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ロマンポルノ無能助監督日記・第16回[神代辰巳監督・土曜ワイド劇場『悪女の仮面』に就き、シンクロカチンコに苦労す]


1979年ゴールデンウィーク明け、ロマンポルノの巨匠・神代(くましろ)辰巳監督に就けるということで緊張してたら、TV「土曜ワイド劇場」だと言うので、ちょっとがっかりしてしまった金子君です。まだ22歳。

「土曜ワイド劇場」は77年7月に開始されたが、それまで10ch(当時はNETエヌーティー)の土曜9時は、「土曜映画劇場」という1時間半の映画放送枠だった。これが拡大されて、珍しい2時間の単発ドラマ枠になった。単発ドラマといえば、普通1時間モノの時代だ。

始まって2年足らずなので、最初は“テレフィーチャー”とか“TVムービー”とか呼ばれていたのが、どうも耳慣れず、次第に“2時間ドラマ”という呼び名が定着しつつあった。
スピルバーグもテレフィーチャー『激突!』で監督デビューしているから、TVより映画に近いものだとは思っていたが、土曜ワイドは16ミリフィルムで撮るということで、劇場映画を志して働く側としては格落ち感があった、スイマセン(汗)。
この頃は、TVって、ホント面白くなかったんですよね〜

ショーケン=萩原健一が映画で俳優デビューして目を引くと、『太陽にほえろ』や『前略おふくろ様』などでTVに起用されて国民的スターになる、というコースがあって、みんなスタートは映画なんだよ、という想いが、我々にはあった。
だが、大昔、映画スターがTVに出るのが「テレビ落ち」などと揶揄されていた時代とは違ってきていることは分かり、TVに映画のエッセンスがまかれて、それが再び映画へと、何らか形でフィードバックしている、というような空気は感じていた。

日活撮影所としては、本社から来る映画の仕事とは別に、独自にTV局に営業をかけるTV 部を設立して仕事を取り、我々映画スタッフを配して、年に数本2時間ドラマを制作することになる一本目が、この『悪女の仮面』ではなかったかな・・
だから、TV部としても、日活エース級の監督・神代さんに依頼したのであろう。
監督20年目の51歳。キネ旬ベストテンに3回も入っている。

原作はヒッチコックふうミステリーを書く女性作家シャーロット・アームストロングで、マリリン・モンロー『ノックは無用』(52)の原作者だが、この『悪女の仮面』は、短編「あほうどり」(The Albatross)を元にしていて、72年に「喪服の訪問者」というタイトルで、連ドラ「火曜日の女シリーズ」でも、丘みつ子・団玲子・関口宏でドラマ化されている。
この組合せが、今回はいしだあゆみ・酒井和歌子・山本学になるということだ。

脚本は名作ロマンポルノから『嗚呼、花の応援団』『セーラー服と機関銃』などで有名な田中陽造さんが書いているが、神代監督は、サード助監督の僕に初めて会うなり「ホン、直せ、ホンをよぉ」と、ゲハゲハ笑いながら言った。
・・このホンでは撮る気がしない、という意味なのか・・
表現は悪いが、ガイコツのように痩せていてシワだらけの顔だが、目が優しく笑っていて、常に何か面白いことを探しているような表情で、人をのせる。
俳優の芝居に対しても、「やってみな」という感じで、踊らせるかのような・・・

だから、「直せ」と言われたら、とにかく家で直してみた。
台本に鉛筆で、思うままいろいろ書き入れ、夜中までかかって、こうした方が面白いだろうと直したものを渡したが、使われたのかどうか、最初がどうなっていて結局はどこが直ったのか・・は、覚えていない。
多分、全く使われてない、と思う。
脚本クレジットは、チーフの伊藤秀裕さんと田中さんの共同になっている。

が、これを書いているうちに、伊藤さんと神代さんとで、僕の直しをフムフムと読んでいる姿を思い出した。一応は、検討してくれたのだった。

セカンドは、神代さんをこよなく尊敬している加藤文彦さんで、二期上四歳年上の外語大出身。
少年のような顔立ちで小柄、インテリな印象で話しやすい、甘えやすい先輩であった。82年に『少女木馬責め』で監督デビューするが、数年前に亡くなっているのを、ネット情報では確認出来ない。

