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円安が交易条件を悪化させたのか

円安と資源高が輸入物価を押し上げ、消費者物価の上昇をもたらす。多くの人が日々の買い物で消費財の値上がりを実感している。資源が少ない日本は多くのものを輸入に頼っている。経済を俯瞰してとらえると、その貿易が日本にとってかなり不利な状況になっていると推察できる。

交易条件とは

こうした現状を客観的に観測する指標として交易条件がある。次のような計算によって求める指標である。

交易条件 = 輸出物価指数 ÷ 輸入物価指数

交易条件は一国にとって貿易が有利・不利どちらに動いたかを測定する。指標の読み方はそれぞれの物価指数がどう動くと日本経済にとって望ましいかを考えてみるとよい。輸出価格の上昇は望ましい、そして輸入価格の下落も望ましい。この場合、交易条件の数値は上昇する。つまり、交易条件の高い数値は改善を示し、数値の低下は悪化したと判定する。

2020年から交易条件の動向を追いかけよう。実線は前年と比べた交易条件の変化率をプロットした。2021年から2022年まで交易条件は悪化を続け、2023年春から改善し始めたことが分かる。

単位:%(前年比)

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実は、交易条件を動かす要因を分解できる。要因は為替相場と契約通貨ベースでの物価変動の2つに分けられる。どちらの要因が交易条件の悪化をもたらしたのだろう。

資源価格の上昇は輸入物価の上昇を意味し、交易条件を低下させる。為替相場の影響はトータルで考えると実は小さい。円安が進行する状況で考えよう。円安は円建ての輸出価格を上昇させ交易条件の改善につながる。一方、円建ての輸入価格は上昇して交易条件は悪化する。このように2つの物価指数が逆方向へ動いて相殺されるため為替変動の影響は小さくなる。

2021年から2022年にかけての交易条件の悪化は輸入物価の高騰が牽引した。具体的には、日本の主要な輸入品目である燃料と原材料といった資源価格の上昇が原因である。2023年春からは輸入物価が低下して交易条件は改善となった。

非対称的な影響

円安がさほど影響していないという説明は生活実感と異なるかもしれない。身近なもの、例えばガソリン価格の上昇を見ても円安要因が小さいとはにわかに信じがたい

違和感の正体は為替の影響が非対称的であるところに求められる。輸出面の好影響は輸出関連企業の従業員であれば恩恵を実感できる。それ以外の人だと外貨建て資産を保有していない限り円安のメリットは享受できない。輸入面の悪影響は生活者全員が受ける。デメリットだけ受け取る人が多いこととなり、円安の影響が大きいはずと感じてしまうのだ。

かつて資源は安かった。しかし、地球全体で見ると人口は増え続けている。国連の世界人口統計によると、2022年に世界の人口は80億人を突破し、35年後には100億人になるという。各国が資源を奪い合う時代が到来して資源価格も上昇していくと想定するのが妥当である。来るべき未来、日本は資源小国の悲哀を痛感することになろう

参考文献

内閣府(2021)「デフレ脱却に向けた進捗」、『日本経済2021-2022』、第1章第4節 https://www5.cao.go.jp/keizai3/2021/0207nk/n21_1_4.html(参照 2023年12月17日)

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