とあるセミナールームにて
……ん?……ここは。
???「目が覚めましたか?」
……えっ?いや、……え?
???「心配しないでください。まずは、おちついて」
は、はい……。えっと……ここは?
???「はい、ここはただのセミナールームです」
(そうだろうけど……)
???「そうでした。自己紹介がまだでしたね。私は水瀬と申します。普段はしがないサラリーマンといったところですかね」
は、はぁ……。
《ガチャガチャガチャ》
えっ!腕が……!水瀬さん!
水瀬「はい、どうかしましたか?」
いやいやいや、腕!椅子の後ろでなんか縛られてるんですけど!
水瀬「ああ。まあまあ落ち着いてください。まずはそこからです」
まずはそこからって……。早く取ってくださいよ、これ!
水瀬「すみませんが今の私には取ることができないんですよ。本当にすみません」
じゃあどうしたら……。
水瀬「大丈夫です。今からこの部屋からの出方を説明しますので、ですので、ね。とにかくいったん落ち着きましょう」
……は、はい。
水瀬「ありがとうございます。それでは出方についてお教えしますね。と言ってもそんなに難しいことはなくて、私の話を聞いていただいて、それが終わればそのチェーンが切れるようになっているんです」
そうなんですね。
水瀬「はい、その後私が説明したことをあなたの言葉で説明していただけたら合格。この部屋から出られます」
なるほど……(それじゃあちゃんと聞いておかないとな……)。
水瀬「そんな長い話ではないので気負わずに。準備はいいですか?」
は、はい!
水瀬「それでは始めますね」
水瀬「それでは最初に、あなたの心の弱いところって、正直どこだと思いますか?」
えっ?ええと……。
水瀬「難しく考えていただかなくて結構ですよ。なんかうまくできなかったな、とか、ちょっと嫌な思いをしたな、とかそういうところから考えていきましょう」
う~ん、そうですね……。あ、そういえばこの前
水瀬「はいはい」
仕事で音楽作っていまして、ありがたいことにファンといいますか、応援してくれる人がいてくれているんですけど、
水瀬「すごいですね!」
はい。でですね、この前もちろんできることはやったつもりではいますが、正直コンペに出して採用されるとは思っていなかったんです。
水瀬「なるほど……」
後から知った情報で、まだ歴も浅い若手の方と話をしていたら同じコンペに曲を出していたらしくて、そのボツ音源を聴かせてもらったんです。
そうしたら、まあ、どう考えてもそっちの方がよかったんですよね。作品の雰囲気とも合っていました。
水瀬「……」
コンペの審査をした人からは、作曲家自体にファンがついているぐらいの人に担当してもらった方が作品にも箔がつくという理由で選んだ、みたいな話を聞きました。
水瀬「……そうなんですね」
はい……。
水瀬「つまり、肩書きといいますか、これまで確立してきた世間の評判が独り歩きしていて、本当にいいものが評価されないのは残念だ、ということでしょうか」
そうなんです!それで、私の名前を出さずに匿名で曲を公開して見たらどれぐらい評価されるのかなって――。
水瀬「わかりました。それではこちらをご覧ください」
《キュッキュッキュッ》
えっ!?これどうやって書いたんですか!!!?
水瀬「細かいことはいいじゃないですか」
えぇ……(ペンの色が圧倒的に足りていないが……)。
水瀬「でですね、この女性、桑山千雪というアイドルなんですけど、彼女もあなたと同じような悩みを抱えていました」
……。
水瀬「アイドルを始める前からずっと取り組んでいた小物づくりの経験を活かして、ラジオ番組の企画で手作り小物をチャリティーオークションとして出品することになるんです」
はぁ……。
水瀬「でも、本当につけたかった名前を付けることができず、少し意地にもなって自ら匿名でネットオークションに自分で作った小物を出品するんです」
……っ!
水瀬「でも、その小物は見向きもされずに最初に設定した 1 円のまま。一方でラジオ企画の方の値段はどんどんと上がっていたんですね」
……!
水瀬「彼女もとても悩んでいました。評価されているのは一体だれなのか、『私』というのは一体どこにいるのか」
ッ……!
水瀬「そこで優しく手を差し伸べたのが、彼女のプロデューサーです。こちらを続けてご覧ください」
《キュッキュッキュッ》
《キュッキュッキュッ》
うっ……!くっ……!
