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【ハピリリ】楽しいだけが"恋"じゃない——「こころに恋」「薄桃色にこんがらがって」を踏まえて聞く【シャニマス】

 「ハピリリ」は甘く切ない曲だ。ポップな単語が羅列されているのに、その奥底には一抹の寂しさが感じられる。単純なラブソングの範疇に収まらない、繊細な心の機微が描かれている。いつしか私はその魅力の虜になり、この曲を歌う三人の物語を思い出すようになった——

 「ハピリリ」は「こころに恋」「薄桃色にこんがらがって」を踏まえて聞くと切なさが増す。そんな私なりの解釈をまとめる記事です(※以下、「こころに恋」「薄桃色にこんがらがって」のネタバレを含みます)

千雪
「何かを好きって思う気持ちが
 人が変わるきっかけになることって、多いと思うの
 ……それって、恋と一緒だなって思って」

甘奈
「じゃあじゃあ、
 甘奈がメイクを好きって思う気持ちも、恋ってことだね☆」
桑山千雪sSR「こころに恋」(『変わりたい』のRecipe)

 「こころに恋」では、"恋"=何かを好きになる気持ち・人が変わるきっかけになるものと定義される。好きなものはゲームしかないと語る甜花だったが、アイドルのお仕事への好きという気持ち(=恋)でヘアアイロンの練習を試みて、新しい自分に生まれ変わる。というのがこのコミュの内容だ。
 ……なんだか後ろで茶々を入れる某委員長の顔を幻視してしまうが、それはまた別の話。

キミの視線追いかけ わざと前をとおる
わたしだけが見つめる 笑ったあと えくぼホリック
キミの好み探して わりと甘いメイク
わたしだけがひらめく ハートギミック

上手にちょっとぶつかって
どさくさぶってふれあって
両手をぎゅっと握れば急接近じゃん
ぐずってたってダメだって
いー感じって今日も背伸びでスマイル
「ハピリリ」作詞:鈴木静那

 そして、こちらは「ハピリリ」の歌詞。好きな男の子の気を引こうとする健気な女の子、そんな甘い情景が思い浮かぶ。
 この歌詞に、"恋"=何かを好きになる気持ち・人が変わるきっかけになるものという定義を当てはめると、より普遍的なものが見えてくる。それは、好きなものを掴み取るために、違う自分に生まれ変わろうと努力する姿だ。アイドルの頂点に輝くためにW.I.N.G優勝を目指す、何らかの目標に向かって努力する。そんな姿だ。
 ここまでなら、まだ夢見心地な雰囲気の歌詞だ。しかし、2番の歌詞は様相が異なる。

キミが仲良くしてる女の子はだあれ?
わたしだけじゃないなら ノットロマンス

友達だってわり切って
どこまでだってバカやって
切なくたって幸せ そのほうがいい
ビミョーなこの気持ちを
上手にかわすにはどうすればいいの
「ハピリリ」作詞:鈴木静那

 この歌詞で描かれる心情は「薄桃色にこんがらがって」の甘奈千雪に重なるのではないだろうか。
 甘奈が受けるオーディションはなあに? 復刊する雑誌『アプリコット』のグランプリを決めるオーディションだ。昔からその雑誌が好きだった千雪は、思い入れゆえに甘奈に気を遣い過ぎてしまう。そして、その心情に気づいた甘奈は千雪に後ろめたさを感じてしまう。やがて、千雪は思い切ってオーディションに参加表明をする。
 「3人で、アルストロメリア」だってわり切って、どこまでだって気を遣って、そうして切なくなっても好きな気持ちには正直でいたい。このビミョーな気持ちをどう処理すればいいのだろう——そんな葛藤が「薄桃色にこんがらがって」の序盤で描かれる。
 「こころに恋」で描かれる"恋"は、甘い希望だけが描かれていた。しかし、「薄桃色にこんがらがって」では、"恋"ゆえに辛い気持ちを背負ってしまうという別の側面が描かれる。それは「ハピリリ」における1番と2番のサビの歌詞の落差と重なる。

ラブダビ ふくらんだ胸の中には

ラブダビ 甘くキミが漂う

小さなことも違う気がする

恋をしているのかな
[……]
ハピリリ 走ってく胸の痛みは
ハピリリ しみるスパイスのよう
だいじなことが変わる気がする
恋を知ってゆくのかな
「ハピリリ」作詞:鈴木静那

 3人で、アルストロメリア。そんなアルストロメリアの大事なものが変わる気がする——千雪と甘奈は「薄桃色にこんがらがって」の出来事を通して、甘い希望だけではない本当の"恋"を知ってゆくことになる。

会いたいけど会いたくないの
聞きたけど聞きたくないの
知りたいけど知りたくないの
言いたいけど言いたくないの
「ハピリリ」作詞:鈴木静那

 ここなんかは第6話の反対ごっこを思い出す。言いたいけど、言ってしまったらアルストロメリアの関係性が壊れてしまうかもしれない。そんな怖さを乗り越えて、反対ごっこで本音を言い合うことで、甘奈と千雪は全力で戦う覚悟を決める。

甘奈
「いい時だけ一緒なんじゃなくて……
 そうじゃない時も一緒なんだってこと」
薄桃色にこんがらがって エンディング「エンドロールは流れない」

 きっと楽しいだけが"恋"じゃない。何かを好きになる気持ちを抱き続ければ、辛い出来事だってある。千雪はオーディションが終わった後も悔しさを忘れない。しかし、そんな酸いも甘いも噛み分ける体験をしたからこそ、アルストロメリアの絆はより深いものとなった。

ワンステップ。一緒に見たい、空の上
【オーバーキャストモノクローム】大崎甘奈 衣装説明文より

 曇り空を一緒に見上げる。私は「ハピリリ」を聞くと、そんな彼女たちの物語を思いだし、今でも目頭が熱くなる。


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