なんだよ

絶対に命を救うという意志が全曲の隅々まで行き渡っている。

あの手この手と変えながらも曲と曲が繋がり、そのメッセージがより強固になる。

私の人生に、このアルバムと出会うというオプションが備わっていてよかった。


・あとがき

今度別添えにしますー

と言っていた読書記録の続きなので、連続投稿の絶えぬうちに語り切ろうと仕上げたが、中々難しかった。

素晴らしい音と詞をわざわざ言葉にする必要もないのだろうけれども、大好きなものに端から端まで目を通していく時間を作ったのはよかった。

CITS愛を叫んだブログはいくつか目を通したことがある。

私にもそれくらいの伝える力がついたら、また腰を据えて改めてCITS語りに挑戦するかもしれない。


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