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倒され、のこぎりで切られた木

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【詩】
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#ゲイ

【詩】インチキ ランチ

給食はきらい にんじん きらいじゃないよ ブロッコリーとも 仲良くやれる 牛乳飲めるし おさかな平気  でも 給食 キライ 真っ直ぐな線路が好き ぼくは生まれたときすでに  三十歳だったのだろう、ね 給食たべ終わるの すごくきらい 風船はじけたみたいに  クラスメイトが 遊び出す 遊ぶの きらい 自由時間 きらい 「好きなことしていいよ」 好きなことって何? ぼくには無いよ 給食たべている間 とてもきらい モノを噛んでいると 聴こえてくる あのヒトとあのヒトの ののしりあう

【詩】絶海の囚人

目醒めれば 絶海の囚人であった 樹々はなく 草もなく 屋根もない 荒れた岩肌だけの孤島に 置き去りにされていた 見上げれば 微動だにしない太陽 夜は来ず 月もなく星もない 空と海とが 青々とした口を開く 灼熱のいがみ合いに 延々と眼を焼いた 千万年と続く青と青との争いに 放り込まれる刑罰なのか 両手で顔を覆い 岩肌に縮こまっても 目裏に押し付けられるのは 真青なる焼鏝 聞き覚えのない声が 番号を発し それが僕のことのようだと 目を開けば 絶海を背にして 真っ白なキャンバ

【詩】方舟はもう戻らない

そよご 冬青 風よんで そよご 赤い実 そよ吹かれ いい気になって おどったら おっちょこちょいが ころんと落ちた 沖には 方舟 もう見えない ぼくが乗るはずだった 舟 水平線で くるんとめくれ 地球の裏側 星の国 そよご 冬でも 青い葉が 消えた 赤い実 風に訊く 見えなくなった あの舟で ぼくを探している人 いるのかな 方舟に乗れなかった者 すぐに死が来るのでしょうか 来ないとおもう人 手をあげて そよごの葉陰 ふて寝をするのは ぼくとおんなじ  乗せてもらえなかった

【詩】ラムネスカイ,マカロンガーデン

♬ 1 トリカブト蜜もこぼさず摘むなら満月の 宇宙遊泳ミルキーウェイにぬれたその顔の (涙ではさらさらなく) しずく滴るまぶたを瞑る満月の 高きへかざせば花序の列 濃紫の高慢だとか薄むらさきの蠱惑とか 一秒きざみに塗り替えちまう満月の ばかに明るい夜がいい という作戦会議は ボクとキミのあいだでの 論を俟たない自明の理 ジャックナイフとステップ踏むなら理科室の その蔓草がセクシーな蛇へと戻る鉄柵を (星々はGOのウィンクを) 一足飛びなら夜這い星の弧をえがき   動脈静脈交

【詩】知っていることを書きつづけよう、知らないあなたのために

ぼくが知っているのは 風化の流砂にさそわれた一対の喉仏 ぼくが知っているのは なにも開けられない鍵の冷ややかな稜線 ぼくが知っているのは 明日ここを立ち去っていく あなたという肉体の重量 あなたのそのか黒き先端は 今はもう あなたではなくなった或る男 過去にしか存在しない所作が  生きたいあなたを末端から蝕む壊疽となる すでに不要となったその男を あなたは 襤褸となった肌着できつく縛り  切り落とせと  ぼくに命じる ぼくが怯えるのは 肉体上の痛苦と醜悪 腐肉 血みどろ

【詩】海風へ、生まれる。

抱卵の姿勢なら 燕 卵の上に水平にその身を置いて それは 抱くというより 水平線の水平を 文字通り卵上に保ち この季節は だから 燕は 一艘の船となる おのが卵の中にも 海が眠ると 海をわたった燕は 知っている 吊革の下が一時の アサイラム わたることが出来ない 空の為 地下鉄のトンネルの闇は 車窓をたよりない鏡にかえて 人ごみを歩くのが苦手なのに 人ごみを歩くのは得意そうな 顔 映し出さないのは 虚/実 どちら 身体の中を 光が 走り抜け 昔むかし 豊蘆原瑞穂国の葦の群

