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ロシア大統領選挙をめぐる言説とプーチン大統領が描くロシアの未来像

割引あり

                   (この記事は4040文字です) 

 去る3月15日から17日にかけて投票が行われたロシアの大統領選では、現職のウラージミル・プーチン氏が国民の圧倒的な支持を得て再選された。本稿では、その結果をめぐって日本を含む西側諸国で流れている言説と現実との乖離や、プーチン氏が圧勝した理由について、私見を述べたい(私の専門は国際政治ではなく映画学だが、学者らしく根拠を示しながら)。

選挙中の不正疑惑と選挙結果に関する言説

 日本を含む西側メディアの報道では不正疑惑が云々されているようだが、その根拠はどこにも示されていない。ウクライナのゼレンスキー大統領による誹謗中傷に近い発言がなされ、それが引用されているだけである(両国が戦争中であることを考えれば、そうした発言の信憑性はゼロと考えるべきである)。
 また、ウクライナのメディアは、選挙中、投票所に兵士が巡回して有権者を監視し、誰に投票するか確認しているかのようなフェイク映像まで流しているが、ロシアの報道と比較すればカーテンの色、投票所の設備などが違うことは一目瞭然である(次の2つのリンクを参照。上が「今日のウクライナ」というウクライナのロシア語話者向けメディア。問題のフェイク映像は7分目にある。下は選挙全体に関するロシアの報道記事)

 次に、選挙結果に関する言説を見てゆこう。
 今回の大統領選には、野党第二党であるロシア連邦共産党からニコライ・ハリトーノフ氏も出馬したが、同氏は得票率4.3%で惨敗した。プーチン氏は与党”統一ロシア”の候補ではなく無所属だった。左派から右派まで混在すると言われる同党支持者の組織票による勝利ではないわけである。しかも投票率はそれで全国で87%という過去最大の票を得たのだから、この数字を信じるなら、プーチン氏本人の能力や、これまでの成果、施策が国民に評価されたと考えるのが自然だろう。
 この高い得票率に関して、ロシアの独立選挙調査機関”ゴロス”は異論を唱えている。それが日本のメディアにも紹介され、得票数の「水増し」疑惑として報道された。これに関しても検証が必要なことは言うまでもない。同機関は選挙期間中の出口調査も行っており、4000人の投票者を対象にアンケートを行っている。その結果は、未回答の37%を除き、5%未満しか支持されなかった他の候補に対してプーチン氏の支持は55%と圧倒的優位だった(hhttps://t.me/moscowtimes_ru/20319)。

 得票率の操作に関する疑惑があるとしても、他の候補たちは取るに足りない支持しか得ていないわけである。投票した有権者の過半数から支持されていたことはプーチン氏は、どんな施策によってロシアの有権者に評価されたのか。筆者の関心はむしろそこにある。

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