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「うずらさーん、無事終わりましたよ」(ふりかえり卵巣がん日記 #25)

そんなこんなで夜が明けて、手術当日になりました。
あまり眠れなかったけど「もう迷うことも無いし!」と、落ち着いた晴れやかな気分。
いつもどおり起床後すぐに洗顔、歯磨きをすませ、もはや「オレのリビング(あるいは行きつけのカフェ)」であるラウンジでしばしくつろぎます。景色を愛でながら水を一口。

私の手術は午前の部(9:15スタート)です。水が飲めるのは6:30まで。これでもう水もおしまい。

ラウンジから病室に戻る時にG先生にばったり会いました。良いタイミングだったので廊下の立ち話で「やっぱり卵巣は残したい」と伝えました。
もともと「ちょっとでも様子がヘンだったら取る」って話だったけど、そこも念押ししておこうと思い、

「『取るのが絶対イヤ!』と、こだわってるわけじゃないんです。ただ、H先生もおっしゃってたように「あるものは最後まで使おう」という気持ちのほうが強いので、残したいと思います。でも、少しでも様子が悪そうだったら、その時はもう、取っていただいて全然構いませんし、そのようにお願いします」と伝えました。

「女性性にこだわって、取るのを躊躇してるわけじゃないよ(「卵巣をとったら女じゃなくなっちゃう」みたいな思いは無いよ)」を、伝えたかったのです。
G先生はじっと聞いて「了解です」と、そして「うずらさんの気持ちはよく分かりました」とも言ってくれました。この一言に「あー伝わった〜」とすごくホッとしました。ちょっとした一言で安心感が全然違うんですよね、言葉って大事ね、G先生ありがとう。G先生は続けて「では、卵巣の状態を見て決めますね。そこはA先生に任せていただいて」と。はい、信頼してお任せします。よろしくお願いします。

7:30までには手術着に着替えておくように、とのことだったので、7:20には着替えも済ませて準備万端、8時前には付添い人である母が来ました。
付添い人は不測の事態に備えてバッチリ待機してなきゃならないわけで、ハイ、案の定母はその役割に張り切って「お昼を買いにいけないから、ホラ、おにぎり作ってバナナも持ってきたー」などとニコニコと持参のランチセットを見せたりして...あのさ、ピクニックじゃないんだから...いや、この母のノンキさ(そう見えるように振舞ってくれた)もありがたい。

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さあ、この後は。
8:20に病室出発、8:30に手術室到着、とスケジュールはきっちり決まってます。

2日間飲んだ下剤は順調に効いて、お腹もすっきり、からっぽ、と思いつつ、念のため出発の直前にもトイレへ。

入院してからここまで、手術そのものに対して不安になったり緊張したりはなかったし、直前になってもそんな感じはありませんでした。
これまでいろいろ聞いて教えてもらったし、決めることは決めちゃったし。もう後は全部お任せ、オールオッケー!

と言っても、緊張せずとも毎朝の楽しみである朝ドラの『なつぞら』を見る気分ではさすがに無く...今週はナツがいよいよアニメーターへの一歩を踏み出すいいところ。でも「今日と、明日も見れないかな〜」なんて思ってるうち看護師さんが迎えにきました。
付添い人の母も一緒に、手術室へ出発。事前にビデオで見てた通り、テクテク歩いてゴー。母とは部屋を出てちょっと先のエレベーターに乗る手前で別れる。付添い人は、手術中はラウンジで待つそうです。(赤いランプの点灯した手術室の前で待つのはドラマの中だけ?)

エレベーターを降りると、無機質な空間が広がっていました。うわ、なんか映画に出てくる近未来みたい。廊下と大きな扉しか無いようなところだったと記憶しています。その1つの扉を通り抜けて手術室の手前の部屋に。そこでズボンや下着は脱いで手術着一枚になり、手術キャップをかぶって手術室に入りました。

手術室に入ると、G先生とH先生がなにやら準備をしながらキャッキャと...というと語弊がありますが、楽しそうなガールズトークのノリでいらっしゃった。なんか神妙にシーンとしてるよりいいわ、和みました。他には麻酔科のドクターが2人(女性と男性)、その他に2〜3人居たかな。あれ、執刀医のA先生は居ないのか。私が眠ってから来るのかな?

