学生がアントレプレナーシップ(起業家精神)を養うためには?【SiEEDのタネ #4】
岡山大学SiEED学生スタッフの宮本です。
近年、「アントレプレナーシップ」が注目されていることはご存知ですか?アントレプレナーシップとは起業家を意味するフランス語「entrepreneur」と状態・身分・職などを表す英語「ship」を組み合わせた言葉で、日本語では「起業家精神」と訳されることが多いです。実はこのアントレプレナーシップ、起業をする人に限らずグローバルな時代を生き抜くために必要不可欠なマインドセットなのです。アントレプレナーシップを養う学習方法や思考法の概要を以下に解説します。日常生活にも応用できる手法をいくつか紹介していますのでご覧ください。
※本記事は以下の論文を参考に作成しました。
Gabriel Linton & Markus Klinton ”University entrepreneurship education: a design thinking approach to learning” https://innovation-entrepreneurship.springeropen.com/articles/10.1186/s13731-018-0098-z
アクティブラーニングとデザイン思考
アントレプレナーシップを養成する代表的な学習方法・思考法として、「アクティブラーニング」と「デザイン思考」が広く応用されています。
特徴はそれぞれ以下のとおりです。
アクティブラーニングとは
「教員と学生が意思疎通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り、学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修」
出典:文部科学省 新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)
簡単にいうと、従来通りの先生が教壇に立って学生が聞くスタイルの授業ではなく、学生が能動的に学習するスタイルのことと言います。
アクティブラーニング型の授業の1つとして、岡山大学では実践コミュニケーション論という授業を展開しています。これは3学期と4学期の約半年かけて行われる授業で、前半はプレゼンテーションの技法や発想法、効果的なコミュニケーションの取り方について学び実践します。後半は岡山県内の企業の方々から頂いた現実の課題に対し、チームで解決策を練ります。これを「課題解決型学習(PBL: Project Based Learning)」と言います。これまでの例として、2018年には株式会社山陽新聞社様より「山陽新聞社が、今後生き残っていくための事業の提案」というテーマを頂き、会社見学やヒアリングを通して解決策を考案しました。策定した課題解決案は実際に企業の幹部の方やマスコミ、大学教員の前でプレゼンテーションをし、案の内容やプレゼンテーションの仕方をもとに観覧者が評価します。
実践コミュニケーション2018年度の様子
続いて、デザイン思考について触れていきましょう。
デザイン思考とは
デザイン思考は、諸問題について創造的かつ現実的(実践的)な解決方法を生み出すための思考方法の一つです。1991年にIDEOを創業したデイヴィッド・ケリー氏は、これをビジネス面に応用し、アップルの初代コンピューター・マウスをはじめ数々の優れたプロダクト・デザインを生み出しました。このデザイン思考を学ぶ学校として、ケリー氏は2005年にスタンフォード大学にハッソ・プラットナー・デザイン研究所、通称「dスクール」を設立し、その方法論は世界中で応用されています。
Apple初代マウス(出典:https://gigazine.net/news/20140819-jim-yurchenco/)
実はこのデザイン思考、SiEEDの授業「アントレプレナーの戦略的思考」の中でも取り上げられています。その時の授業をYouTubeにアップしているのでどうぞご覧ください。
では、これら「アクティブラーニング」と「デザイン思考」を用いた、アントレプレナーシップ養成の授業の流れをご紹介します。
どのような授業が効果的か
ここからは具体的にどのような授業をすれば「アントレプレナーシップの養成」という目的を達成できるのかについて説明します。
大前提はアントレプレナーシップは「学ぶもの」ではなく「何かを通して得られるもの」だということです。その「何か」がこれからご説明する授業の内容です。
1.準備
● チームの編成
のちに説明する課題を解決するには様々な視点が必要です。例えば、工学部ならモノづくりの視点から、経済学部ならモノを売る視点から考える傾向にあるでしょう。そういった様々なタイプの人をミックスしてチームを作ることが重要です。
● 対象ないしテーマの設定
課題としてよくあるのがキャンパス内での課題や学生個人に関する課題(成績、進路など)ですが、LintonとKlinton(2019)はそれは課題設定としてあまり適していないと述べています。なぜなら、身近であるが故に広い視野でその問題を捉えることが難しくなってしまうからです。そのため、適切な課題設定方法として以下の2つを挙げています。
① 社会問題から考える
例えば、「どのようにして食品廃棄を減らすか」のように社会一般的に課題として認知されていることは課題として適切だと述べています。
② 大学以外の団体・機関から課題を与えてもらう
