バリウムから「身を委ねる」を考える
胃に持病がない限りは、人間ドックが対象となる年齢以降に胃の検査のために胃カメラまたはバリウムを飲んで検査する。
何となくの興味で半日ドックを23歳の時に申し込み、初めてバリウムを使った胃の検査を受けた。
そこで私は胃の検査の驚きと楽しさを覚えてしまった。
バリウムを飲んだ後に発泡剤も飲んで、ゲップをこらえながら手すりのついた台の上に乗る。
検査員がガラス越しにマイクで「手すりを持ちながら台の上で一回転してください。そこで少し右に向いてください。あ、もう少し右。はいそこで息止めて」等と指示を出す。
台が動いて上下逆さまになる。頭から落ちないように手すりをぎゅっとつかんで、態勢を整える。そこでまた「左に45度傾いて、はいそこで息止める」と再びアナウンスされる。
最後は、ハンマーのようなものでゆっくりとお腹を圧迫して終わる。ゲップ我慢大会も終了。
バリウムを胃の全体に広げて、あらゆる角度から胃の撮影を行うために台が動き、自らも台の上をぐるぐる動き回る。
時に逆さづりになりながらゲップを我慢して、
人から言われた通りに身体を正確に動かす。
こんなことを大人になってからやることになるとは思わないし、自分だけでなく中年以降の男女は誰もがやっているのだ。
年齢を重ねるほど、経験値が上がり何か言われたら「それね、はいはい」と立ち回り方が分かって動けるし、お客様や上司、家族の意をくみ取り先回りして動くなんてことも増えてくる。
それが大人というものだ。
しかしバリウムの胃の検査は違う。
検査員が言った瞬間に動き・止まるを繰り返さないと、ダメ出しを受ける。
言われた通りに身体を動かすことを忘れかけている大人にとっては、意外と難しいのではないだろうか。
頭の中は思考を巡らせ、心は忙しなく揺れ動く。
そんな頭や心に身体は一生懸命ついていこうとしている。
たまには頭の回転を緩め、心を落ち着かせて声の通りに身体を看て身体を動かすことができる、ヨガをするのはどうだろうか。
下剤を飲んでトイレと友達になるバリウムを飲まずとも、
誰かに身を委ねる心地良さを味わいながら、身体の調子を自分で感じ取ることができると思う。