2月第4週：童貞を卒業した話

新コロ陽性になった。まあ症状は軽かったので自宅療養だったけど。

肌荒れしやすい体質なので、普段は(メンタルが安定していれば)食事にも気をつけて、バランスの良い食事をするようにしていた。

やよい軒で、本当は「特から揚げ定食」(唐揚げ7個)にしたいときでも我慢して「から揚げ定食」(唐揚げ5個)にしている。そうしてるとき、僕はいつも「唐揚げを好きなだけ食いまくれば僕は満たされるはず。いつか、それをやろう」と心の中で呟いていた。

しかし、新コロ陽性で2週間は外出不可。
例えニキビがボッコボコにできようとも、会う人はいない。

これはチャンス。普段できないほど、食べたいものを食べたいだけ食おうじゃないか。（まあ、ネットスーパーとかで食材買って、バランスの良いご飯を作るのがめんどくさくなったのもあるけど）

というわけで、Uberでローソンの『【BOX】鶏から（旨塩）16個』を注文した。

注文ボタンを押してからウキウキが止まらなかった。とうとう僕は満たされる。そう思いながら待ち、Uberのアプリで配達員の現在地を見続けた。

コロナなので置き配をしてもらった唐揚げBOXを受け取ると、電子レンジで温めて早速食した。美味い。ローソンの唐揚げは食感、味ともに定評がある。唐揚げを食べ続ける。いつもは5個で我慢している唐揚げを6個目を食べたとき、フワフワした気分になった。

しかし、なおも食べ続けて10個目あたりから、どうにも空虚な気持ちになってきた。15個目を食べたときには完全に心が空っぽになっていた。最後の1個、16個目を食べたのは義務感と罪悪感からだった。僕が数年間、我慢していた欲求を解放させた結果がこれなのか？こんなあっけないのか？こんなに我慢してきたのに。

唐揚げを16個食べた。いつもは5個で我慢している唐揚げを。なのに、満たされない。空腹は満たされた。それは間違いない。なんなら胃もたれもしているかもしれない。それほど唐揚げを食べたのに、心が満たされない。唐揚げを16個も食べたのに。

渇望していた方法によって食欲を満たしたのに、心が満たされない。ベッドに寝ころびながら、僕は「こんなことが以前にもあったな」と童貞を卒業した日のことを思い出していた。

僕が童貞を卒業したのは大学4年生のときだった。世間一般と比較すると遅い方だと思う。童貞であることにコンプレックスや恥ずかしいといった感情は無かった。しかし、僕は人並みには性欲がある。当然、性行為をしたいという欲求もあるし、合法的に性行為ができる年齢になったころからその欲求は「渇望」レベルまで強くなっていた。そして、恋愛的には充実していない大学生活を送っていた僕は「童貞を卒業すれば全てが満たされるはずだ」という思いを日に日に募らせていった。

童貞を卒業したのはプロ相手ではなく、ちゃんと付き合った彼女が相手だった。童貞を卒業したいと渇望していても、そういったお店に行かなかったのは単純にこわかったのと、初めてがお店というのも味気ないと思ったからだ。

卒業当日、「僕は今日、全てが満たされる」という思いで、彼女に対する一挙手一投足を無礼の無いように努めた。性欲抜きにして彼女のことは好きだったけど、その日は性欲のためだけに動いていた。

お互いが初めてだったため、いろいろぎこちない所はあったが、とうとう僕は童貞を卒業した。渇望していた卒業。確かに精神的にも肉体的にもそれなりに快楽はあった。しかし、しかし……だ。まあ、なんとあっけない。こんなにもあっけないものなのか。こんなにもあっけないものを僕は渇望していたのか。そんな思いが行為中に湧き上がってきた。

それを悟られないように、そして相手も初めてであるため傷付けないように痛みを感じないように慎重に行為を進め、最後に射精したのは相手への罪悪感と義務感からだった。

結局、「童貞を卒業すれば全てが満たされる」という僕の幻想は木端微塵に破壊された。童貞を卒業することで頭がいっぱいだった僕はこの先、何をすれば満たされるのかわからず途方に暮れた。

唐揚げ16個にしても、童貞卒業にしても、「これさえできれば満たされるはずだ」という幻想はどれもあっけなく散った。こんなにも渇望していたことが現実になったのに満たされない。僕は何をすれば満たされるんだ。誰か教えてくれ。

……と、こんな怪文noteを書いている間にも腹は減って唐揚げを食いたくなってくるし、性欲も湧いてくる。

どうしたらいいんだ。なんとかしてくれ。

◆今週の一曲
レプリカント
ヨルシカ