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倒され、のこぎりで切られた木

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【詩】
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#詩みたいなもの

【詩】A song for two boys

わたしは泣いたことがない 呟く彼女 泣き虫だった少年は 泣き虫だったのに 自分のことを 言い当てられた気がした 確かに抽斗を開けると いちども火を着けたことのない ロウソクが一本あった その白さ 的に当たった矢羽根がゆれる (彼女のその後はまた別の物語) 濃い眉毛 短いまつ毛 きみを挿入している時に 左目尻へと触れてみる すきだな、この黶 への字に曲がった口が呟く 「キライなんだ、泣き黒子」 堅い毛髪を両の手のひらでつつみ ぼくはもっときみへと降りていく 「泣き虫だったから

【詩】ぼくの似顔絵をかくのなら

ぼくの似顔絵をかくのなら 翳はかかないでいておくれ 翳は世界を美しく見せるから 雪嶺の山襞は朝日に青く透きとおり 田を掠める鳥らの羽は地の誠実を知らしめる ぼくの名前をよぶのなら 歌い終わった後はよしておくれ 歌は世界をまぶしく震わせるから 水は曲がり角で終わらぬクリシェを輝かせ 空を掠める若木の梢はとどかぬ無限を知らしめる イスラエルのシナゴークを オハイオのラストベルトを 横須賀の段ボール置き場を 雨が 濡らす びょうどう・に 尻尾をなくしたぼくたちが 雨のようにこの

俳詩「花のひら・まもなく」

        ❅ こんかいは、俳句に詞書をそえました ❅ ――――――――――――――――――――――――――――――――――         きみを吞まされ脳裏びしりと花のひら まがさした、まにあった、まだほしかった、まんぷくを、ましゃくにあわないわがままだ、まだいける、まだほしい、まちがいなのか霧の中、まどろみは熱い湯のなか宙返り、満月だ、満潮だ、まちがいなんておもわない?そんな無粋はよしましょう、まぼろしの手毬万年毬つくの、まちがい以外ほしくない、まだまだ落ちて

【連作詩・Butterfly】 オーガズム

Butterfly をキーワードに詩を連作しました。 今回はその1作目です。 —————————————————————————————————— 「オーガズム  ————  Your Butterfly」 一夏を 光線の十指に触れさせなかった肌 雪片の翅の六枚で 降っておいでよ 陽に灼けた 褐色の凹凸に あたっている 凸 うけとめている 凹 こすれあって 凸凹 滴るのは 樹液 てのひらの 凹 まっていた 凸 堅く結んで 凸凹 眸まで 樹液 ふたりの色で 蝶結び ひ

【詩】油屋のリンは「いつかここを必ず出てやる」とお気に入りの少女と彼女自身に誓ったけれど、茫洋とけぶる水平線は彼女の決意に応えるように一条の光を返した、ような気がした。『千と千尋の神隠し』

「宵」 ここで働かせて下さいなんて、言った覚えはないのだけれど どういう訳か、籠の鳥 西の水平線に茜色の刃がさしこんで、さあ身繕い お酌女でご奉公のボクなのだ 「たんとたんと布団を巻いて寸胴女におなりなさい」 やせた肋に着肉を巻かれ、サナダ紐でふん縛られる 衣装方専門の姐さんは、ここで二十年の飼い殺し 自分じゃこんな代物着たことない 緞子の打ち掛け 俎板帯 立兵庫には櫛笄 たんとたんと布団に巻かれ、鈍感女におなりなさい 姐さん昔は、鳥のさえずり真似るのが得意だったら

【詩】誰もがあなたを好きなのは

誰もがあなたを好きなのは あなたが誰も好きではないから 誰もがあなたを尊敬するのは あなたが誰も尊敬できないから きらう訳ではないけれど 見くだす訳ではないけれど あなたは 誰の中にもホントウがないと 感じている とてもさみしい人生ですね とても空しい人生ですね 一本の大樹に 大樹の孤独があるように あなたの意識は はるか頭上の空ばかり見つめている 空の青さは、ホントウなのですか あなたが大樹に見えてならない人たち 今日も 大きな緑陰に集います あなたは ホントウのさ

【詩】藍

「そのせつは、めいわくを、かけて、しまいました」 そう言って差し出す包みなら 藍色の風呂敷がいい 海へとそそぐ河口の色 いい匂いのする紙箱に 行儀よくならんだお菓子のヒヨコ あの時のドミノ倒しを 知らないふりで澄ましている せめてもの救い もう、私のことは忘れましたか 私は、ときどき、忘れています 思い出すなら、慎重にふたを開けないといけないのに 思い出そうとしないから 勝手に溢れて 赤面だ。 あわててふたを探します もう、私のこと、忘れていいですよ 私は、ほとんど毎日、忘

【詩】遠くへは行かない

煉瓦はいいよ。 頑固だし、重いけど ふれると案外やわらかい あたかそうな色だけど 冬の朝なんか 僕を拒絶するみたいに ちゃんと冷たい むかしむかし 世界のあちらこちらが 立派になろうと ちいさなものを押しのけていた頃 あなたはそういう振舞いを 護る外壁として大英帝国印度領に 七千七百七十七階建てのバベルの塔 角が毀れ 色がくすみ ひとはあなたを 中年の(もしや初老の?) くたびれた、どこか 粋な人だと見るでしょう その虚ろがかつて、銃眼だったとも知らず 僕はあたかくなるま

詩「最愛」

ぼくの瞳から赤い薔薇のはなびらがはらはらおちる 胸の奥があついから、涙だとようやくわかった はなびらで真っ赤なスープをつくろう 小鳥つどう地上で最後のフルート そう、きみに 捧げるよ