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2024年3月             第62回感染管理抄読会の紹介

今年度、最後の抄読会が開催されました。
論文のクリティークだけでなく、臨床現場での実際のカテーテル管理方法についての情報交換やディスカッションも非常に興味深かったです。

論文タイトル
Risk Factors and Outcomes Associated With Hospital- Onset Peripheral Intravenous Catheter–Associated  Staphylococcus aureus Bacteremia
院内発症の末梢静脈カテーテル関連黄色ブドウ球菌菌血症のリスク因子と転帰

この論文を選択した理由
末梢静脈カテーテル(PVC)は、病院で使用される頻度が高い医療器具であり、看護師が挿入、観察、抜去までに関わる処置です。また、黄色ブドウ球菌菌血症(MSSA、MRSA)は、感染性心内膜炎や化膿性血栓性静脈炎、脊髄炎などの合併症を発症するリスクがあることから、患者に深刻な影響を与えることが知られています。したがって、末梢静脈カテーテルに関連した黄色ブドウ球菌菌血症のリスク因子について知ることは、臨床の看護師への教育にも活用でき臨床的に価値があると考えたので、選択しました。

書誌情報
Open Forum Infectious Diseases (IF : 4.433)
DOI : https://doi.org/10.1093/ofid/ofz111

抄録
背景:米国では入院患者の約80%が入院中に1本以上の静脈カテーテルを留置しているが、 PVC関連菌血症に関する文献は不足している 
目的:院内発症(HO)SABの一般的な原因であるPVC関連黄色ブドウ球菌血症(SAB)に関する発生率、リスク因子、および転帰を明らかにすること
方法:本研究は、2015~2016年に537床の教育地域病院で実施された後方視的症例対照研究である。症例はHO SABの成人入院患者であり、主治医が菌血症の感染源と診断しカルテに記録しているものとした。対照は末梢静脈カテーテルを使用した成人入院患者(小児,精神科除外)からPVC挿入日、年齢、死亡率予測スコア、および保険タイプについて症例1に対し対照2例を無作為にマッチングし選択した。条件付きロジスティック回帰を用いてオッズ比(OR)を推定し、PVC使用率は2017年7月のPVC使用率調査により推定した。
結果:205件のSABエピソードのうち、160件が市中発症、45件がHOであった。HOの16件(36%)がPVC関連であった。症例(n=16)は対照(n=32)よりも、前腕近位部にPVCを留置している可能性が高く(オッズ比[OR]、11.9;95%信頼区間[CI]、1.5-95.7;P=0.02)、PVCの持続期間が4日以上であった(OR、4.0;95%CI、1.1-15.2;P=0.04)。成人入院患者における少なくとも1回のPVCの点使用率は86%であり、HO PVC関連SABの発生密度はPVC-days1,000回あたり0.15であった。症例の平均入院期間は13.2日であった。全例が抗生物質の非経口投与による治療を完了しており、平均治療期間は23.6日であった。
結論:PVC関連SABは、重大な罹患率をもたらすHO SABの一般的な原因である。HO SABを減少させるためには、前腕近位部へのPVC留置とPVC留置期間を最小限にすべきである。

クリティーク・ディスカッションを終えた感想
末梢静脈ラインの管理について興味を持っていたため、それに関する論文を検索しましたが、中心静脈ライン関連血流感染(CLABSI)と比較すると、PVCに関連した感染症に関する研究が少ないことがわかり、論文を検索する時点で非常に苦労しました。この論文は1施設で実施されており、菌血症の原因菌を黄色ブドウ球菌に限定していたため、最終的に症例数が少なくなっていました。したがって、目的としているPVC関連黄色ブドウ球菌菌血症のリスク因子や転機について少ない症例で考察を深めることには限界があると感じました。ただ、PVCの留置期間の延長は多くの施設が検討を進めていることや、国内ではPVCの挿入部位について感染症予防の観点から検討されることが少ないため、この論文で示されたことは興味深いと感じました。クリティークチェックシートに沿ってクリティークすることにより、この論文では結果や考察が文献検討に基づいてわかりやすく示されており、論文に必要な要素が適切に含まれていることが理解でき、とても参考になりました。

(M.A.)


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