例えば、「サービス業において、お客様の待ち時間のユーザエクスペリエンスを向上させるには」というように実際にどこかの企業で問題として挙がっていることを学生に考えてもらうことも有効だとしています。
2.課題を発見する(Discovery)
ここでの発見(Discovery)とは情報を集めることで課題を深く理解することです。この時点では解決策を練るということについては全く考えず、とにかく専門知識を持っている人に話を伺ったり情報を収集したりする必要があります。その情報収集の手段としては「インタビュー」と「観察」です。
● インタビュー
例えば、レストランにおける課題を解決することがテーマだった場合、当然そこを利用しているお客さんやシェフ、ウェイターなどのスタッフにインタビューをすることでよく注文される料理の傾向やその理由に関する情報を収集できます。しかしそれ以外にも、清掃スタッフにインタビューをすれば「どんな料理が食べ残され廃棄されているか」という様な新鮮な情報を得られることもあります。このように、あらゆる方面の人にインタビューをすることで新たな切り口を見つけられる可能性があります。また、質問の仕方としては単に情報収集のための質問ではなく、そこから「なぜ」「どうして」と深掘りしていくことでより深い知見を得ることができます。
● 観察
そこで何が起きているのか、人々はどういった行動をしているのかを具に観察することでまた新しい発見があります。この観察には最低60分必要だと述べられています。
3.課題の分析・定義
十分な情報を得られたら、続いてその情報を分析します。その分析を経て利用者のニーズを見出す必要がありますが、このニーズというのは機能性などの物理的な面だけでなく、喜びや価値観などの感情的な面についても考慮する必要があります。また、ペルソナ分析も有効な方法の一つです。ペルソナ分析とは、そのサービスの典型的なユーザーの年齢・性別・志向・職業・居住地を設定し、そのユーザーのニーズを考えるという手法です。さらに、カスタマージャーニーマップという、ユーザーが初めて利用してから長期に渡る利用に至るまでの過程を時系列に追うという手法もあります。
4.解決策の発想(Ideation)
課題に対する理解が深まったら、次にすることは解決策の考案です。このとき重要となるのが想像力(Creativity)です。常識に囚われないできるだけ多くのアイデアを出す必要があります。その際、始めの方に出たアイデアというのは多くの場合良いアイデアとはほど遠いものです。そのため、最低でも50個のアイデアを出し、のちに絞ることが重要です。この発想の段階で有効な手法が「ブレインストーミング」です。ブレインストーミングとは直訳すると脳(=Brain)に嵐を起こす(=Storming)となるように、脳みそを刺激してひたすらアイデアを出すための方法です。1. 批判しない 2. 自由に発言する 3.質よりも量を重視する 4. アイデア同士を結合する という4つのルールに従ってグループでアイデアを出し合います。
5.プロトタイプする(Prototyping)
出たアイデアをグループ分けし、その中から現実的な解決策を選定します。チームで3~10個程度のアイデアを選び、プロトタイピングします。プロトタイピングとはアイデアを形にするプロセスのことで、ここでは「とにかく雑に作ること」が重要となります。完成品を作ることが目的ではなく、不完全なものを作ることで言葉で表された解決策を具体化することが目的です。これはスケッチやレゴを使って行うことができます。そのプロトタイプを第1ステップでインタビューを行った人に見せてフィードバックを受け、候補を絞ります。その絞られたプロトタイプをさらに詳細に、機能的なものへと発展させます。
6.解決策の発表
いよいよ発表です。発表の方法としては解決策をプレゼンするという方法とプロトタイプを展示するという方法があります。ただし、発表がゴールではなく、その先どんなメンバー構成でどんなリソースが必要となるか、どういったスケジュールで完成に向けて動くか等の計画を立てます。
7.成績評価
成績評価の基準となるのは最終発表で出された案ではなく、プロセスです。第1ステップ~第5ステップまで学生がどのように貢献したか、それぞれのステップでどのような学びが得られたかに基づいて評価されます。また、「いくつかのプロトタイプを作ることからどのような効果が得られたか」という質問を通してラーニングログを作成します。
以上がアントレプレナーシップ養成の授業の一例となります。
まとめ
アントレプレナーシップを養成するためには「アクティブラーニング」と「デザイン思考」は重要な要素を占めています。今回の記事はどういった授業を展開すべきかということでどちらかというと教員向けの内容となっていましたが、本記事で紹介した「ブレインストーミング」や「プロトタイピング」は大学生の皆さんのサークル・部活動の中でも生かせることがあるのではないでしょうか。
各学部の専門科目は先人たちの研究の成果を学ぶために必要不可欠であることに違いありませんが、それに加え社会で必要とされるスキルを大学生活の中で養っていくことも重要だと感じています。そのスキルの1つである「アントレプレナーシップ」を皆さまに知っていただきたくこの記事を執筆しました。
SiEEDでは「アントレプレナーシップ」をテーマとした授業を2020年度も開講する予定ですので岡山大学の皆さんはぜひ一緒に受講しましょう!
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