【詩】A song for two boys

わたしは泣いたことがない 呟く彼女 泣き虫だった少年は 泣き虫だったのに 自分のことを 言い当てられた気がした 確かに抽斗を開けると いちども火を着けたことのない ロウソクが一本あった その白さ 的に当たった矢羽根がゆれる (彼女のその後はまた別の物語) 濃い眉毛 短いまつ毛 きみを挿入している時に 左目尻へと触れてみる すきだな、この黶 への字に曲がった口が呟く 「キライなんだ、泣き黒子」 堅い毛髪を両の手のひらでつつみ ぼくはもっときみへと降りていく 「泣き虫だったから

【俳詩】アヲアラシ・初メテノ

     ✫ 俳句に詞書をそえました ✫ ――――――――――――――――――――――――――――――――――      青あらし情事始めに晒す腋 消えた手花火踏んづけて 裂かれた火薬に蘇生無理 昨夜のゴミはだれかの手紙 人目みたいにゴミだらけ 文字も書かずに爪先で 何をしたいかバレバレで ひょんな晴れ間に ハジメテみたい照れ笑い 経験ごとにハジメテ領域 なくなって 何をあげよう、何くれる? Tシャツ脱いで shower 浴びない流儀かい? (驚かないふり、ボクの流儀)

【詩】菖蒲咲く、黄色いハンマーとして

水ぐるま 烈しく水に回されて 烈しく水を蹴り返す 夢中に蹴れば いつしか 宙にあくがれ 水上0センチメートルでも そこは空 菖蒲 黄色いのが咲いた朝 一輪だけ迷い出た 水の激しさ 岩々に 崩され尽くした彼方には 紫紺に群れる 天の河の形象 あの宙はかんけいないさ 一歩一歩 その予感を踏み固める どこまで行っても一人 この径は それなのに 明日 会う 壊せるものなら壊してみろよ 挑発は ぼくのシルエットばかりが 巨大に映る姿見 明日 会う 明日と会う カーブを曲がる気楽さ

【詩】ロールシャッハに梢は萌え

ロールシャッハに梢は萌え 空に序楽の羽ばたきを     ❅   ❅   ❅   ❅ 指させば かならず 示したかった的から 数センチ逸れてしまう 指の先 青春の特権さ 紺色の寝台車は 蔦の葉末のそよぐ 白い駅に 泊まるから ブレザーと ネクタイと ワイシャツは いい相性で 生れた街から そういえば 遠くへ離れたことのない 十六歳のからだには 一方通行の抜け道は あってもいい ワイヤレスイヤホンが フレデリック・マーキュリーの 扉を立て付けるのは 片方ずつ の、 彼と彼

【連作詩・Butterfly】 オーガズム

Butterfly をキーワードに詩を連作しました。 今回はその1作目です。 —————————————————————————————————— 「オーガズム  ————  Your Butterfly」 一夏を 光線の十指に触れさせなかった肌 雪片の翅の六枚で 降っておいでよ 陽に灼けた 褐色の凹凸に あたっている 凸 うけとめている 凹 こすれあって 凸凹 滴るのは 樹液 てのひらの 凹 まっていた 凸 堅く結んで 凸凹 眸まで 樹液 ふたりの色で 蝶結び ひ

【詩】Lobin,kiss,lobin

❅       ラグーンにその影宿す十字架星になれなくとも              クックロビンよ。       こいむらさき匂いやかなJewelry box・すなわち東経140度の空中天鵞絨庭園、    紅玉のberry畑と曹灰長石の細き流れをこえたその東南東より2度南、蔦型にくりぬいたチョコレート草からまる白砂糖細工の日時計のきっ先に、     いまだ三つ葉クローバーの足輪よりほか装飾の類まきつけたことのない脚をかけ、       ブリキ製の風切り羽を