覚えているのは、神代さんが良く「どうせテレビだ」と、口癖のように口走ることで、僕にとっては、“それはそうだろう”と思える感じで、嫌な感じでも何でも無かったが、伊藤さん加藤さんと飲んだ時に、伊藤さんが「あれは自分に言ってるんだからな」と言うので、チーフ助監督って、監督を優しく見ているもんだな、でも、それは“甘やかし”というやつではないのか、とも思ったりした・・
(伊藤さんは、その後、何本も神代作品をプロデュースすることになる)

なんか「どうせテレビだ」が、現場の流行語になって・・と言っても、神代監督しか言わないのだが、節目節目で呟かれていた気がする。
だからと言って、神代さんが手抜きで撮っていた、とは思えない。
オーソドックスに撮っていたのだ、と思う。
得意とされているワンシーンワンカットは封印して、短いショットでコンテを立てていた。
テレビの視聴者に分かりやすくするため、オーソドックスに撮らざるを得ない、という状況に対して、“照れ”て「どうせテレビだ」と言っていた、のかな・・

「監督の照れ」というやつは、助監督同士の飲みの席では、結構話題になった言葉なんだが、なかなか、その意味を理解出来ないでいた。

この翌年80年に鈴木清順監督『ツィゴイネルワイゼン』が公開されて、日活の先輩助監督には鈴木清順門下が大勢いたので、その話題でもちきりになった時、大楠道代の股間の辺りから蟹が合成丸わかりでズームアップされるカットがあって、それに対して、なんなんだあれはという論議になった時、やはり清順門下生と言われていた黒沢直輔さんが「あれは清順さんの照れだよ」と言ったのが、僕には分からず、苛立って40年経っても忘れられない批評(笑)。

なんで、照れて仕事するんだよ・・・というのは、監督になって多少理解はしたが、自分は、そういうことは滅多に無いと思うが、見た人の解釈なのであろうが・・
『プライド』で満島ひかりが歌うところで、バックに沖縄の風景を合成して、「こんなこと照れないでやるのは俺くらいだろう、金子は狂ったと思われるかもフフフ」と現場で思ったくらいだし・・・違うか。

ここで言われているのは、観客に対して、ではなく、スタッフに対しての照れで、なかでも僕たち演出部に対しての照れ、ということだったのか、と思う。
神代さんは、ときどき実験性を感じる新奇な撮り方をしていて、TVにはその自由が無いことを言っていたのか・・・

さて、ホン直しの他にも、メインスタッフがロケハンに行っているあいだ、不動産屋にかたっぱしから電話して、撮影に都合の良い空き屋敷を、東京近辺で探させられたが、まったく見つからず、「無為な作業をして疲れすぎて寝れない」と書いてある。

また・・「最近、自分は無能でありながらも映画に魅せられた者としては、まあベストの人生を歩んでいるのではないか、と思うようになった」
とも、書いてあるのは、その前日に、酒井和歌子、いしだあゆみの衣装合わせがあったから、かも知れない。
山口百恵に続いて、ロマンポルノだけやっていたら会えないスターと身近に仕事が出来る、ということだったり、巨匠・神代辰巳の脚本も直したりして、そんなふうに思ったのかも知れない。

山本学は、病気だということで、クランクインの何日か前、急遽、弟の山本圭に交代になった。
山本圭の方が、子供の頃から「若者たち」を見たり、『戦争と人間』や『新幹線大爆破』などで、親しみがあった。
だからと言って、「『若者たち』見てました」なんて、圭さんに言っていない。
そんな余裕無い。
だいたいTVの仕事では、俳優さんとあまり近くはならない。分量が多いから、撮るスピードが早く、ちょっとした“間”が無い。
と、言っても撮影実数22日間だから、今のTVドラマ撮影より、相当の余裕があったはずだ。
が、僕には初めてのシンクロカチンコの重圧で、現場では失敗続きだった。

このドラマは、いしだあゆみ=涼子と山本圭=鳴海の夫婦が、箱根に旅行に来たところから始まる。
涼子は、結婚7年目でやっと妊娠して、いま幸せを感じている、という設定だ。
有名な富士屋ホテルの表周りを撮影したが、それは最終日。
カメラマンは、前田米造さんだ。
クランクインは5/27~アップは6/24。

ホテルの部屋に、赤の他人の石橋蓮司が突然入って来て、涼子に襲いかかる。
強姦魔か!と思って、かけつけた鳴海は、男を殴りつけたらぶっ倒れ、ふらふら立ち上がり「酔って間違えて入って来たんです」と、名刺を出して謝った。

