「排泄」の欲動|水色の部屋/ゴトウユキコ

押見修造に「どうしてこんなに男を描くのがうまいのか。」(※1)と言わしめるほど、男性の深く暗い欲動が溢れているのが「水色の部屋」だ。

主人公の柄本正文は、母である沙帆の性的な魅力に動揺しつつも、母子の二人で暮らしている。沙帆の無自覚な性的魅力に、正文の同級生である河野洋平は次第に惹かれていき、そこから物語は大きな展開をみせます。「母さんがレイプされた」という衝撃の冒頭シーン、正文の幼馴染である三好京子と河野の恋愛とその顛末、そして正文の決断。物語が進展していくほどに、作品の面白さと暗い欲動は加速していきます。

本作は性描写が多い作品ではありますが、作中で何度か描かれるセックスシーンは、そのどれも幸せそうな、いわゆる愛のあるセックスは一度も出てきません。DV・レイプ・ハメ撮りなど、ネガティヴな状況での性描写が続きます。また、付き合いたての河野と三好のセックスシーンにも初々しさはなく、乱暴に言ってしまえば、「排泄」に近いような男性の欲望処理が生々しく描かれています。

柔らかさと儚さが調和した魅力を持つ沙帆と、天真爛漫さとメンヘラさをあわせ持つ三好という、二人の女性人物の描写は本作の大きな魅力の一つです。しかし、 女性の心情をまったく持って意にも介さない、「排泄」のような男性の欲動を代表している河野のサイコパス性もまた、物語の核となっています。

作者であるゴトウユキコが「デビューしたときからずっと暗い漫画が描きたかった」(※2)と語っているように、読者にどんよりとした読後感を叩きつけてくる作品であることは間違いありません。

でも、それはもしかしたら、今まで出会った河野のような人間のことを思いだしてしまう、あるいは、自分の中にある河野を自覚させられてしまうからなのかもしれません。

あなたの周りにも河野のような人間はいますか?


(※1 「水色の部屋」特設サイト 本書への反響
(※2
「水色の部屋」特設サイト ゴトウユキコ×ふみふみこ 12000字 酔いどれロング対談!

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