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キムチ鍋


 今日みたいに肌寒くて雨の降る夜はキムチ鍋を作ろうと決めている。何かにつけて、つまらない、と言う人が世の中にはいて、その現場を目撃するたびに、弱虫が安全地帯から投げてくる石つぶてみたいだな、と首をすくめている。湯気のたつ寸胴はほんのり酸っぱくて赤々とした匂いがする。白菜は先に水で流しておかないといけないから、ざっくり切ってザルにあげる。つまらないものなんて探そうと思えばいくらでもあって、その1つ1つにつまらないと言ってまわっていたら、全てのつまらないものに言及する前にあなたはきっと死んでしまうよ。自分の持ち時間の長さをあまりあてにしないほうがいい。泡立つ湯船の中で肉が踊っている。かかとを浮かせて鍋の底を覗き込むくらいには空腹かもしれない。ひっくり返ったマグに水を入れて少し溢れて、2、3口飲んだ。冬の日。

詩集『南緯三十四度二十一分』収録作


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