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第45回感染管理抄読会:上肢手術におけるクロルヘキシジンとポピドンヨード消毒薬の安全性と有効性の比較

2022年5月の抄読会の論文をご紹介します。

この論文を選択した理由                       以前勤務していた病院で、整形外科の医師が術前の抗生剤の使用や閉創時の縫合糸などの手術部位感染(SSI)対策には協力的だったのですが、消毒薬に関してはポピドンヨード消毒薬が良いと変更には反対の意見が多い状況でした。消化器外科領域などでSSI対策として推奨されているクロルヘキシジン消毒薬は、整形外科領域においてもポピドンヨード消毒薬よりもSSI対策として良いのか知りたいと思い、この文献を選択しました。

Chlorhexidine versus povidone–iodine skin antisepsis before upper limb surgery (CIPHUR): an international multicentre prospective cohort study上肢手術前のクロルヘキシジン対ポピドンヨード皮膚消毒薬(CIPHUR):国際多施設前向きコホート研究

【掲載誌】
British Journal of Surgery Open,volume 5, Issue 6, 2021
https://doi.org/10.1093/bjsopen/zrab117

【抄録】
はじめに:手術部位感染(SSI)は、手術の最も一般的で費用のかかる合併症です。国際的なガイドラインでは、手術前の皮膚消毒薬はアルコール性クロルヘキシジンを推奨しています。しかし、上肢の外科医は、エビデンスの欠如、および開放創およびタニケットに関連する懸念を挙げて、他の消毒薬を使用し続けています。この研究は、上肢手術前に異なる局所消毒薬の安全性と有効性を評価することを目的としていました。
方法:この国際的な多施設前向きコホート研究は、肩関節の遠位手術を受けた成人と小児を連続して募集しました。介入は、クロルヘキシジンまたはポピドンヨード消毒薬を水性またはアルコール性形態のいずれかで使用することでした。主要アウトカムは90日以内のSSIでした。混合効果時間事象モデルを用いて、待機的および緊急の上肢手術を受けている患者のSSIのリスク(ハザード比(HR))を推定しました。
結果:合計2454人の患者を対象としました。SSIの全体的なリスクは3.5%でした。待機的上肢手術(1018例)では、アルコール性クロルヘキシジンが最も効果的な消毒薬であるように見え、水性ポピドンヨードと比較した場合、SSIのリスクを70%減少させました(調整HR 0.30、95%c.i 0.11〜0.84)。緊急上肢手術(1436例)に関して、水性ポピドンヨードはSSIを予防するための最も効果の低い消毒薬の可能性が考えられます(ICC0.17,95%c.i 0.04to0.50;42clusters)。しかし、推定値には不確実性がありました。有害事象は報告されませんでした。
結論:この知見は,世界的なエビデンスベースおよび国際的なガイダンスと一致しており、アルコール性クロルヘキシジンは、清潔な(待機的上肢)手術前の皮膚消毒に使用するべきであることを示唆しています。緊急(汚染または不潔)上肢手術の場合、この研究の知見は不明瞭であり、入手可能なエビデンスと矛盾し、さらなる研究が必要であると結論付けました。

【ディスカッション内容】
 整形外科領域の深部SSI発生率は約1.49%と報告されています。SSI発生率が消化器外科など他領域と比較して少ないため、施設内で発生したSSI症例からリスク因子の分析が難しく、多施設研究により得られた結果は意義が高いと感じます。一方で、大規模研究であるためにデータ収集の測定方法において厳密な定義が現実的に困難です。そのため、手術時間などのSSIを解釈するうえで欲しい情報も不足しています。多施設研究におけるこのような側面も理解したうえで臨床において解釈する必要があることを学びました。
 上肢の手術は外来手術が多いため、臨床現場でSSI対象として注目されることが少ないですが、多施設研究によりエビデンスを示した意義は高いのではないかと思います。

(T.T)

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