『IT』(スティーブン・キング)—深く考えるべきかも知れないけど、いまはそれをしたくない。そんな話

『IT』(スティーブン・キング)を読んでいる。ほかに読まなければいけない本もたくさんあるので、気持ちと時間に余裕があるときに、ゆっくりと。たぶんいまのペースでいくと、読み終わるのに半年くらいかかるスピードで。

書籍にカバーをしないので、読んでいると意外なところから反応があったりする。たとえば子どものスイミングの迎えに行くときに持参すると、子ども(小学四年生)の友人のお母さんが「あ、この前、映画をテレビで観た! あれって原作があるんですね」と話しかけられる。うちではテレビで地上波の放送を観る時間がここ数年でかなり減ったが、やはり金曜ロードショーの力はまだあなどれない。

うちの子からも反応があった。「あ、それ読んでるんだ。怖いからリビングに置きっぱなしにしないでね。ところで、クラスの子が言ってたんだけど、ITの正体って◯◯◯なんだってね。お父さんはもうとっくに知ってるんだろうけど」。

「いや、キング作品はそれなりに読んできたけれど、じつは『IT』は初読だ。映画も観たことがない。でも風船を持ったピエロが出てきて、とてもおそろしいことと、『スタンド・バイ・ミー』のような心が締め付けられるようなシーンもあることは知っているよ」とは答えず、「えー!そうなの! それは知らなかったな』とだけ答える。心中かなり動揺している。それと同時に、「あのキングが、◯◯◯だなんで安直な背景設定をつくるかな? そういう背景が最後まで明かされないところにキングの恐怖があるんじゃないか?」とも思う。

唐突なネタバレがあった時点で『IT』への興が削がれたかというと、まったくそんなことはない。並の作品なら読む気が失せていたかも知れないが、こちらはすでに文庫で全4巻のうち1巻を読み終わり、その文章力と構成の妙に圧倒されているところだ。しかし少しは気になるので、もちろん『IT』をとっくに読んでいる友人に聞いてみたところ、大昔に読んだから記憶が定かでないけど、そんな◯◯◯とかそういう話ではなかったはずだという答えだった。少し安心して、夜更けの読書を再開する。

再開したところ、子どもの友だちが家まで遊びに来た。そのときも片手に『IT』を持っていたら、めざとく見つけられて「映画(をテレビで)観たー! あのピエロって◯◯◯なんだよね」と一言。うちの子の情報源が向こうからやってきてくれたので、ちょっとネタを検証しておこうと思い、「それって映画の最後とかに明かされるの?」と聞くと、「ううん、お母さんがスマホで調べたら、そう書いてあったんだって!」とのこと。

わたしはその時点で◯◯◯説はほぼないな、少なくとも作中に描かれていることはないだろうと安堵し、同時にネット検索文化を呪った。でも、なぜだろう、映画を観た後に検索したお母さんにも、それを子どもに教えてくれた子どもの友だちにも、それをさらにわたしに教えたうちの子にも、腹が立たなかった。そんな安直さを超えたキング作品の魅力ゆえ、かも知れないが、それだけの理由ではないと思う。どんな形であれ、読んでいる本や観た映画のことを語り合えること自体がうれしかったのかもしれない。




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