水瀬「涙、拭いてください」
……ありがとうございます。
水瀬「そうですよね、わかります。こんな言葉をかけてほしかったんですよね」
……はい。そうです。
水瀬「こういう風に救ってくれる人ってなかなかいませんよね」
そうなんです……。本当に……。
水瀬「わかりますよ。……少し落ち着きましたか?」
はい、もう大丈夫です。
水瀬「ああ、ちょっとせかしたみたいになってすみません。それでは……」
????「その若手の方にどのように声をかけたらいいのか、わからなかったことはありませんか?」
誰!!???!??!??!?!???
????「ああ、申し遅れていました。私は折田と申します」
はぁ……、折田さん。
折田「よろしくお願いいたします。それで改めてお聞きしますが、その若手の方にはなんと声をかけたのですか?」
えぇと……、そうだ。まあ応援したい気持ちはあったので、このまま頑張ってほしいという気持ちはありました。
水瀬「お優しい方ですね」
いえいえ、これぐらいは普通でしょう。……なんですが、彼も普段から頑張っていることは知っていましたので、なんていうか、頑張っている人に頑張れっていうのはなんかよくないような気もして……。
折田「なるほど……。水瀬さん」
水瀬「はい」
……?
折田「それではこちらをご覧ください」
水瀬さああああああああああああああん!!!!!!!!!!!!!!!!
折田「失礼しました。こちらではありませんでした」
水瀬(私は大丈夫です)
大丈夫なんだ……。
折田「……っと、こちらでした」
折田「この子は大崎甜花というアイドルです」
水瀬(先ほどの桑山千雪さんと同じユニットに所属していますよ)
折田「こちらはラジオのコーナーで応援してほしいというお便りをもらったシーンなのですが、その前にランニング中に自転車の練習を頑張っている女の子に頑張れと声をかけることについて疑問を抱いたあとでした」
折田「その結果、応援をすることについてためらってしまいます」
……。
水瀬(……)
折田「ですが、その後レッスンを経て、またその女の子に遭遇し、その子から応援してもらったことで頑張れたと言ってもらえました」
折田「この経験を通して、甜花は応援することについて根幹となる答えへとたどり着きます」
水瀬(ちょっとなんかえっちな顔ですね……)
……っ!そうですよね……!
折田「泣かないでください。ここから出たら素直に応援してあげればいいんです」
水瀬(そうですよ。そう思ってしまうことは誰にもありますから)
折田さん……!水瀬さん……!
《ガチャン》
えっ!チェーンが外れた!!!!!!!
水瀬「大変お待たせいたしました。難しい姿勢を強いてしまい、大変申し訳ございませんでした」
あ、戻った。
折田「どうでしょう。お話を聞いて少しは前向きになれましたか?」
は、はい。前向きというか、次の一歩を踏み出す方向がわかったというか……。
水瀬「素晴らしい!私たちも長い間準備をしてきた甲斐がありました」
折田「水瀬さんは赤ペン 50 本ぐらい練習で使ってましたもんね」
(……?)
水瀬「まあそれはともかく……、これで私たちの役目は終わりました」
折田「それでは私たちはお先に失礼します」
はい、ありがとうございました。貴重なお話を聞けました……!
水瀬「それではまたどこかで会いましょう」
……。
《バタン》
……じゃあ俺もかばんを取って出るか。財布ちゃんと入っているよな……、あったあった。よかった~。それじゃ……。
?「……」
え、あの……すみません。ここから出たいのでどいてもらえますか?
?「……」
えっと……。
?「……」
えっ?これは……。
甘奈……。もしかして、さっきの甜花さんの姉妹ですか?
?「……」
たぶんそうなんだろうな……。で、これをどうしろと?
?「……」
あ、これって……。
さっきのお話もここから見られるのかな……
?「いろいろな面でアプリ版よりブラウザ版の方がお得だぞ」
あ、喋れるんだ。それじゃあとりあえず読んでみますね……。
あっ、目が覚めましたか?よかった~。本当によかった。
えっとですね、ああ、まあ落ち着いてください。お話をしましょう。
CDかシャニマスのフェザージュエルに濃縮還元されるサポート