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2020/07/最近読んだ本について

・仕事本(左右社)
コロナにより発せられた緊急事態宣言の中、色んな仕事をしている色んな人たちの日常を日記形式でまとめた本で、宣伝を目にして即Amazonで予約して購入した。
ゴミ清掃員、プロレスラー、保育士、ホストクラブ経営者、パン屋、スーパーなどなど。
自分自身の生活に接点のある職業もない職業も、両方に働いている人はいて、皆が同じ様に不安を抱き、息苦しさを感じ、行政への不満を積もらせながらも「前を向かなきゃ」と健気に記しておられて胸がギュッとなった。
勿論、文章にする過程でフィルターをかけ、なるべく穏やかに記そうという意識も働いたのだろうと思う。使命感を持って不安な日常を書き留めた人たちが優しく無い筈がないのだから。
こんなに色んな人が、自分と変わらない揺れ方をしてあの緊急事態宣言の中で生活していた。
そんなもん当たり前であるとは思うけれど、緊急事態宣言に際しての不便に対して苛立った覚えがあるので、「本当に解っていた」と言うことは僕には出来ない。
世の中のギスギスした感じからして皆も結構そうなんじゃないかなーと思う。
自分はこんなに頑張っているのに、自分はこんなに我慢しているのにどうして、となってしまう時に「他の人も同じだからこうなっちゃうんだよ」と思える余裕は無いと思う。
あらゆる記録本がそうである様に、余裕のある時の備えとして、この本は有用だと思う。
非常時に「皆、同じなんだよ」と思えるための予行練習になると思う。
この本には思考術だったり、哲学だったり、生活の知恵だったり、政治の知識だったり、そんなものは1つも載っていない。
でも、凄く意味のある本だと思うので、オススメしたい。
まだまだ続くこの不安だらけの状況で、角度は違えど全員が同じものを見ている事で気持ちが整理出来たと思うし、単純に「こんな仕事があるんだ!」「こんな働き方があるんだ!」という面白さもあった。
個人的には大好きな万博公園の民俗博物館の職員さんが寄稿されており、推し施設のスタッフさんの生活が覗けた気がして、そういう意味でも得した気分。

・江戸川乱歩/江戸川乱歩傑作選(集英社文庫)
斜に構えた中学生が読書感想文に書きそうな本を読みたいなぁ、という不純な動機で本屋を徘徊していた時に見掛けて「これだ!!!!!」となって購入した。
自分が小学生、中学生の頃は江戸川コナンの由来くらいの認識で、当時からビビりであった為「表紙は怖いし、読んだらロクな夢みねえぞ」と思って読まず嫌いしていたけれど、読んでみて思う。それ、正解。こんなん読んだらね、悪夢みるし空想に耽ってしまうわ。圧倒的速度で怪奇方面もしくはミステリー方面に爆進して人生変わってたかも知れない。
それが良いか悪いかは判らないけども。
明智小五郎が登場する作品での犯人視点での物語の動き方は子供の頃に観たドラマ「古畑任三郎」を思い出させるもので、最初は犯人への恐ろしさを感じながら読んでいたのに、明智小五郎(え?明智小五郎ってこんな気持ち悪い人だったの?と何回も思った)が出て来てからは犯人と一緒に焦ってしまったり、そんな簡単に解きます???と引いてしまったりと不思議な感覚で読んだ。
「芋虫」「人間椅子」あたりは有名過ぎてエピソードが一人歩きしてる感もあったのだけれど、きちんと読めて「お前があの有名な…」という気持ちになった。「芋虫」の心情描写の執拗さはゾッとしてしまった。しばらくお腹いっぱいです。
個人的には「二癈人」が一番好きだった。
最後の描写について、割とジワジワと想像が広がるというか。
オワリカラという素晴らしいバンドに「怪人さん」という面白い曲があって、江戸川乱歩の名前も出てくるし、その暗くとも恐れだけではない怪奇感を上手く表現した曲だったんだなーと改めて感心する、という謎のオマケまで貰ってしまった。

・つづ井/裸一貫!つづ井さん2(文藝春秋)
オタクのつづ井さんがオタク仲間と楽しく生きている日常コメディーコミックエッセイの二巻。
オタクの深度と強度が古のオタクの中でも傑出している面々が物凄い着眼点でサラっと素敵な豪速球を投げ込んでくるので滅茶苦茶笑えるし元気になれる。
僕は一貫して「つづ井さんみたいにはなれない」と自認しているんだけど、それでも元気を貰えるし励まされている。
つづ井さんたちは「ちょっとした行動力」と「些細な事でも楽しいことは楽しめる」という素敵な大人なので見習う所が多い。
時々怖いくらいぶっ飛んだ事を言い出すので、その時は素直に「ついてけないけどスゲー」と感服してしまう。
何より、単純に滅茶苦茶面白いので笑いたい時に読み返している。

・渋沢栄一/論語と算盤(角川ソフィア文庫)
流行り的には周回遅れであるものの興味が湧いたので購入。
漢文調に目と頭が慣れるまで「何かよくわかんないけど難しい言葉知っとるな、流石おじいさんだぜ」みたいな、混じり気のないアホの子と化していたのだけれど、読み続けるうちに理解出来る様になって、最終的に自分にはこの内容はまだ早かったかなぁ、と思いつつも心構えの引き出しが1つ増えた気もする。
それにしてもこの本がよく売れるということは、この本を普通に読み取れる人が沢山いるということで、己の残念さが際立つなぁと少し凹んでしまった。
道徳と商業の融合、という点では根付いている部分もあると思う一方で残念ながら解離も進んでるよなーと世の中を見ていて思う。
周囲を気に掛けながら真面目にコツコツ頑張っている人がいる一方で、自分だけが強ければ良いという人が駆け上がり、真面目な人たちを馬鹿にする様な言動が目立つ社会で、前者が如何に大切か頭では解っていても皆余裕が無いから後者に憧れてしまう。
決して後者を卑怯者だとは思わないけれど、自分だけ良ければそれでいいという人に憧れる人の多さにゲンナリしてしまう。とは言え何も言える事がない。
「偉いじいさんが書き残してくれたアドバイス」程度の読み方しか今は出来ないけれど、10年経ってまた読んだら少しは何か言える様になるのかなぁと思った、という感想にとりあえず留める。

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