ウクライナ編①とある役人の死

ビアバーの経営については、1か月ちょっとやってみて、上手くいったところ、簡単ではないと思ったところ、色々出てきた。これはもう少し自分の中で咀嚼できてから書きたいと思う。


前回、まだ社会人2,3年目の頃、ウクライナの排出権案件の担当になった話の導入を書いた。

これからそこで起きた話を書く上で、まずはビジネスの仕組みについて書く。

簡潔にポイントを書くと、こうだ。

・日本政府がウクライナに排出権購入代金として数百億円の資金供与を行った。

・同資金は、ウクライナにおける環境案件に使用されることが両国政府で合意された。

・対象環境案件については、広く公募を行う。

・有望な案件をリストアップし、日本政府、ウクライナ政府双方が認定した案件に資金供与される。

・資金枠は早い者勝ちで、数百億円の枠が埋まったらそこで終わり。

これが大枠で、日本政府の窓口はNEDO(経産省傘下組織)、ウクライナ政府の窓口は同国の環境投資庁となった。

このルールが発表された瞬間、ウクライナに拠点を持つ日本の商社はすぐにウクライナ環境投資庁、NEDOに向かい、公式ルールに書かれていない“ニュアンス”を探りにいくことになる。これは政府が絡むビジネスでは、初動としては大体同じだ。

そこで、ウクライナ政府、日本政府が持っている“本命案件”があるのかないのか、実際にはどのような案件が好まれるのか、具体的に誰がどういうプロセスを経て決定するのか、その人物の利害関係等をまず確認する。

特に当時のウクライナは今よりも遥かに汚職がひどく(これは主観だけではなく国際的な腐敗度指数でも確認されている)、意思決定者の利権となる事が目に見えていた。

確認したところ、どうやら、日本政府としては日本の技術が輸出できること、案件の実現性、環境への寄与度等、まずまず真っ当な評価基準で選定するようだ。
NEDOの実務型トップはおそらく元キャリア経産官僚で、おそらくそれなりに本省で偉くなってから定年近くなりこの役職になったようだが、
俺がイメージしていた官僚とは違い、曖昧さとは程遠く、驚くほど率直な物言いをし、ウクライナ政府との交渉についてもゴリゴリやってくれる、頼りになるおじさんだった。


さて、ウクライナ環境投資庁はどうだったか。

俺にとって、環境関連の仕事をしている役人は、融通が利かないが真面目で、着々と仕事をしているイメージだったが、

一目会って、全く違うタイプの人種と分かった。まず見た目が完全ゴッドファーザーの登場人物達だった。安月給の筈なのに高級スーツに身を固め、欲深そうな目つきでジロジロ人を値踏みしてくる感じ。

利権?むさぼってますが何か?

と言わんばかりだ。

間違いなく、こいつらはウクライナの環境を良くしたい等とは1mmも思っていないだろう。


俺にとっては初めての主担当の案件な訳だが、これは大変な仕事になりそうだ、、、と思って動き始めた矢先。


ウクライナ環境投資庁の実務型トップが死んだ。

首都キーウに流れるドニエプル川で水死体となって発見されたらしい。
これで今まで集まってきた案件は全てリセット。

…もしかして、俺はヤバい世界に足を踏み入れようとしているのか?

と思いつつ、どこか高揚している自分がいた。

俺の小学生時代の夢は検事で、悪い奴を懲らしめる事だった。

ちょっと方向性は違ってしまったが、利権を貪る悪人を出し抜いて、俺の案件を実現させてやる、と誓ったのであった。

~次回、ドンバス(ウクライナ東部)で案件探しに彷徨った話、に続く~


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