そして「おぉ、ドラマなんかで見るあのライトだ!明るい!」とか思うと同時に、もう入室したらすぐ「ハイ、ではこちらへ」のように手術台に乗せられ、布状のもので体を覆ってからバリバリバリッと(スナップボタンを外す音)手術着を取られました。と、間髪入れず「はい、では麻酔しますね、背中丸めてくださーい」と始まりました。キャー、あの恐い麻酔!覚悟を決めて背中をぐーっと丸めて...と、あれ?これ、痛くなかったです。少しだけずーんと響くような感じでした。

この麻酔科の男性ドクター、とても明るい声でひとつひとつ「ハイ、○○しますよー」みたいな感じで実況中継してくれて安心でした。背中の麻酔もすぐ済んで、仰向けになるといよいよ全身麻酔。口に麻酔マスクを乗せられ「ゆっくり息してくださいね〜」の声を聞いて、目を閉じ、ワイキキの浜辺を思い浮かべて...ゆっくり2呼吸くらいしたら、もう眠ってしまいました。 
入室からここまで、トントントンと進んで、あっという間でした。

「うずらさーん、終わってますよー」「うずらさん、無事に終わりましたよー」の声で目が覚めました。目覚めた時には、まだ口に管が入ってる状態と聞いた気がするけど、何も入っていませんでした。あら、楽チン。痛みも特に感じません。

「うずらさん、スムーズに終わりましたよ、よかったですね」の声も聞こえて、その後、私の顔のすぐ左にいるH先生が「うずらさん、やっぱりね、悪いものだった。だから両方(って言ったか、全部って言ったか)取りましたよ」と。
それを聞いて反射的に「リンパも?」と聞き返すと「リンパもね、取りました」とH先生。

それを聞いて「あぁよかった、広がってなかったんだな」と思うと同時に「麻酔が覚めた直後でも、こんなふうに普通に会話できるんだ」とちょっと驚きました。ただ、口に管(呼吸を助けるためのチューブだっけ?)が入っていたせいか、声がかすれて出しにくい感じ。

そしてベッドが動いて手術室を出ると...うっ、吐き気が。乗り物酔いの感じですね。「き、気持ち悪い〜吐きそう!」と言うとすぐにあれ、何ていうんでしょうね、ゼリービーンズみたいな形のトレー、あれがサッと差し出されたので、そこに「カポッ」って吐きました。胃に固形物は何もないはずなので、胃液とか、そんなものだったんでしょうけど。

そして病室に戻ると、今度は強い便意が。(すみません、失礼します。この先、飛ばしていただいても)これも我慢できる感じじゃなかったので、もう仕方ない、看護師さんに「すみません、便が出そうです」と言うとこれまたすぐに、サッと差し込み式の便器が差し込まれ、看護師さんは何も動じずに素早くテキパキと処理してくれました。

ひゃー、こんなことになるなんて。手術直後にオムツを使う場合があると説明を受けた時は「いやだー!這ってでもトイレに行く!」とか思ったけど、いやいや、手術直後は這うことすら無理。助けてもらうしかないんです。
お腹の中はからっぽだと思ってたのになぁ。目が覚めて内臓も動き出しちゃったってこと?後から聞いた話では、看護師さんはラウンジに母を迎えに行った時、状況を説明しつつ「よくあることなんで」と言ってたそうです。(なんか言い訳がましい私...)

腫瘍は予想通り悪性(がん)だったので、手術時間は約5時間。病室に戻ったのは15時過ぎくらいですね。この日はベッドの上で絶対安静です。痛くはないけど、意識はぼんやりしていて、時間の感覚もあまりありませんでした。 (つづく)


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