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帰京すると、その男(元世界チャンピオンのボクサー黒川)が変死した、という新聞記事を読んだ鳴海は、彼の死は自分が殴ったことが原因なのかと思い、責任を感じて警察に出頭した。

中尾彬演ずる刑事は、鳴海の行為が正当防衛かどうかは、死んだ元ボクサーの「未亡人次第だ」と言ったが、山梨に住む未亡人アキ=酒井和歌子が、「お気になさらないように」と、優しく鳴海に言うので、鳴海は安心して、アキに惹かれてゆく・・・かのように見えて、涼子は不安になった。
中尾彬さんが出ていたことなど、これを書くまで忘れていた。

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アキには下半身不随で車椅子の妹ユキ=浅野温子がいて、アキの東京での職探しの間、二人を一時的に自宅に居候させてもいいだろうと、嫌がる涼子を、鳴海は説得する。

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浅野温子さんは、『高校大パニック』以来で、更に綺麗になっていたが、いつも朗らかで、大声で笑い、現場では皆から愛されていた。この時、まだ18歳だよね。

インテリアデザイナーという設定の鳴海の家は大きく、屋敷と言っても良いが、これを不動産屋で探させられたが、結局見つからず、撮影所にセットが組まれたのだった。
表周りは、田園調布と成城にロケしたが、実際の家を元にしてセットを作ったわけではなく、セットに合わせて探したので、出入りの繋がりは厳密ではなく、曖昧にしていた。

そういうところが、「どうせテレビだ」だったのか・・・

二人が同居し始めると、姉妹は本性を露わにする。
アキは露骨に鳴海を誘惑しだし、ユキは涼子に嫌がらせを始める・・・

当時だと、酒井和歌子は貞淑な妻で、いしだあゆみの方が魔性の女かも、というイメージの方が一般的だったが、これは、企画の段階ではそういう設定(酒井が涼子で、いしだがアキ)で立てられたものを、監督・いしだ・酒井それぞれが、逆の方が面白いだろう、と話し合ってこうなったらしい。

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酒井さんは、「こんな役初めて」と、とても楽しそうに悪女を演じていた。
浅野温子のユキの嫌がらせもハンパ無く、激しい。
キレるというのはこのことか、と思えるように、神代さんは浅野温子をノセて、激しくキレさせた。
「もっとないか、もっと、ハハハ、そうそう、それそれ」という感じである。

いしだあゆみさんは、当時、ショーケンと噂があって、ショーケンは神代さんの映画に何本も出ていたから、神代さんはいしだあゆみと“同士的”な気持ちがあるのではないか、と思っていたが、飲みの席で伊藤チーフが聞いたら、「そりゃ、酒井和歌子の方が良いよ」と言ったのを、耳を傾けて聞き逃さなかった。
“女として”なのか“女優として”なのかは、聞き逃した。

はっきり言って、神代さんは、相当モテます。

翌日は撮休という日で、飲みの最初は撮影所から車で行ける調布の焼き鳥屋「とり松」から始まり、この時は演出部・制作部くらいの人数で、終わったら帰る人は帰って、行く人は京王線で新宿に行っての二軒目は数人になって、それがお開きになった時、神代さんがニヤニヤして「金子ぉ、美枝子に会わせてやろうか」と言って来た。原田美枝子さんのことだ。

スタンドバー「ゾロ」で、帽子を目深に被った19歳の美女・原田美枝子さんはノンアルコールドリンクを飲んでいた(と、思う)。結構、ドキドキした金子はおどけて、ちょっと歌ったりしたんだっけ、・・クスっと笑われて「かわいいね」と言われたのを思い出す。この前日に23歳になった。

10分くらい、いたかなぁ・・神代さんは、同じようにニヤニヤして「金子ぉ、帰っていいぞ」と言い、「はい!」と直立不動になって最敬礼し、立ち去った時は、爽やかな気持ちであった。眼福・・・
翌年、原田美枝子原作・脚本・主演の神代監督ATG作品『ミスター・ミセス・ミス・ロンリー』が公開になる。

という、楽しいこともあったが、現場ではカチンコの出し位置が体得出来ずに、毎回のように叱られていたが、他にどんな失敗をしたのかは具体的に思い出せないが、神代さんに「自分でバンバンしなさい」と言われたことを思い出す。

