伝説の一日に立ち会って
ダウンタウンが好きすぎて大阪(関西弁)に触れてみたいと、大学進学を機に念願の大阪へ出てきて早8年目。おかしな理由ですが事実です。しかしお笑い好きを公言していながら僕は一度も聖地「なんばグランド花月」へ足を踏み入れたことがありませんでした。お金は無かったけど8年もあったんだから一度くらいは足を運んでも良かったのにな、とは思う。しかし「伝説の一日 千穐楽 参回目」のチケットが当選したとき、僕は8年待っていて良かったと思いました。いや別に待っていた訳ではなく、初めてはダウンタウンがいいとかピーターパン症候群みたいなことは言わないけれど、初めては意図せずして31年ぶりダウンタウンの漫才を目撃することになりました。
一般知識を拡大解釈するネタでトップバッターを飾ったさや香。同音異字を追求するスーパーマラドーナ、室伏と戯れる2丁拳銃は言葉遊びで雪だるま式に笑いを生んでいく。オーソドックスで丁寧な漫才を極める老練テンダラー、歌ネタで意表を突いた熟練COWCOW、ゴボウの花言葉で自虐した落語家 月亭方正(落語のセットで現れたが制限時間のため落語は披露せず)、独自の視点で日常に噛み付く写術漫談の木村祐一。などなど書き切れませんが、1組3分30秒の持ち時間で披露されたすべての芸人さんのネタに圧倒されました。
進行のおいでやすこががお膳立て、いよいよダウンタウンが舞台に姿を見せる。会場は異様な緊張感に包まれ、僕の鼓動は分かりやすく激しさを増した。直前の幕間でガリットチュウ福島がビキニ姿で護身術をレクチャーしてくれたので、良い意味で会場の緊張感は和んだが、出囃子(EPO「DOWN TOWN」)が流れ、ガキの使いフリートーク登場時を想起させる原色の照明が舞台を照らすと、再び緊張感が戻ってきた。焦らされて焦らされて呼吸が荒くなってきたところに、二人は登場した。地鳴りのする歓声、1〜2分続いただろうか。そして舞台が見えなくなる程のスタンディングオベーション。やがて鬱陶しそうにサンパチマイクにつく二人。「やりにくいでぇ、やりにくい。袖で死ぬほど後輩見てるし」という松本の一言から始まった。僕は話を聞きながら「ダウンタウンは本当にいた」ことを認識したあと、かつてない集中力で「一挙手一投足、一語一句を観察/傾聴する」ことに専念した。あの仕草とワードはあのコントでやってたやつだ、この展開は松本がよく使う手法だ、とか答え合わせに近い感覚があった。
この言葉を思い出した。僕もエネルギーをもらったうちの一人である。不良にも天才にもなれなかった中途半端で何の情熱もない僕にエネルギーをくれた。時を経て、目の前でダウンタウンを。しかもまだまだ進化を続けるダウンタウンを見れたことに感無量だったし、ダウンタウンを知らない世代が今もどこかで奮い立っているかもしれないと思うと嬉しくなった。
ネタの全体像は、松本が浜田(観客)を理不尽な会話劇に引き摺り込み翻弄していく構成。台本なしだが信頼を頼りに“空間を掴み合っていく”様はまるで心理戦を見ているような、松本・浜田・観客 三つ巴の合戦であった。
下記、ネタに関する雑記
※ネタバレを含みます
漫才をやろうかなという雰囲気になったとき、「誘拐ネタ!」と言った観客に「お前誰やねん」とキレる浜田。そんな浜田を庇う形で「ごめんなさいね方言がちょっとね…」と観客に謝る松本。次に「あ研究家!」と言った観客に「お前誰やねん」とキレる浜田。ここで松本は「すいませんね」と前置きして「でも二回目はちょっとしつこいね」と浜田側に回る。味方に回る対象をスイッチする遊び方が彼らしくて嬉しくなった。
ここはまじで微笑ましかった。
ダウンタウンのメンバーがもう一人いたら、、、みたいなくだりで、柳田くんって松本が言ってて、寸止め海峡(仮題)の「柳田という男」を思い出した。そういうとこも嬉しい。
東京タワーは333mもない、っていう展開で
これは「じゃあ俺なんでこんなに喜んでんの?」論法に近い。よく使うやつ。常識とされている知識より実際に毎日見てた人の感覚の方が信憑性が高い、と常識を疑っていくのが彼らしい。
昔のクイズコントを下敷きにし、アップデートしながらも、求められるコンビ愛のようなものを恥ずかしげに見せてくれた。一生の宝物になりました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?