なっちゃんと缶ビール

何となく再鑑賞した映画『八日目の蝉』でしみじみと感心したシーンがある。秋山恵理菜(井上真央)は久しぶりに実家に帰り、母・恵津子(森口瑤子)に頼み事をする。「(不倫相手との子を)妊娠したので産みたい。大学を辞めて働きながら子育てしたいのでお金を貸してほしい」と。それを聞いた恵津子は半狂乱になり、泣き崩れてしまう。そこに同席する父・丈博(田中哲司)は冷蔵庫から何かを取り出して恵里菜の前に差し出し、隣の部屋に戻って恵里菜の話を傾聴する。恵里菜の前に差し出されたものは「なっちゃんと缶ビール」であった。

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ここでは母と娘の確執がメインとなるが、原因を作った父も文字通り背景として存在する。
父は我が娘との記憶がずっと昔に止まったままなので、子供なのか大人なのか分からないでいる。(劇中では特別描かれないが)なっちゃんを好んで飲んでいたことは知っているが、帰ってきた成人の娘は缶ビールを飲むのだろうかと。明らかに深刻な話をしようとしているのにビールってなんだよ、とはなるけど失望されるのは「そういうとこ」なんだよお父さん。普通の感覚なら缶コーヒーくらいが妥当か。神は小道具に宿るという話。

『八日目の蝉』……会社の上司で既婚者の男と不倫関係にあった野々宮希和子は彼の子供を身ごもるが、産みたいという願いが叶うことは無かった。ある日希和子は、彼の留守宅を訪れる。彼と妻との間に生まれた赤ん坊をただ一目見るだけの筈が衝動的に連れ去ってしまう。誘拐犯として追われる身となった希和子は、連れ去った子供に「薫」と名付け、二人の逃避行が始まる。各地を転々と過ごした後に小豆島へと流れ着き、束の間安息の地を得たかに見えた希和子だったが警察の捜査の手が迫っていた。希和子の逮捕によって「薫」は実の両親のもとへ戻り、「秋山恵理菜」として成長する。家族や周囲と上手く関係を築けないまま大人になった彼女は、ある既婚者の男との子を身ごもる。期せずしてかつての希和子と似た境遇となった恵理菜は、幼い頃に体験した逃亡生活を辿る旅に出るのだが…。

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