石立鉄男が「焼きそばバンバン」で、フライパンで自分の頭を叩き「自分でバンバンしなさい」と言っていたTVCMのもじりで、「失敗したことは自分で反省しろ、俺は別に叱らないし、大して気にしてないぜバカ」というメッセージが感じられて、今考えると、すごく優しい言葉だったのだなぁ、と思える。

「ラッシュのカチンコがうまく入ってないのを見てガックリ自信喪失。現場ではアガってしまうし、つながりのハンドバッグを返してしまったり、タイミングを上手に出せなかったり、予定を知らなかったりで、無能助監督というよりサマにならない助監督で、見てて恥ずかしい姿をさらしているのではないかと思う方が辛い」

・・・と、書かれている。
noteも書こうと思った時に、自然に「無能助監督日記」というタイトルが出て来たが、こんなことを書いていたことは、読み返すまで忘れていた。
こうした感情は薄れ、楽しいことの方が濃くなるというのは、時の立つのはいいもんだな・・・なんてありきたりのことを書くと、照れますね。

ドラマは、涼子が大事にしていたウサギが、アキの指を噛み、逆上したユキが、車椅子でウサギを轢き殺そうとするのを、涼子が必死で止める、という展開になる。

この時の酒井和歌子の人差し指のアップは、伊藤チーフの命令で僕に替わり、エサを人差し指の腹に塗ってウサギに噛まれた。
相当痛いですよ。
血が出るのが、カメラで確認されるまで、30秒くらい噛まれ続けていた。

指が長くて手が綺麗というのが、高校生くらいから自分の自慢の一つになっていて、浅野温子からも「わぁ!キレイ!女の子みたーい」と言われて気分を良くしていたから、“これは労働者の人権侵害だ”などとは思わなかった。
あ、いや、思ったが、言わなかった。
傷はずっと残って消えないままだった・・・と、思って今見たら無い。

このウサギは殺され、バスルームに吊るされ、涼子は悲鳴を上げる。
本物の死骸を、動物屋さんが持って来て吊るしたから、僕の指を噛んだやつでは無いと思うが、その辺りははっきりしない。

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だが、鳴海が戻ってくると、ウサギはカゴに戻っており、これは飼っていたウサギでは無いと言い張る涼子は、妄想にかられているのだろう、と鳴海は疑う。
そして、彼の心はアキに傾いていってしまう。
それを感じて焦る涼子の、半分狂ってゆくような心情を、いしだあゆみはリアルに演じて、常に神経を尖らせ、追い詰められているように感じられた。

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「妻の座が危うくなる恐怖を、感じさせて欲しい」とTV部の栗林部長は、打合せの席で言っていた。何度も「妻の座」と強調していた。

アキが紅茶に睡眠薬を入れて涼子に飲ませて眠らせ、その隙に鳴海とキスして寝取ろうとするが、フラフラの涼子が起きて来てしまい、失敗する。
この時の酒井さんのキスには、そばで見ていてうっとりした。

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同居がしばらく続くうちに、涼子はユキに車椅子で襲われたりしたことから、ボクサー黒川の死も、“ユキが車椅子で轢き殺したのではないか?”と推理して調べると、箱根で鳴海が殴った日に町医者でレントゲンを撮っていることが分かり、“そこに異常が無ければ、殺されたことが証明される”と思った涼子は、医院にレントゲン写真を取りに行く。

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レントゲン写真とカルテを家に持ち帰った涼子の前には、アキとユキがいて、怒涛のラストに雪崩れ込む。
ユキは、逆上して「黒川を殺したのは私よ、不幸な結婚を強いられている姉を救ったのよ」と告白、そのレントゲン写真を涼子に投げつけ、彼女の目を傷つける。
何も見えなくなった涼子は、恐怖にかられ、「殺してやる」と迫るユキから逃げ惑う。これをアキは、冷酷に見つめている。

カルテとレントゲン写真をフライパンで火をつけて燃やしたアキは、涼子を焼身自殺に見せかけようとして、炎を上げるフライパンを持って、台所に追い詰められた涼子に迫る。

涼子は、咄嗟に、「医院の奥さんと鳴海が警察を連れて帰ってくる」と言っても最初は信じなかったアキは、サイレンが鳴って近づいて来るのを聞いとたんに豹変、電話で110番して「妹がおかしくなって、奥さんを殺そうとしてるんです!」と通報する。

