家鴨と野良の心持ち
マニラでは、よく野良猫を見かけます。
それもそのはず、野良猫といいつつ大事にされているようで、そこら中にキャットフードの餌台があり、誰かがちゃんと餌をあげているのです。
日本でいえば表参道のような中心部のBGCエリアでも、オフィスがあるTechnohubの敷地でも、あっちこっちで猫達が寛いでいます。
まったくもって野生の危機感を感じさせない寛ぎっぷりww
なんなら、アヒル(家鴨)やマガモ(真鴨)も寛いでいます。
常夏の国ならではの、何とも長閑な感じww
思っていた以上に多いのが、野良犬です。
一人でホテル生活をしている間はあまり気にならなかったのですが、我が家の愛犬と散歩をするようになってから不思議と目に付くようになりました。
きっと彼らも、そこら中に置かれているキャットフードを食べたり人から餌をもらったりしているのでしょう。極端に痩せていることもなく、病気があるようにも見えません。
野犬のように噛みつかれるような凶暴さも無いようで、近くを歩いても危険や恐怖はそれほど感じません。大概同じ場所で同じ野良ワンコ達を見かけるので、人間に邪険に扱われるような事や保健所に連れていかれる事もないのでしょう。
そんな野良達を見て、私が勤めるIBMの二代目社長トーマス・ワトソンJr.が伝えた「野鴨の精神」の話を思い出しました。曰く「ビジネスには野鴨が必要なのです。そしてIBMでは、その野鴨を飼いならそうとは決してしません」と。(※この「野鴨の精神」の背景にあるストーリーはネットで検索頂くと色々と出てきます。IBM創業100周年時の動画はこちらです。英語ONLY。)
飼い慣らされてはいけないし、飼い慣らしてもいけない。
つまり、日々の業務を漫然とこなすようになってはいけないし、そういう環境を作ってもいけないということかと思います。
実際、IBMでは毎日の仕事をこなすだけでも十分忙しく、100件以上くるメールの対応や会議をこなしているだけであっという間に時間が過ぎ去ってしまいます。でも、そんな日々の忙しさも漫然と仕事をしているだけでは次第にルーティーン化していき、いつしか安心・安全な環境になっていきます。
その意味で、今回の海外赴任という機会は慣れ親しんだ仕事や生活を敢えて断ち切り全く新しい環境に身を置かざるを得ないという、野鴨っぷりが試される良い機会でした。
例えば、海外赴任に伴う諸手続き一つとっても、のっけから「野鴨の精神」が問われました。
よく聞く他の日本企業の海外赴任時は、かなりの段取りを会社の人事や総務などの担当者が対応してくれる印象ですが、それに引き換えIBMは自力で切り開かなければ何も進まないからです。
自分がいつまでにVisaが必要で、その為にいつまでに何をしなければならないのか等々、Visa手続きの実務を対応する現地エージェントやTax対応メンバーらと須らく詰めに詰めて何とか前に進める事ができます。誰かが何かをしてくれるのを待っていては(本来は社内のモビリティコンサルタントという担当者の仕事だったとしても)、いつまで経ってもVisaは取得できず赴任もままならない訳です。(これが会社として正しい姿かどうかはノーコメント。。。)
いざ赴任してからも、新しい環境ではそんな事ばかり。あまりに取り組むべき事が多く日々忙殺されていますが、「一人だと、今の仕事量を考えるとどうにも人手が足りないなぁ。人を増やしたいなぁ。。。(今の率直な心の叫びww)」と思っているだけでは何も変わりません。
例えば、この状況を改善するには、私と同じようなポジションの要員を増やすしかない、、、とします。でも、ただ「忙し過ぎるので人を増やしてください」と言っても、増やしてくれる訳はありません。
そこで一計を案じ、「ビジネスの成長率に対して〇〇の割合で△△の人材をアサインできれば、◻︎◻︎の目標を想定より大きく達成できるので要員を増やしてほしい」等の、明確な根拠とロジカルな理由と共を然るべきマネージャーにエスカレーションしてみる訳です。
主張しなければ忙殺される環境を甘んじて受け入れるだけで終わりますが、改善案を提案していけば、すぐに思うような結果にならなくても何かが動き出します。何かが変わっていきます。
と、信じてますww
いずれにせよ、IBMでは待っていても何も動かないし、動かない結果は自分の責任として捉える事が求められます。常に自責で考えなければなりません。逆に自分から動けば動いただけ結果はついてくるし、色々な人からサポートを得ることもできます。
取り組みたい事、対応すべき事があれば、相手がどういう役職であろうと臆せず主張することで、それが「正論で筋が通っていれば」(←ここが重要)、必ず受け止めてくれます。
また、仮に何等か考えが違っていたりロジックに穴があったりしたとしても、少なくとも最初から聞く耳を持たないような形で拒否や否定されることはありません。正論で論破され、撃ち落とされるだけですww
撃ち落とされるとそれなりに凹みますが、それはそれで腹落ちした形で決着することができますし、撃ち落とされた理由を加味して再度ロジックと根拠を準備し直し改めて主張すれば良いわけです。
もちろんIBMの中にも多種多様なメンバーがいるので、そう一筋縄ではいかないことも多くあります。時には全くロジカルでない理不尽な反論にあうこともあります。考えが噛み合わない事もあります。それでも他責にせず自責で考え続ければ、そういう相手にはそういう相手なりの、あの手この手の対応方法に辿り着く事ができます。
かれこれ新卒で入社してから四半世紀近く経ちますが(※途中、IBMを出て防水工事の職人だったこともありますが、それは別のお話)、求められる期待値は常に高く、決して楽な環境ではありません。自分で敢えてそういう道を選んでいる気もしますが、私自身は、野鴨が如く、向かうべき方向を自ら自由に決める事ができるIBMの企業文化が好きですし、フィリピン赴任という新たな環境で仕事をする機会を与えてくれた会社に感謝こそすれ、そう思う今日この頃です。