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おかえり、成歩堂龍一。『逆転裁判5』感想

 『逆転検事1&2 御剣セレクション』の発売を機に、今さらながら『王泥喜セレクション』で『逆転裁判5』をプレイしました。『4』の初プレイから約10年。奇しくも作中時系列と同じく、長い時を経て"成歩堂龍一の復活劇"を見届けることになりました。……感慨深いなあ。あの恐怖のツッコミ男がもう34歳か。

 『4』を終えた当時は「成歩堂! あんたほどの人がなんでそんなに腐れちまったんだ!? 納得できねえよぉ……!!😭」とモヤモヤ感が残るばかりでしたが、本作で払拭されました。ナルホドくんは、やっぱりナルホドくんだった。久しぶりの再会でそれが何よりも嬉しかったです。惜しい点は色々ありますが、逆裁シリーズのリブートを試みた気概を感じられる意欲作。備忘録がてら感想を書き残しておきます。

(※以下、『逆転裁判5』本編のネタバレを含みます。ご注意ください)










"心が壊れた瞬間"。子どもの無垢な思いであるだけに、なおさら辛かった。

 「依頼人を信じる」「真実を追求する」とは、これまでの逆転裁判シリーズで繰り返し語られてきたテーマだ。本作ではこれらに加えて「人の心に向き合う・寄り添う」という視点からシリーズを再解釈した作品である、というの個人的な所感。

 その象徴となるのが新システム"ココロスコープ"。証人の感情や心象風景を可視化し、そこに潜む不自然な感情や、現実ではあり得ない光景をムジュンとして指摘する。こと序盤では、事件に巻き込まれたショックで記憶が混乱している証人に対してこのカウンセリングを行ない、希月心音は「あなたがこういう感情を抱いているのは、こういう出来事があったからではないでしょうか」「これと見間違えたのではないでしょうか」と親身に語りかける。弁護士の本分は弱い人の味方であること、心に寄り添うこと。それをゲームデザインに落とし込むことで再認識させてくれた。

オドロキ:
オレは……希月さんのことを、
信じたいんです。

でも、盲目的に信じるだけじゃ
だめなんだ。

・・・・だからオレは
希月さんを告発するんです!

本当の意味で、
希月さんを信じられるように!

第5話『未来への逆転』

 思い返せば、これまでのシリーズにも、悪意のある嘘をついている訳ではないが「人が空を飛んだんだ!」と勘違いをしたり、悲しい過去を背負っているがゆえに文字通り心に錠をかけたりする人物と対峙する機会が多々あった。しかし、その謎を追求するのは決して糾弾するためではない。終盤で王泥喜法介が語っていた通り、追求するのはその人の言葉を信じたいから。その人の心に向き合いたいたいから。――と、やはりシリーズ全体を俯瞰できるようなシステムであるように思う。

 人の心に寄り添うココロスコープ。嘘や隠し事のサインを暴く"みぬく"。この二つはある種、対になっていると言えるだろうか。……そう考えると、王泥喜がどうしても希月に疑念を抱き続けてしまったことも、見えすぎてしまうから目を覆ったのも頷ける。なんせサイコロック以上に射程が広く、敏感に反応し、それは相手が心を閉ざしているからなのか、悪意なのかすらわからない。依頼人を信じるべき弁護士に"みぬく"能力がつくのは、呪いだとすら言える。どれだけ信じたくても、些細な言動のひとつひとつで疑心が芽生えてしまう。心に寄り添うことが簡単にはできない。王泥喜が弁護士として成長途中なのは元より、この能力を抱えていればいつか直面する葛藤にブチ当たった結果だと言える。

 てっきりピンチのナルホドくんを助けに来るもんだと思ってたら、むしろ立ちはだかってきたのは本当に衝撃的だったな……この呪いを乗り越えた王泥喜はどうなるのか。『6』でのさらなる活躍に期待したい。


 話が少し逸れてしまったが――証人たちが襲われた"恐怖"。王泥喜が抱え込んだ"疑心"。『5』ではそうした負の感情が個人レベルの話ではなく、世論すら巻き込んだ問題として描かれる。それが"法の暗黒時代"

 「ねつ造なんて蘇る逆転の頃からあったのに何を今さら……!?」と最初は思っていたのだが、どうやら重要なのは客観的な事実ではなく、人々が疑心を抱いている心理状態そのものであるようだ。7年前、成歩堂弁護士の証拠ねつ造事件(故意ではなかったが)と夕神検事の殺人事件が同時期に勃発。マスコミが法曹界のゴシップを書き連ね、国民もそれに踊らされ、法曹界の人間も巻き込まれていったのだという。やはりSNSは悪。インターネットやめろ。その影響力たるや、司法を根底から否定する「手段を選ばない」という教えがテミス法律学園で蔓延するほどである。あーもうめちゃくちゃだよ。

(そう。まだ、可能性はある。
彼女のココロの奥には・・・・)
(自分自身ですら気づいていない
キオクが眠っているんだ)

 その闇を祓う者こそが、暗黒時代到来のきっかけになった成歩堂本人。『4』で登場した黒いサイコロックの正体が判明し、しかも開錠に成功する。旧来のファンとして思わず胸が熱くなった。何より、開錠に成功したのは最後の最後まで心音を信じぬくという信念の賜物であり、またその行為によって王泥喜に道を示した。そこにはダルほどうの面影はもはやない。そして――

