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根矢涼香『映画がくれる光景』

映画が完成する。

世界には何本の映画があるんだろうとふと考えた。何人の人がその背景で魂を燃やし、情熱をかけ、苦悩し、そしてどれだけの人の心を照らし、感動を運んでいったのだろう。この日本だけでもその数は計り知れない。

そして今この瞬間にも誰かが映画を作っている。

誰かが映画を観ている。

私たちのこの映画が、これから先、どんな風にして、このノートを読んでくださっているあなたのもとへ、そしてこの映画のタイトルすら知らない人のもとへと届いていくのだろうかと、想いを馳せている今日この頃です。


申し遅れました。

丹治紗枝子役を演じました、根矢涼香と申します。

映画の中ではドン〇ホーテの住人ばりの独特宇宙ファッションと言動を繰り広げております。中の人はこんな感じですが騙された!とどうか思わずにギャップ(萌え)としてご賞味ください。

「世の中やべーやついっぱいいっから!」

台本を開いたときから、このサエちゃんが大好きだったなあと今でも思い出します。

オーディションを進みながら、6畳半の部屋の中で、もし未宇だったらこうやりたい、紗枝子だったらこんな風にして、と一人で二役、お弁当のシーンなどクルクルやっていた(お隣さんは私の情緒を心配したでしょうか)。

お久しぶりに入江監督とお会いできることも、現場が止まってしまった中でお芝居をできることも、こんな状況の中でも気持ちを同じく燃やしている俳優さんに会えることも、大切な映画館に何かできるかもしれないということも全部が嬉しくて、見えもしないけれど未宇のつもりで張り切ってちくわお弁当を作り、般若のごとき形相で紗枝子のセリフを唱えながら、三次審査に向かっていました。時々やっぱり嬉しくて中の私がニヤついていました。捕まらなくて良かったです。

私にとっては間違いなくあの日々も、鬱屈とした毎日の不安の中に差す陽の光だった。俳優にとって、少なくとも私にとっては1つの役を掴みに行く道中そんな気持ちになります。

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(オーディションで半分近く食べ、海老を膝に落とし、ああしたらもっと面白くなったかな、でも私は楽しんだ!ダンスは知らん!いやうそですもうごめんなさい!と帰宅後に美味しくいただきました。この場所をお借りして供養させていただきます。

「ちくわのごま油風味と浮かれた惣菜~傷のないライムを添えて~」)


それから、役が決まり、衣装合わせから準備から、あっという間に撮影の日々。

ぼうっとする暇もなく、気が付いたらオールアップして、もっと皆さんと居たくて寂しくて鼻をすする26歳。時間が過ぎて行く間に、映画の宣伝に向けての準備もどんどん進み、予告編が完成し、ホームページが完成し、かわいいポスターが完成し、映画の撮影が終わってからもたくさんのたくさんの人たちが、一つの作品にそれぞれ命を吹き込んでいく。(この過程もアツいんだ)

再開した現場でも、「シュシュシュ楽しみだよ」と俳優仲間や映画関係者、ファンの方からのありがたいエール。上映の日が決まり、映画をかけてくださる映画館が決まり、1日、また1日と数えていく。


あれから、1年。


2021年8月11日は、昨年生まれた映画『シュシュシュの娘』が、全国24館のミニシアターで「プレミアム試写会」としてお客様のもとへ、各地の映画館さんのもとへと渡っていく日でした。

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渋谷ユーロスペースに到着すると巨大な「シュシュシュの娘」の文字、福田沙紀さん扮する鴉丸未宇の鋭い目が。

縦書きで連なる名前。あれ、こんなの人生で初めてかもしれないな。

ああ本当に、はじまるな。


控室で入江悠監督と、当日司会を務めてくださったアナウンサーの笠井信輔さん、福田沙紀さんと打ち合わせをし、(今、各地の映画館で、映画が観られているんだ。。。)とドキドキソワソワむずむずハラハラモリモリしていました。この日の衣装は福田さんと相談をして、シュシュシュのTシャツを、自分の役柄風に合わせていこうと打ち合わせました。

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(いよいよ!舞台挨拶!の前に福田さんの携帯でみんなで一枚。)

井浦新さんとロビーで対面。現場では丁度スケジュールが重なっておらず実はこの日が初めてお会いする日でした。兼ねてから作品を存じ上げていたのも勿論ですが、井浦さんはミニシアターパークの活動で先陣を切ってミニシアターと俳優とお客様を結び付ける活動をされていました。その行動力に背中を押され、勇気づけられていました。

いよいよお客様の前へ。不思議な緊張と高揚です。


壇上からの眺めは、昨年映画の完成を想いながら、そして未だ困難が続く日々の中でどうにかと、夢に見た景色でした。

迎えてくださるお客様の、マスク越しでも伝わる暖かさと熱量。

焼き付いて離れません。


映画が映画になる瞬間。

物語がスクリーンに投影されて、その光に映画を観る一人一人が照らされる。隠れていた言葉が、ひそめていた心が、動きたがっていた体が、映画と交互に照らしあう。映画が終わって歩き出すときには、いつも見ていた世界が洗われて光って見えたり、もしくは自分の暗くしていた部分を見つけてしまって驚いたり、気持ちが言葉になる前にひとりでに身体が動いていたりする。

そして映画館の暗闇の中でだけ、それは起こる。


この魔法といってもいいほどの芸術の力に、幾度も助けられてきたように思う。ある時は逃げ込む場所で、ある時はガソリンスタンドで、ある時は教科書のない学校でした。外の世界と繋げてくれる窓であり、内側の自分と対面する鏡でした。

ミニシアターの大きさだから叶う物理的な距離感と、ここだけという限られた特別感だからこそ、より一層心まで映画に近づける。


そんなミニシアターがこの日、私たちの立つ後ろのスクリーンに”投影”され、手を振って客席と客席を結ぶこの情景が、うれしくってたまらなかった。

入江悠監督でなければ、『シュシュシュの娘』でなければ、実現しなかったと思います。

この映画の掲げる目標のひとつ、全国の苦境に陥ったミニシアターで映画を公開すること。

”劇場”という価値の再発見を広げていく大きな1歩に、きっとなったはず。映画文化そのものと、各地でそれを愛し支える人ひとりひとりが、これから先の上映の主役でもあります。


大変な状況の中にも関わらず、足を運んでくださった全国の皆様。上映を支えてくださった映画館の皆様。この日の時間を外へと発信してくださった取材陣の皆様。映画に興味を持ってくださった皆様。

本当に、ありがとうございます。


8月21日。

全国での映画公開に向けて、また新たにスタートを切ろうとしています。

これから先、「映画」になにができるか。

自分が何をしていけるか。探してゆきながら、まずは心から楽しんで、

届けていくことができればと思います。


改めて、この光景を実現できた、そして私が映画の世界に踏み出すきっかけをくださった入江悠監督に、現場で出会った皆さんに、映画を支えてくれた皆さんに、この場を借りてお礼を言わせていただきたいです。


こっからだよ!がんっばっていきます。

根矢涼香

(中編へ続く)

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