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日本を取り巻く「政策起業家」の現状

 これまでの政策起業家に関する記事は以下です。

政策起業家を取り巻く日本の現状について今日は簡単に整理をします。


 日本においては「政策起業家」を主目的に扱う書籍は少なく、鈴木崇弘さんの『日本に「民主主義」を起業する-自伝的シンクタンク論-』(2007)、船橋洋一さんの『シンクタンクとは何か-政策起業力の時代-』(2019)、馬田 隆明(2021)『未来を実装する――テクノロジーで社会を変革するの4つの原則』紹介されるに留まります。
また駒崎弘樹(2022)『政策起業家 ――「普通のあなた」が社会のルールを変える方法』が実践書として発売されました。
そのほかには、Kingdonさんの政策起業家の概念を広めた、「Agendas, Alternatives, and Public Policies」の翻訳本となっています。
それらを簡単に紹介したいと思います。

 まず、鈴木さんの本で、日本語で初めて「政策起業家」に言及されたました。その本によると、
民間非営利独立型のシンクタンクは非営利セクターや民間セクターの『頭脳』の役割を果たすことになります。そのシンクタンクの活動の成果をそのセクターのNGOやNPOが活動に活かして、より実践的な活動や行動をできるようになります。シンクタンクはその活動等の成果を研究に活用します。そのようにしてシンクタンクと他の組織が相互に補完し、棲み分け、共生し、全体としての非営利・民間セクターを強化し、社会の運営の一翼を担うことになるとされています。この観点からすると、極論すれば日本では非営利・民間セクターに『頭脳がない』のが現状」とされています。
また、日本の他のアジアなどとの比較によると「知的で政策的に優れた起業家(policy entrepreneurs)」の不在」が挙げられるとされています。

 また、船橋さんの本でも同様に日本のシンクタンクの脆弱性を指摘しながら、政策起業力について言及をしています。
そこでは、 「政策起業力」を
「公共政策のあり方を的確な情報とデータに基づいて検証、分析し、新しいアイディアと政策を探求し、それを実現するため、多種多様な利害関心層を巻き込みながら社会と世界に及ぼす影響力である」と定義されています。

馬田さんでは、新しい技術を社会に普及させるとき、「今の日本に必要なのは、注目されがちな『テクノロジー』のイノベーションではなく、むしろ『社会の変え方』のイノベーションではないか」と述べられています。
理由として、ビジネスに大きく3つの変化が起きており、それは
(1)規制や政治への関わりが増えること
(2)社会的インパクトが重視されるようになっていること
(3)社会との調和的な社会実装が求められようになっていること
をあげ、その上で「ソーシャルセクターの手法を民間に逆輸入する」重要性を説いています。その根拠としてソーシャルセクターは社会課題の解決、社会的インパクトを達成するためにこれまで試行錯誤してきた過去があり、特にも規制や政治を動かすという点においてのノウハウの蓄積があることをあげています。
ソーシャルセクターは主に公的なサービスでは手が回らずに零れ落ちてしまっている課題に対して、小規模にモデルを作って解決を試みる傾向があります。その成功を持って、社会的インパクトをより広げていく時に国や自治体に訴えかけながら政策化していくこと、行政に政策として取り入れてもらうことが必要でした。このような背景から、ソーシャルセクターの一部では「政策起業力」が培われてきています。ソーシャルセクターにおいてはゼロを1にすることが社会起業であり、1から10への規模拡大の際に必要とされる力が「政策起業力」だと言えるとしています。

 また、2019年9月に「政策起業力シンポジウム2019」が、船橋さんが理事長を務める一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブと東京大学公共政策大学院の共催で開催され、同年11月に「PEP(Policy Entrepreneur’s Platform)」が設立され、少しずつ日本の中でも認知が拡がりつつあります。
翌年オンラインで開催された、「政策起業力シンポジウム2020」では800名近くの視聴者がいました。
登壇した認定NPO法人フローレンスの代表理事の駒崎弘樹さんは、
「NPO法人を通して、困窮している親子をサポートする社会事業提供をしてきたが、現場の力があっても、既存の法律・条例を改正しなければ助けられない人々がいる。現場で活動しているだけでは本質的に解決できない問題があるという気づきから、その政策を変えることによって社会課題の解決を図るアプローチを選択した」としていました。

 また一般社団法人RCFの代表理事の藤沢烈さんは、
「既存の復興政策は歴史的に建物、住宅、工場といった直接的な被害を補償してきたが、実際に人々が住んでいた生活圏・コミュニティの復興は見落とされてきた。コミュニティ支援政策の必要性を、データ収集・エビデンスを基に県や自治体へ打診し、現在では復興庁もコミュニティ再建を大きく意識するようになった」とし、NPO活動から制度化、政策化していくことの重要性について語っていました。

現在ではPEP主催の政策起業家に関する勉強会をも開催されております。

私も第4回のゼミに参加させていただき、「ローカル政策起業家」との紹介とともにコメントを載せていただきました。

コメントは以下になります。

議論にゲスト参加したNPO法人SETの理事長、陸前高田市の市議も経験し地域の自治体制度をハックして課題解決を進める「ローカル政策起業家」とも呼ばれる三井俊介さんは、
「仮に公助を増やしすぎると地域の自立や復興を阻んでしまう一方、全てをソーシャルビジネスに頼ると地域に負担がかかり、また公助でしか解決できない問題などが見落とされてしまう可能性があります。」
「NPOなどが行う共助の政策で限界だった時に、行政に働きかけて公助の幅を広げてもらう、といったようなことが必要だと思います」
と行政が担当する「公助」とNPOなどが担当する「共助」、それぞれの限界とバランスの難しさについて指摘しました。

自助、共助、公助は2000年代初めの方に「新しい公共」として少しずつ広がってきているものですが、この概念とNPOや政策起業の大切さは非常にフィットすると思います。

社会起業家が日本でもだいぶ浸透してきていますが、
社会起業家との違い」や、
「なぜ政策起業家でなければならないのか?」についても、
今後考えていきたいと思います。

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