この変装をした"亡霊"と決着をつけることになったのは、成歩堂にとっては自分自身との戦いでもあったから、という暗喩だと思ってます。

 "恐怖"という感情に向き合わなかった"亡霊"とは異なり、成歩堂は自分の中にある"恐怖"に向き合った。彼の胸中には、希月が犯人かもしれないという疑心がほんの一瞬ではあるが芽生えた。"法の暗黒時代"に飲み込まれる人々と同じ心理状態に陥った。しかし、(いや・・・・ダメだ、しっかりしろ。ぼくまで疑ってどうするんだ!)と再び立ち上がり、その末に黒いサイコロックに挑んだ。そんな勇姿を見せつけたからこそ、希月も"恐怖"に向き合い、事件現場にいた第三者の記憶を取り戻すことができ、王泥喜も希月への疑心に向き合って戦うことができた。

 『4』で超えられなかった壁を越え、被告人を信じるという弁護士の本分を全うし、所長として部下たちに道を示し、図らずも自らがきっかけになった"法の暗黒時代"に終止符に打ち、過去を清算する。"成歩堂龍一の復活劇"として完璧な道程だ。『4』のダルほどうがショックだったからこそ、この復活劇は本当に嬉しかった。よくぞ戻ってきてくれた成歩堂。ミッちゃんも何かと根回ししてくれてありがとうね。……まさか検事局長の座に上り詰めていたとは思わなんだ。

師匠の愛娘を守るために汚名を被った男。愛する人の妹を守ったゴドー検事と重なるものがある。

 最後の裁判では夕神検事も立ち会う。冷酷無比な殺人鬼だと思われていた彼の正体は、自分の命を賭してでも無垢な少女を守り続けた"義"の男。"法の暗黒時代"のきっかけとなった二つの事件は、今や全く異なる真実を見せ、これから世に光をもたらすだろう――その逆転劇は、まさに「未来への逆転」

 エンディングでは、星成さんが自分の"恐怖"に向き合って再び宇宙に飛び立つ。王泥喜と希月は"喜び"を露わにし、成歩堂は二人を後ろからそっと見守る。そんな彼の姿を見て、私は自然とこうつぶやいていた――「……おかえり、成歩堂龍一」と。戻ってきてくれたんだな、未来へ進み続けるんだな、という実感が湧いた。そんなエンディングまで含めて、個人的にはシリーズ作でも五本の指に入るほど好きなエピソードとなりました。大逆転裁判シリーズ以来となる久しぶりの逆裁。長い時を越えて思わぬ感動をもたらしてくれました。


 ……と、ここまで良い点ばかり語ってきましたが、気になる点が2つ。まず一つ目は「捜査パートが平坦であること」

 これまでのシリーズでは最終話以外でも、『1』では小中に直接迫ったり、『2』では千尋さんにサイコロックが現れたり、『3』でもうらみちゃんの心情が語られたりと、捜査パートでも様々なドラマがあった。それに比べると本作は裁判パートに向けた準備でしかなく、作業ゲー感が否めなかった。導線がしっかりしているので迷わずサクサクと進められたが、調べられる箇所が少ないので漫才のような掛け合いを楽しむこともできない。推理アドベンチャーゲームでありながら、アドベンチャー(冒険)的要素が薄くなってしまっているという印象がある。

 二つ目は「トリックに不自然なご都合主義設定が多いこと」。……まあミステリでこれを言い出すとキリがないんですが。

 たとえば最終話は、そもそも希月が発射前日に見学スペースに訪れたという偶然がなければ、彼女に罪をなすりつけることはできなかった。気絶してしまったのは"亡霊"が襲いかかったからという可能性が考えられるが、だとしても爆発後もしばらく気絶しているかどうかはあまりにも不確定要素が過ぎる("亡霊"としては当初は犯人不明になればOKで、偶然起きた希月の状況を利用して罪を着せただけなのだろうか)

 希月がこの件を黙っていたのもやや不自然。彼女のトラウマに結びついているとも考えられるが、シナリオの都合で黙らされていたという読み取り方を私はしてしまう。また、真犯人が通路からハシゴに飛び移ったという推理について「そんなことをする必要はない」と語られていたが、いやマジでそう。「こんなことをできるのは"恐怖"を抱かない人間だけ」という結論を導き出すシナリオの都合上わざわざ用意されたものでしかない。3話も特殊状況や複雑な設定が多い割には、あまり衝撃的な真実には至らず、こぢんまりとした事件であった。

 テーマが先行し過ぎており、そこから逆算したミステリとしての歪な構造が目立つ。謎を解くカタルシスも不足していたように思う。『2』『3』のヒリついた空気が恋しくなった。


トドメはトリプル主人公による「異議あり!」。最高に痺れました。

 しかし冒頭でも述べた通り、そうした惜しい点はありつつも、トリプル主人公による群像劇を作り上げ、成歩堂龍一を復活させ、王泥喜法介の物語を『4』で終わらせず新たな葛藤を描き、今までのシリーズ作を「人の心に向き合う・寄り添う」という視点から俯瞰するなど、今までの焼き直しではなく、新しい逆裁を生み出そうとする意欲に満ち溢れた作品であった。

 近いうちに『6』もプレイしてみようと思う。嬉しいことに真宵ちゃんが再登場。霊媒システムはそれなりに難易度があって楽しめそう。何よりシリーズ集大成との噂を聞く。『5』からどこまで跳躍してみせるのか。期待のハードルが高まるばかりだ。それではいつも同じアレで締めます――異議あり❗


<3話「逆転学園」の個別感想記事>