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倒され、のこぎりで切られた木

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【詩】
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2022年3月の記事一覧

【詩】藍

「そのせつは、めいわくを、かけて、しまいました」 そう言って差し出す包みなら 藍色の風呂敷がいい 海へとそそぐ河口の色 いい匂いのする紙箱に 行儀よくならんだお菓子のヒヨコ あの時のドミノ倒しを 知らないふりで澄ましている せめてもの救い もう、私のことは忘れましたか 私は、ときどき、忘れています 思い出すなら、慎重にふたを開けないといけないのに 思い出そうとしないから 勝手に溢れて 赤面だ。 あわててふたを探します もう、私のこと、忘れていいですよ 私は、ほとんど毎日、忘

【詩】春ってやつは

大粒雨の降水に 三寒四温の四温がはじまり 疎水のやつも 満足げに隣町へ送るのは たっぷりの水 せわしない水音 冬の間 流し去れなかった堆積物が 洲というほどでもない 盛り上がりをつくって 目を凝らしてみれば 真っ白なあれは 翼のような形 けれど  天使など訪れもしない私の界隈 よくよく目を凝らしてみれば 純白は 光を反射する漆黒 片側だけの 鴉の羽根 翼のような何かに見えた、本物の翼 翼一枚だけが残った鴉は 風に吹き流される焚火の煤のように 消えてしまった・はず・だ

【詩】Bitter Days

白雨けぶる8月の書舗 併設のカフェで すこし濃いめのホットコーヒー 手にとったのは 濃緑色のクロスの本 ひとりの時のほうが満ち足りる 彼が去り あの人とわかれ あの子がバイバイ あいつに、あかんべ それから それから 誰だっけ? 366日のカレンダー 載らない367日目の小さな家 ダイニングテーブルには そこらで摘んだ草花と(雨に濡れているね) 濃緑色のクロスの本 彼がいて あの人がいて あの子がいて あいつもいて それから それから だから ひとりの時も満ち足りる