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6月誕生石 真珠~蓬莱の玉の枝

真珠は6月の誕生石。


今日は淡水パールを使った物語に登場するアイテムをモチーフにしたピアスのお話を綴ります。

【こんなシーンでつけて欲しい☆妄想ストーリー】

カーテンの隙間から射し込む月明りに気付いて、指先でそっと開けて窓の外に目をやる。
(今夜は満月か・・)
小さくため息をつく。
どれだけ月日が経とうと、忘れられないこともある。

振り返ってベッドで可愛い寝息を立てているケイを見つめる。
顔にかかった柔らかな前髪を、起こさないようにそーっと分けてあげながら優しく頭を撫でる。

5歳になった息子の寝顔は、やっぱりパパに似ている。
長い睫毛が時々ピクリと動く。
あの人もこんな風に長い睫毛だった。

朝、いつものようにバタバタと準備に追われながら、ケイを幼稚園へ送り出す。
「ママ、いってらっしゃーい!」
「はーい、ケイちゃんもね!」
お互いバイバーイと手を振る。

ケイが先生に手を引かれて見えなくなると、私は職場へと向かった。

パパが突然の事故で亡くなってから4年。
悲しむ間もなく、ただ目の前の現実に向き合うだけで精一杯だった。

ケイはまだ1歳だったから、きっとパパの顔、覚えてないだろうな・・
それが、良いのか悪いのか・・わからない。

彼と出会ったのは月がきれいな夜だった。
仕事が忙しい人だったから、なかなか会えなくて、2週間に一度のデートがとても楽しみだった。
不思議と彼と会う日は満月か新月で、満月の夜は二人でお月見。
月の無い夜は、キャンドルをつけて映画を見たり。
いつも二人の上には丸い月か見えない月が浮かんでいた。
だから彼はふざけて、私のことを「かぐや姫」なんて呼んでいたっけ。

そんなことを思い出して、ふっと頬が緩む。

かぐや姫の物語になぞらえて、彼が誕生日に真珠のピアスをくれた。
車持皇子に出されたお題の蓬莱の玉の枝をモチーフにした真珠のピアス。

「さあ、かぐや姫。こちらの贈り物をお受け取りください。
あなたの為に世界中を探して見つけた蓬莱の玉の枝です。」

そう言って、うやうやしく捧げ持った箱には、枝の形をした変わったデザインのピアスが。

お互いの顔を見合わせて吹き出して、
だけど嬉しさで涙が零れた。
そんな私を優しく抱きしめてくれた彼。

どんなに大切でも
どんなに守ろうとしても
零れ落ちてしまうものもある。
思い出だけをのこして・・・

夕方、幼稚園にお迎えに行くと、私を見つけたケイがタタタッとこちらへ駆けてくる。
「おかえりなさい、、ママ!」
そういって首に抱きついてくる。
いっぱい遊んだんだろう。砂と汗のにおいを纏っている。
「ただいま。さ、帰ろうね。」
先生に挨拶をして、園を後にする。

手を繋いで歩いていると、なぜかケイは私を見上げている。
「?どうしたの?」

「あのね、ママ・・。ママはかぐや姫なの?」
「!!」

突然の問いに驚いて目を見開く。
「え、え?どうして?」
しゃがんでケイと同じ目線で聞いてみる。

「あのね、今日、『かぐや姫』を先生に読んでもらったの。」
あ、絵本の時間の話かな。

「ママは、お空のお月様を見て泣いているもの・・。」
ケイは大きな目にいっぱい涙をためて、
「ママは、かぐや姫だからお月様を見て泣いてるんでしょ?」
「ママはお月様に帰っちゃうの?」

あぁ、そうか・・
ケイはいつも私を見ているんだ。

私が月を見あげて、パパのことを思い出しながら泣いていることを。

ケイが我慢しきれなくなって、頬に零れた涙を、
そっと指で拭って
「ううん。ママはね、かぐや姫じゃないんだよ。」
「そうなの?」

「うん。だから、お月様に帰ったりしない。ずっとケイちゃんと一緒にいるよ。」
ケイはさっきまでの泣き顔が嘘のように、パッと顔を輝かせた。
「ほんと?」
「ほんと。」

ほっとしたように笑ったケイは、すぐに真剣な顔になった。
「でも、お月様見て泣いてるのは、パパが居るからでしょ?」
「!!」

「ママ、言ってた。パパはお月様に行ったんだって。」
あ・・そんなことを言ってたなぁ。
ケイ、覚えてたんだ。。

「でもね、大丈夫!」
ぐっと胸を張って、私の顔を小さな手のひらが包む。

「僕がもっと強くなって、僕がパパになるから!」
「・・ケイちゃん・・」

意味わかって言ってないのはわかるけど、
口を真一文字に結んで、鼻息荒くしている姿がどうにも愛らしく
愛おしく・・・

私は小さな王子様をぎゅっと抱きしめた。

空に浮かんだ月は、今日もまぁるいお月様だった。

拙い文章を最後までお読みくださりありがとうございました。

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