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それを聞いたユキは、“全てを姉に捧げて来たのに裏切られた!”と、絶望して泣く。そこへ鳴海が帰って来て、アキは「ちょうど良かったわ。いま、妹が奥さんを殺そうとして」と言って、鳴海が目をそらせた隙に、火のついたフライパンをユキに投げつけて炎上させる。

燃え上がるユキは人形にしたが、こんな危険な撮影を、燃えやすいベニヤセットでやることは、今や不可能だろう。
更に、アキが燃え上がるユキを追いかけるふりをして家から表に運び出すのを田園調布の住宅地でロケしたが、これも更に今や不可能だが、ロケでは炎上人形はスタントマンに変わった。

全身スーツを着込んだスタントマンが、その上にユキの衣装を着るので、ぶくぶくに膨らんで、ジェイソンみたいになってしまったが、頭から火と油をぶっかけられ、炎の塊となって、大袈裟に悶えること30秒くらいか・・・
監督のカットがかかると消火器で白い粉を頭からかけ、無事だと分かると、スタッフは拍手する。田園調布の夜中で。
これを酒井和歌子さん絡みで撮った。
俳優を危険にさらすので、やはり今や三重に無理。

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警察にはアキは、すべて妹のせいだ、と言うが、中尾彬の刑事は、「署についてからじっくり聞こう」とパトカーにアキを押しこんだ。

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6/30のオールラッシュには、テレビ局のプロデューサーが来て、会議室での合評会にサード助監督の僕も出席した。
後半、かなり無理のある展開で、これは結構、TV局からは文句を言われるんではないか、と思ったが、局プロは「いやあ、ひきこまれました」と、絶賛であった。「上質な傑作サスペンスだと思います」
局プロがそう言うと、日活関係者も次々に褒め言葉を連発した。

この頃はまだ、ロマンポルノの合評会には出たことは無かった。
ファンキーさんなどは、「ここはいいから」と言って、出ないでくれという気持ちを伝えていたが、監督によってはセカンド助監督が出席しても良い、ということもあった。
神代さんは、末端のサード助監督が出席していようがいまいが、関係ない人だったのであろう。
この後、何度も出席したが、合評会は怖いものである。

監督、プロデューサー、助監督らが被告席に座り、重役たちが裁判官席に座っているような感じで、シーンとしていると、最高権力者である武田靖常務が、わざと一番最後に遅れて入って来る。武田さんが何か言う前は、誰も何も言わないシキタリだ。
武田さんが笑っているとOK、黙っていると何かあるサインで、不機嫌な場合は、「これは、ホンは誰だっけ?」と切り出す。
そこからプロデューサーが弁護的に話し出して・・・長いからどこを切る、切らない、何分以内にしろ、という話に展開してゆくのであるが、今回は、その武田常務は関係ないから出席しておらず、最高権力は局プロにある。
その局プロが褒めたのだから、もう褒め合戦になったのであった・・・

その後、食堂で神代さんを囲んでコーヒーを飲むと、相当疲れている様子だった。褒められたから嬉しい、ということは無さそうで、憂鬱そうで、ここでも「どうせテレビだ」と言った。

神代さん本人は、出来に満足していないように見えた。
それ以上のことは分からない・・・

この日は伊藤さんと加藤さんとで、祖師ヶ谷大蔵の焼き鳥屋「たかはし」に行き、そのまま加藤さんの家に泊まり、奥さんの隣に寝たりして、翌日は新宿に行ってカノジョと五社英雄監督『闇の狩人』を見た。

ということで、終わりにしようかと思ったが、ずっと書こう書くまいか迷っていたことがあり・・・

現場セットで、本番の時、一回、無意識に咳払いしてしまい、それは終わった後、録音部が確認して拾っていないのでNGとはならなかったが、いしだあゆみさんにチラと見られた・・・
「命を賭けて芝居しているのに、集中力の無い助監督がカチンコ打っている現場ってなに、神代監督の顔に免じてここでは何も言わないでおくけど覚えておくからね」・・・という眼差しを思い出すと、今も背筋が凍る・・スイマセンでした・・・スイマセンで済む話か。

美しい思い出だけにして、こんなん書かない方が良かったであろうか・・・自己嫌悪の感情が蘇る・・・記憶力が良過ぎるのもこういう時困る。

(反省の気持ちを表し、今回は無料にします。テレビだし・・あ、違うか)


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