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森見登美彦_『夜行』津軽
一般に聖地巡礼と呼ばれる行為のまとめ。
森見登美彦『夜行』
僕らは誰も彼女のことを忘れられなかった。
私たち六人は、京都で学生時代を過ごした仲間だった。
十年前、鞍馬の火祭りを訪れた私たちの前から、長谷川さんは突然姿を消した。
十年ぶりに鞍馬に集まったのは、おそらく皆、もう一度彼女に会いたかったからだ。
夜が更けるなか、それぞれが旅先で出会った不思議な体験を語り出す。
私たちは全員、岸田道生という画家が描いた「夜行」という絵と出会っていた。
私は、森見登美彦さんを京都の妖しい魅力飛び出すファンタジーを多く手がけている作家だと認識している。
ご自身が日常の延長線上に広がる別世界への憧憬を幼い頃から抱いていたと述べている通り、「神隠し」的な描写も複数の作品で見られる。
『夜行』もその一つである。
『夜行』は、黒髪の乙女の背中を追い続けたり(夜は短し歩けよ乙女)、愛くるしいたぬきがころころ転がり繰り広げる(有頂天家族)ポップなファンタジーとは一線を画した、ホラー寄りのファンタジーだ。
殺人的暑さの京都の夏でも腹の底がヒンヤリとしてくるような、思わず冷や汗を浮かべるような奇妙さがたまらない。
読書案内を重ねると、『きつねのはなし』や『宵山万華鏡』に近い作風と感じる。シリーズものではないので興味があれば気軽にぜひ。
また、京大生の四畳半的世界を飛び出し、第一夜「尾道」から第四夜「天竜峡」と紀行文的短編小説を重ね、全てを束ねる最終夜「鞍馬」に至るのが特徴的だ。
今回は青森が極まるのを目撃しに北上したため、ついでに巡った津軽を記録。以下、引用は全て森見登美彦『夜行』より。
彼は連続する夜の世界で暮らしていて、そこで見えた風景を作品にしていた……だから『夜行』なんだって
第三夜『津軽』
「明日は津軽鉄道の終点までいきますからね」 そこには何があるのかと訊ねても、児島君は「何があるんですかね」と首を傾げるばかりで、夫も「知るもんか」とトボけていました。いつものことですけど呆れてしまいます。
『夜行』では、上野発の夜行列車で弘前へ。そこから五所川原、津軽鉄道へ乗り換え津軽五所川原から終点津軽中里へと順路を辿る。
夜行列車はないのでやむを得ず夜行バスにて青森に至ったのでした。
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『夜行』はなかった。
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「とにかく終点まで行くことに意義があるんですよ」と児島君は言いました。「ボンヤリ生きていたら津軽鉄道の終点で降りることなんか絶対にありません。そんな人生、僕はいやですね」
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「そうかもしれない」と思ってしまう性だ。
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そして私たちは駅前から延びる通りを歩いていきました。 役場の前を通りすぎると、小さな商店や理髪店、パチンコ店がぽつぽつと営業していました。立派な庭木のある古い屋敷もあるところを見ると、かつては栄えた町なのでしょう。しかし往来する人の姿はほとんどありません。
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営業中のお店もあった。
夫と私は津軽鉄道で津軽五所川原駅まで戻り、駅から少し歩いた交差点にある二階建ての珈琲店に入ることにしました。青森市内へ向かう前に昼食を取ろうと思ったのです。
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アンティークや観葉植物を飾った店内には静かな音楽が流れ、食器を洗う音や囁き声のやわらかな響きが心を落ち着かせてくれました。
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私たちは五所川原の駅前へ戻り、タクシーの事務所に相談して、三内丸山遺跡まで送ってもらうことになりました。
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児島君が前もって予約してくれたという和食料理の店は、青森駅から東に延びる表通りから南へ一本入ったところにありました。
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私たちはシャッターを下ろした商店や古びた雑居ビルが連なる裏通りを歩いていきました。
(中略)
私たちは市場のような建物の前を通りかかったところでした。「青森魚菜センター」という看板があり、半分下ろされたシャッターの隙間から蛍光灯の明かりが洩れています。
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感想
「楽しかった?」と聞かれたら、物語の舞台に立つのはそれなりにワクワクはするが、別にものすごく楽しいレジャーではないよなと思う。青森まで来る動機となったライブはいつもながら期待を裏切らなず非常に楽しかったです。
どちらかというと、一時間に一本を割る電車やバスで「ただそこに至る」を最大の目的にした土地を巡るのは結構大変だった。しかも移動の一つ一つが一時間超とほぼ移動メインの旅だ。
青森県で行きたいところ、やり残しなく全て終えてしまえばもう二度とこんなところまで来なくていい、と思いながら回ったような気がする。
全く関係がないけれども、移動の連続の間に頭の中を長く巡っていた音楽がSister Judyのアウトロだったことをここに記録します。
とはいえ、適当に少し先の楽しみを設けながら人生をやり過ごしている私にとって、児島くんの考えはなかなか響くものがあった。(下記含め、引用部は物語の本筋とは関係がないところばかりだったけれども)
「とにかく終点まで行くことに意義があるんですよ」と児島君は言いました。「ボンヤリ生きていたら津軽鉄道の終点で降りることなんか絶対にありません。そんな人生、僕はいやですね」
何もないからその土地を踏むことに意味がないと決めつけてしまえば、津軽鉄道の終点で降りることなんて絶対にない。
そんな人生、私もいやですね。
行き着いた先に何もなくても、これからも面白半分でいろんなところへ行ってみたいな。
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