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非ステロイド性抗炎症薬はCOVID-19の死亡と重症化のリスクになるのか

論文選択の理由:COVID-19患者の転帰の悪化と非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)使用との関連性について、臨床的に興味深いと思い選択しました。

論文タイトル                           Non-steroidal anti-inflammatory drug use and outcomes of COVID-19 in the ISARIC Clinical Characterisation Protocol UK cohort: a matched, prospective cohort study

Lancet Rheumatology, Published Online May 07,2021.          DOI: https://doi.org/10.1016/S2665-9913(21)00104-1

論文の概要                             背景                                パンデミックの初期では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用が、COVID-19患者の疾患重症度の上昇につながる可能性が示唆された。NSAIDsは、特にリウマチ患者にとっては重要な鎮痛薬であり、一般の人が処方箋なしで広く入手できる薬剤である。地域で行われた研究、行政データ、入院患者を対象とした小規模研究から得られたデータでは、NSAIDsがCOVID-19の転帰の悪化とは関連していないことを示している。我々は、NSAIDsの安全性を明らかにし、これまでのNSAIDsの使用がCOVID-19の重症度の上昇と関連するかどうか特定することを目的とした。

方法                                この前向き、多施設コホート研究では、2020年1月17日から8月10日の間に、COVID-19に至るSARS-CoV-2感染が確認されたか、感染の疑いが強い状態で入院した、どの年代の患者も対象とした。主要評価項目は院内死亡率とし、副次評価項目はその時の疾患重症度、集中治療入院、侵襲的人工呼吸の必要性、非侵襲的人工呼吸器の必要性、補助酸素の必要性、急性腎障害の発生とした。

結果                               2020年1月17日~8月10日に、イングランド、スコットランド、ウェールズの255の医療施設で78,674人の患者が登録された。72,179人の死亡結果をマッチングできた。71,915人のうち40,406人(56.2%)男性、31,509人(43.8%)が女性であった。このコホートでは、4,211人(5~8%)の患者が入院前にNSAIDsを服用していたことが記録されていた。傾向スコアマッチングにより、NSAIDs使用者とNSAIDs非使用者とのバランスのとれたグループが得られた(各グループ4,205人)。入院時には、暴露群間で重症度の有意差は認められなかった。説明変数の調整後、NSAIDs使用は院内死亡率の悪化(matched OR 0.95, 95% CI 0.84–1.07; p=0.35)、集中治療入院(1.01, 0.87–1.17; p=0.89)、侵襲的人工呼吸の必要性(0.96, 0.80–1.17; p=0·69)、非侵襲的人工呼吸の必要性(1.12, 0.96–1.32; p=0.14)、酸素の必要性(1.00、0.89-1.12、p=0.97)、急性腎不全の発症(1.08, 0.92-1.26, p=0.33)であった。

結果の解釈                           NSAIDsの使用は、死亡率の上昇やCOVID-19の重症度の上昇とは関連していない。政策立案者は、NSAIDsの処方とCOVID-19の重症度に関するアドバイスの見直しを検討すべきである。

ディスカッション内容                          まず、バイアスについてのディスカッション内容を書きたいと思います。  ■参加バイアスを最小限にする方法を記載しているか?         既存のデータを使用していることから、本調査では参加バイアスはないと考えられます。                             ■選択バイアス」はどうでしょうか。                 対象となっている施設は、大都市の主要な病院であることが予想されます。しかし、病院の規模や所在地によってNSAIDsの使用状況に大きな違いはないと考えると、対象施設の選択バイアスがあるとは考えにくいのではという意見がありました。                          また、この研究では傾向スコアマッチングを用いることで、バイアスを最小限にする方法がとられていました。傾向スコアマッチングは、介入研究で用いられることが増えている一方、N数が大きい必要があるため、活用できる研究が限られているのではないかとの意見もありました。

日常的で身近であるNSAIDsの使用可能性についてエビデンスに基づいた知見を得ることができる論文でした。事例報告など十分に検証されていない情報が世間に広まりやすい状況にあります。今回の調査のように、NSAIDsの使用可能性を提示することも大切であり、本当にそうなのか継続的に検証することも必要です。研究方法が異なりますが、フランスやイスラエルなどでは、今回のテーマについてナショナルデータベースで検証するシステムができています。日本でも、症例報告だけではなく、継続して検証できるシステム作りが必要だとの意見もありました。

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