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「はじめてのげんば」 入江組1年 八代真央

2020年6月。
自宅、先の見えない不安、向き合う時間が何倍にもなったスマホの画面と会話相手のTwitter。に、流れてきたのが入江悠監督 自主映画制作オーデションの募集でした。
制作部から俳優部の道へ舵を切って数ヶ月後、誰もが予想しなかった方向に情勢が押し流され、例外なく私自身も呑み込まれていた矢先の出来事です。

入江監督が以前web媒体で話していた「映画館のスクリーンとは世界を見つめる窓」という言葉を思い出しました。現代の混沌とした政治下で暮らす一市民として映画芸術という表現の自由を駆使し、地方・都心問わずそこで暮らす人へ、届ける意義のある作品に携わるチャンスだと。

役の大きさは正直、関係ありませんでした。入江監督の作品に出たい。

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結果、細部として支えるエキストラでの参加に決まり、時間はあっという間に過ぎて10月、撮影当日。

俳優部を志してから初めての現場、それが入江組である幸福を噛み締めながら熊谷駅へ向かう電車に乗りました。市役所職員役、セリフはないけれど私がその役であること、私がその役でなければならないことを模索しながら責任をしっかり背負って。

現地では俳優部兼APの大條瑞希さんを筆頭に、学生スタッフの皆さんが出迎えてくださいました。自分も制作の身であったため、アシスタントといえどその心身ともにかかる苦労を知っています。現場では「仕事がない」なんて瞬間は1秒もありません。指示が出る前にいかに正しい判断のもと動けるか。勝手ながら学生さんとは思えない仕事ぶりに感心、安心してしまいました。
そして。現場のピンと張った空気の中心に入江監督はいらっしゃいました。(本物だ…!と思いました)

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厳かでも柔らかさがある緊張感のなか、所定の位置へ移動する私たち。驚いたのは監督自ら私たちにも演出をつけてくださったことです。「〜さん、振り返って書類渡してください」など、全員の名前を把握しシーンに置ける役割を各々に与えてくださいました。

出番のないシーンも、袖から覗いておりました。
感動したのは照明部の、おそらく手製の機材を使った計算された光です。これは現場にいなければ決して見ることができません。そして監督が主演・福田沙紀さんにかけられた言葉の一つ「福田さん、髪のボサボサ感ちょうどいいです」。この「感」という抽象的な部分まで脚本から汲み取って体現していく福田さんの姿は俳優部を志す身として震えました。

監督と言葉を介さず絵ですり合わせていく作業。モニターを囲むスタッフ皆さんのあつい視線にもグッときました。

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撮影中に、エキストラの中からシーンのアクセントとなるセリフを扱える簡単なオーデションが2度あり、いずれも挑戦させていただきました。うち一つに採用いただき、物語の重要なシーンに参加することができました。本番前、監督に直接演出いただいた時は緊張、緊張、緊張……それでも複数重ねたシーンの中で緊張感を切らすことなく毎度初めての気持ちで挑みました。

正直終始浮き足立ってしまい、現場での記憶は断片的です……(他方2日目の駅まで送迎する車で通路挟んだ隣の席が宇野祥平さんだったこと、これは鮮明に覚えています。心で絶叫し一睡もできなかったのも良い思い出になりました。)

達成感やら口惜しさやら、複雑な思いで1日を過ごし、気がつけば帰りの電車で。ともに参加した俳優部の皆さんと並んで座席に座りました。

アルバイトの飲食店も休業に追い込まれ、1日に交わす会話の殆どが「袋、大丈夫です」だった私にとって、久しぶりに血の通った「会話」でした。コロナ禍での活動、最近見た映画、今後の展望など。マスクで、節度を守りながら言葉を交わした時間は電車を降りてからの私を前向きにしてくれるものでした。

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年が明けて3/8。『シュシュシュの娘』初号。

これを贅沢にも東映撮影所内の大きなスクリーンで鑑賞しました。
席についてから心臓の高鳴りを感じていましたが物語が始まってからはただただ楽しむだけ!
節々声に出して笑い、そして胸に迫るもの、こみ上げるものを堪えながら、全国で見ていただける日へ思いを馳せたりなんかして。
何より胸を張って「面白い」と確信できたことが最高に嬉しかったなあ。
そしてあっという間にエンドロール。クレジットに自分の名前が確かに在ったことが、わたしにとってドラマでした。
あの時の座席の質感、背もたれの角度はしっかり記憶されています。

会場で見かけた入江監督の姿は、やはり遠く。
けれどまたご一緒できるように自分が成長し続けるしかないと、俳優部としての決意新たに東映の門を出ました。
この作品が都市と地方を分断化する状勢の中で、苦境に立たされる全国のミニシアターに届けられること。
何より身体ともにふさぎこんだ状態にあった自分を「抜け出す」きっかけとなってくれました。

私にとってそうであったように、今度は全国にいる誰かを「救う」作品になりますように。
2021年秋公開に向けて作品とともに私も前進して行きます!

2021/07/04
八代真央

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映画『シュシュシュの娘』
8月11日(水)先行プレミアム試写会
8月21日(土)全国ミニシアター公開


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