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カンガルー

「『はい』か『いいえ』で答えてほしいんだけど、君は今好きな人いる?」

「うーん」

「好きな人じゃなくていいや、気になる人でも、いますか?」

「はい」

「そうですか」

「はい」

「じゃあ、その人は野球部ですか?」

「いいえ」

「サッカー部ですか?」

「はい」

「僕たちと同じクラスの人ですか?」

「はい」

「そうですか」

「うん」

「あのさ」

「ねぇ、知ってる?ブタは空を見上げることができないんだよ」

「急に何?」

「大人のゾウはジャンプができない。カンガルーも後ろにはジャンプできない」

「そうなんだ。知らなかった」

「そう。人間が当たり前にできることが、他の動物にはできないことだったりするの」

「そうなんだね。急にそんな話、どうしたの?僕にジャンプできる能力があるかどうか確かめたいの?」

「いや、別に。何の役にも立たない雑学を披露しただけだよ」 

「そっか」

「回りくどい言い方をされるのはあんまり好きじゃないなあ」

「そうだよね」

「君はブタなの?ブタじゃないよね」

「ブタじゃないはずだよ」

「じゃあ、君はゾウなの?キリンなの?」

「あれ?カンガルーじゃなかった?」

「え、君はカンガルーなの?」

「いや、僕はカンガルーじゃない」

「そうだよね」

「うん」

「たぶん、他の動物が当たり前にできることが、人間にはできないことだったりするんだね」

「そうかもね」

「言葉って邪魔なのかもね」

「そうかもね」

「で、何?」

「何?って何?」

「あなたがさっきしてきた質問、あれなんだったの?暇つぶし?」

「暇つぶしではないよ」

「私はね、たぶん、君のことが好きだよ」

「え」

「君ができないこと、私にはできた」

「まさにその通りかもしれない」

「でしよ」

「じゃあ君はブタかもしれないね」

「ブタでもいいよ」

「いいんだ」

「キリンのほうがいいけど」

「だから、カンガルーだって」

「君はカンガルーか」

「カンガルーでもいいよ」

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