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第55回感染管理抄読会:多剤耐性菌感染に対する心理的手指衛生介入策:クラスター無作為化比較試験

論文タイトル
Impact of psychologically tailored hand hygiene interventions on nosocomial infections with multidrug-resistant organisms: results of the cluster-randomized controlled trial PSYGIENE
 
書誌情報
doi: 10.1186/s13756-019-0507-5
PMID: 30962918
 
この論文を選んだ理由
自分の研究への気合をいれるためです。
 

背景
医療従事者の手指衛生の遵守は、様々な決定要因を持つ多面的な行動である。しかし、院内感染(NI)をも評価するこのようなアプローチのランダム化比較試験はまれである。本研究では、PSYGIENE-trial(PSYchological optimized hand hyGIENE promotion)のデータを分析し、Health Action Process Approach(HAPA)に基づいて調整された介入後のコンプライアンスが、多剤耐性菌(MDRO)の院内感染率に改善したことを示す。

実施方法
ドイツの3次医療機関であるハノーバー医科大学の全10集中治療室と2つの造血幹細胞移植室において、並行群クラスター無作為化比較試験を実施した。2013年に医師と看護師に対する教育トレーニングセッション(個人レベルの介入)と臨床管理者と看護師長によるフィードバックディスカッション(クラスターレベル)が実施されました。テーラリング群(n = 6病棟)では、経験的に評価されたHAPA要素に基づいて介入を調整し、行動変容技術を用いて対応した。2013年から2015年まで、コンプライアンスは世界保健機関(WHO)に従い観察によって評価され、アルコールベースの手指消毒の使用状況(AHRU)および多剤耐性グラム陰性菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌またはバンコマイシン耐性腸球菌のNIは、国の監視プロトコルに従って評価した。データはクラスター単位で分析された。

結果
Tailoring」群では、2013年から2015年にかけて、介入により1000入院日あたりのMDRO感染数が0.497件減少した(p = 0.015)。この傾向はASH(対照)群では見られなかった(-0.022感染、p = 0.899)。これらのパターンは、遵守率の傾向と逆の関係にあったが、AHRUの傾向には当てはまらなかった。

結論
HAPAモデルに基づいてテーラリングされた介入は、対照病棟と比較してMDRO感染症の発生率を有意に低下させることはなかったが、テーラリング群では2年目の追跡調査でベースラインと比較して有意な低下が見られたがASH群では見られなかった。今後、病棟だけでなく、リーダー、チーム、個人に合わせた介入によるコンプライアンスへの対応に焦点を当てた研究が必要である。
 
クリティークを終えての感想
研究デザイン・論文の書き方としては「反面教師」な論文でした。研究目的・研究デザイン・データの取り方など色々と問題があり、読むのも、資料を作るのも、結果の解釈も大変でした。元々の介入研究のアウトカムを変えた追加の分析の論文だったせいもあり、元の研究の結果も併記してあるので、わかりづらいところがけっこうありました。
長い長い序論と長い長い考察で、著者らが何を問題考えて研究や分析を計画し、何を伝えたかったのか、抄読会でのディスカッションを終えて再度考えました。研究や論文としては色々と問題がある論文でしたが、それでも、個人的にはこの論文から学ぶこともありました。「手指衛生の推進の“次の一手”」は一体どうしたらよいのか...? 引き続き考えていきたいです。また、こういう complex intervention を行う介入研究は、いったいどういうデザインをするのが良いのか、もう少し勉強していきたいと思いました。

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