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アイスホッケーマガジン再休刊と、山口真一さん

一時の猛暑が嘘のように和らいだ9月上旬、世間的な話題にはこれといって上らず、メディアからの注目も例年通りほぼ皆無の中、今年も日本アイスホッケーのトップリーグが、3年ぶりに「アジアリーグ」として開幕した。
それから数日後、アイスホッケーの取材活動をされているアイスプレスジャパン公式より次のツイートがあった。

アイスホッケーファン界隈はザワついた。ついにベースボール・マガジン(BBM)社に切られたか、と。落胆半分、納得半分といった反応だと思う。

アイスホッケーマガジンは、まだアイスホッケーが世間から普通にスポーツとして扱われていた20世紀には年8回の刊行があったが、21世紀を迎えて出版物の不振、アイスホッケー自体の縮小などもあり、2007年で休刊となった。
その後、アイスホッケー情報誌「breakaway」の刊行もあり、ファンもその存在を忘れかけていた2012年に、いきなりアイスホッケーマガジンが復刊を遂げる。編集者は山口真一さんという方だった。以下は復刊号となった2012-2013シーズン号のあとがきである。

その後、年一ではあるもののアイスホッケーマガジンを購読し続けていた。復刊したアイスホッケーマガジンは、アジアリーグのチームだけでなく、全国の大学生、高校生、女子クラブチームの選手も網羅し、そのほとんどの記事に山口さんの名前がクレジットされていた。
山口さんの記事はその膨大な取材量に裏打ちされた、選手からの信頼が感じられるものだった。取材対象も年代トップ選手のみならず、幅広く取り上げてくれていた。いつしか、アイスホッケーマガジンというより山口さんの記事が待ち遠しくなっていった。

2018年、平昌五輪が終わったタイミングで、山口さんはBBMを退社し、フリーランスとしてアイスホッケーを含めた情報サイト「アイススポーツジャパン(アイスポ)」を立ち上げた。後で調べてわかったが、この2018年もアイスホッケーマガジンは出版されていない。
そして、東京ブルーナイツ(東京ブルーズ)というアイスホッケーチームを立ち上げた。東京の大学生を集めたチームなので、正確には器を作ったといったところか。

アイスポでは高校大学やアジアリーグのゲームレポやコラムが無料で読めて、情報不足に飽いていたファンには大変ありがたいものだった。と同時に、この取材費ってどこから捻出してるの?という疑問は当然ながら持っていた。東京にチームのある大学ならともかく、アジアリーグや高校はほぼ関東以北だ。

そんなある日、アイスポにこんなコラムが掲載された。

https://blues-hockey.net/update/2018/12/post-23.html

このコラムはTwitterで紹介され、バズり倒していた。3桁RTはアイスホッケーでは4年に一回(スマイルジャパンの五輪出場)だけだ。

ここで初めて知った。山口さんにはフィギュアスケートの取材、羽生結弦の記事で、アイスホッケーファンの何百倍の人数のフィギュアスケートのファンがついていたことを。羽生結弦に関する書籍を出版され、めちゃくちゃ売れていることを。取材費の謎は、ひとまず解けた。解けたそばから、また疑問が頭をもたげる。熱狂的に支えられているフィギュアスケートのファンを差し置き、なぜアイスホッケー???王子の最側近であり右筆ともいえる方が、なんで貧民窟でもがき苦しんでいる競技の為に????

それは、山口さんのアイスホッケーへの愛情の発露以外にないのだけれど、ここ10年浮上のきっかけすら掴めず氷の海の底に沈んでいた競技を眺め続けてきた者にとっては、理解はできても納得ができるものではなかった。ああ、この人は「ホンモノ」なんだと思う他なかった。

その後、北京五輪での山口さんのご活躍はアイスポを通して楽しんだ。おそらくは最後になるであろう羽生結弦の五輪での演技と、3大会連続自力出場の女子アイスホッケー『スマイルジャパン』の激闘は、山口さんの文章によって深く心に残ることとなった。

2022年、北京五輪というウインタースポーツにとっての「山」が終わって、羽生結弦がプロ転向を発表し、それでもアイスポ!は大学リーグを中心に記事がアップされていた…のだが、今年7月を最後に更新は止まった。アイスホッケーマガジン休刊の報せを聞き、残念という思いよりも、お身体の心配が先にあった。ファンの多いライターの宿命なのか、去年はSNSでの悪質な攻撃があったようだ。秋から冬を迎えて、山口さんがアイスホッケーの取材をされているかどうかはわからない。

この記事を書き始めたのは、なんとなく「区切り」な感じがしたからで。区切りならば、最大級の感謝を伝えたいなと思っただけだ。こんなにも良質なライターさんが、アイスホッケーを愛してくれたことを。アイスホッケーに人生をかけてくれたことを。ありがとう!ありがとう!

そして、山口さんが実は今も日本全国どこかのスケートリンクで取材していて、どこかのタイミングで読ませてくれることを、願わずにはいられない。

山口さん、ありがとうございます。
またリンクで会いましょう。

#アイスホッケー

#フィギュアスケート

#山口真一

#羽生結弦


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