その星たちの瞬きは標【『ヒカリと夜の音楽、またはクロノスタシス』の振り返り】
本記事は 2023 年 4 月 30 日アイドルマスターシャイニーカラーズ内で公開されたイベントコミュ『ヒカリと夜の音楽、またはクロノスタシス』の感想記事になります。
ネタバレなど各自でご注意をお願いします。
わかっていて、だから
早速本題に入りますが、まず最初に、イルミネーションスターズというユニットは、これまでのイベントコミュでも自らの在り方を考える機会が多いユニットです。
特に印象的なところでは、『Catch the shiny tail』での真乃が灯織とめぐるの隣にいるというユニット内の関係性の在り方や、『はこぶものたち』での自らのアイドル活動が生み出してしまう影にも真摯に向き合い続けるという在り方があるでしょう。
『くもりガラスの銀曜日』でも他者のことは完全にはわからないから常にわかろうとする姿勢が必要だという在り方が表現されました。この在り方は、灯織のみが登場した越境コミュになりますが、他者は見えるように・見たいようにしか見えない他者をより理解して見て・見せたいという『線たちの12月』で提示された一見逆説的な在り方をもって強く補強されることになりました。
このようにイルミネーションスターズを中心として、アイドルマスターシャイニーカラーズは、ユニットごとにその深さは異なるものの、完全な実現が現実的・原理的に不可能なものに向き合う在り方を考え続けてきたコンテンツです。(こういうメッセージ性に対してよく「思想」という言葉を用いてしまいます)
一方で(特に初期 4 ユニットの)他ユニットは比較的ちゃんと行動に出やすい課題と向き合う傾向にあります。より行動に近いのはやはり放課後クライマックスガールズ、アンティーカでしょうか。アルストロメリアもやや在り方を考える傾向も強いですが、『Your/My Love letter』では特に発信する行動がコミュ終盤の肝になっていました。
このようなゲームで新たに『ヒカリと夜の音楽、またはクロノスタシス』で提示された在り方は、「ずっと」「絶対」という言葉や関係性への向き合い方でした。
いくら仲が良い 3 人だからといってそれが永遠に続くとは考えられず、それはもちろんイルミネ内だけにとどまらずに、ファンを続けてくれることやファン同士の関係など、ありとあらゆる関係に「ずっと」や「絶対」ということはないという現実があります。
このような事実に対してイルミネーションスターズはどのような在り方を見出すのか、というのが今回のイベントコミュの主題でした。
ただ、「見出す」というのはやや間違いで、今回は出来事の中で新たに見出すというわけではなく、今のイルミネーションスターズは既にもうその在り方について答えを共有していて成り立っていたということを発見することになります。
それは確かな星間距離
作中のプロデューサー(以下、シャニ P )と、おそらく読者である我々には最初に大きな誤解がありました。
それは、信じられないほど仲がいいイルミネーションスターズが言葉にしないながらもこの関係が「絶対」に「ずっと」続くわけではないということをわかっていた、ということです。
何回も言いますが、イルミネーションスターズは本当に信じられないほど仲が良く 3 人の距離が近いユニットです。数えられないほどお泊りをしているし、一緒にいられないときは何かしらのオンラインツールで時間を共有します。え、これピロートーク?みたいなとっても仲がよさそうな会話もしちゃいます。
シャニマス内では幼馴染だからといってずっと一緒にいるわけではないというノクチルの関係性がより進んできてからはより対照的にその距離の近さが際立っているようにすら感じます。
ただ、3 人はこの仲のいい時間は永遠には続かず、ずっと続いてしまいそうな今はあくまで「クロノスタシス」のような錯覚だということをどこか理解しながら居続けていたのです。
一方で、仲のいいイルミネーションスターズと表面上では対照的に描かれていたのがイルミネのファンである「少女」とその友達の関係でした。
おそろいのポニテでライブに来て、CD プレイヤーを学校に持ち込んでイヤホンを分け合って聞いて。イルミネ結成当初のシャニ P は 3 人の距離の近さもこのようになったらと思うほど仲の良さがあふれていました。
ただ、卓球部のダブルス解消を皮切りに、ほころんでいくようにコミュニケーションの密度が落ちて行って、文字通り疎遠になっていきます。
そんな関係性でも、「少女」はイルミネに対して今も一緒にファンをやってる仲のいい親友と偽りながらハイタッチ会に行ったり、ファンレターを送ったりします。
ずっと仲がいいイルミネに残念に思われないように嘘をつき続け、それをイルミネの 3 人自身も可能性として理解しながら向かい合い続ける描写はなかなか心苦しいところはありますが、このような関係性の変化は誰にも思い当たるような普遍的なことかと思います。近所とはいえ小学校の頃からずっと仲がいいなんてことはそうないはずです。
昔は引っ越しとかなどで物理的な距離が人を分けてる象徴だったけれど、様々なコミュニケーションツールがある今でさえその技術と関係なく、近所でどれだけ近くにいると思っていても心の距離は離れうる。
そんな普遍的なことをまざまざと見せつけられる、シャニマスらしいコミュになっていました。
いつかあの時になる歌
イルミネの 3 人はそんなずっと一緒が絶対保証されるわけではない現実を理解していることは先述しました。それでは、そんな現実に対してイルミネの 3 人はどのような在り方を矜持として持っていたのでしょうか?
