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あの日の空は灰色だった。
空の写真を撮っている。
あの日、いや、その前からずっと。
その習慣にあまり意味はなかったはずだ。
でも、意味はあった。
そのことに気づくのはずいぶん後になってから。
*
2014年2月。僕は仕事を休み、ホームセンターにいた。
この世から消えてなくなりたい。
その思いを強くして、方法を調べ、一番手っ取り早く、すぐにできる方法に辿り着いた。ロープを使った、自室でのアレ。
手頃なロープを買い、家に帰る。準備に取り掛かろうとすると、ケータイが鳴った。画面を見ると母親から。平日の日中だ。今日は休んでいたが、いつもなら仕事中。そんな時間に電話を掛けてくるなんて、と思いながら出る。
「もしもし」
母親の声は、いつも通りだった。
「最近どうなの?」
実はこの日から4年ほど前に、うつ病を発症している。働きながら療養していたせいか、一向に良くならない。そのことを、たまに母親へ連絡はしていた。だからだろう、電話をするとだいたいこの言葉が出てくる。
「ああ、まぁまぁだよ」
僕が返す。実はもうこの世から消えるつもりなんだ、なんて、言えるはずもない。
それから数分ほど他愛もない話をする。
そして、母親がこう言った。
「こっちに帰ってきなさい」
・・・なぜ?と思っただけのはずだったが、声に出していたのだろう、母親はこう返した。
「しばらくこっちでゆっくりしなさい」
・・・どうやら、全てお見通しみたいだ。
もちろん、消えてなくなりたいなんて一言も漏らしたことはない。この日の電話中も。
「あぁ、分かったよ」
そう言うしかなかった。僕に残された選択肢。それは自死か故郷に帰るか。どちらを選ぶかなんて、迷うはずもない。
生きたい。
それが本心。
あの日の空は灰色だった。陽も差していない。生きる選択をしたのに。
*
2023年9月。現在も空の写真を撮っている。
晴れの日。曇りの日。雨の日。雪の日。スマホのフォルダには色んな日の空がある。
それは人生のようだ。
色んなこと、嬉しいことも悲しいこともムカつくこともある。
ただ、それは捉え方次第で全て意味のあることだと思うことができる。
自分の成長のために起こっている。
空は、ただそこにあるだけで、意味なんてない。
天気が良いとか悪いなんて、人が勝手に決めたこと。
でも、そこに意味を持たせることで、人は生きやすくなったり、前に進む原動力になったりする。
いつの空でも、太陽の存在を感じ取れるようになった今は、あの日より自分を取り戻せているのだろう。
今の空は青空だ。紛れもなく。
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