この在り方の結果は最初に「少女」の視点から明らかにされました。
存在を忘れていた CD プレイヤーを取り出して、入れたままだった CD のイルミネの曲を「少女」が聴くことで、友達と仲が良かった頃のことを思い出しました。
当時曲を聴いたことで関係が元通りになることはないけれど、その曲があの時の気持ちとずっと一緒にいてくれる。アイドル、もっと広く音楽、さらには文化とは、このようにその時々の気持ちを時間を超えて心に留めておくための標たり得る存在です。
曲に限らずこのような体験をしたことのある人や、そのような作品がある人は多いのではないでしょうか。今回のイベコミュが多くの人の心に刺さるのは、この文化の普遍的な側面そのものに焦点を当てているからかもしれません。
そして、イルミネの 3 人はどこかで「ずっと」や「絶対」が難しいことを理解したうえで、それを言葉にして願い、祈りつづけます。そして、ファンたちもステージで輝く 3 人に対して、同じ願いや祈りを託す。その結果、時の流れとともに関係性は変わるけれど、その瞬間は歌とともに永遠に残り続けることができる。
願いや祈りとは別の形で実現できる過去になるこれまで今の固定化・永続化を行いながら、これからの今をずっと未来につなげていこうとする。この活動こそがイルミネーションスターズのアイドル活動だということが今回のコミュで描かれました。
輝きをみんなに届けよう
星というのは古来より様々な役割を人によって託され、担わされてきました。
一つは道標としての役割。北極星を代表に、星の輝きと星座は夜に位置や方角を知る技術がない時代には絶対的な指標として利用されてきました。
また、他には、流れ星に願いをするというのも星が担う一つの役割です。刹那の象徴である流れ星に祈る。それが難しいとわかっていながら祈ることでその願いを心に強く留めることが流れ星の役割になります。
『ヒカリと夜の音楽、またはクロノスタシス』では、そのような標や願いの対象としてイルミネーションスターズは自ら同士の関係性においても輝く星であろうとすることがイルミネーションスターズとしてのアイドルの在り方であることが示されました。
ここからはおまけの自分語りになるのですが、改めてこの記事を書くにあたって思い出した楽曲、そして当時を思い返すきっかけになった楽曲があります。
それは Wake Up, Girls! (以下、WUG)の『Polaris』です。
WUG は 2011 年の東日本大震災の復興をテーマに結成されたユニットで、2013 年に結成ました。2013 年から様々な形式でのアニメプロジェクトやライブを行い、2019 年 3 月 8 日にさいたまスーパーアリーナでのライブをもって解散しました。
私自身何か震災で人と人との関わりに直接的な被害を受けたということはないのですが、WUG はそれでもやはり単なるアイドルコンテンツ以上に様々な祈りや願いが託されていたアイドルユニットでした。
思い返せば活動の後半に入ってから公開されたこの『Polaris』楽曲は、2019 年 3 月にWUG の解散ライブで最後に披露されたデビュー曲の『タチアガレ!』の一つ前に歌われました。
『Polaris』は自ら歌詞を手掛けた楽曲で、その作詞や歌詞割りについてもメンバーそれぞれの過去や気持ちが反映されています。
そんな楽曲なのですが、解散してもなお私が「あの時」を思い出すことができる歌詞を少しだけ見てこの記事を終えようと思います。
CDかシャニマスのフェザージュエルに濃縮還元されるサポート