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企業の存在意義を問う「パーパス」

こんにちは、ナカムラです。今回は「パーパス『意義化』する経済とその先」という書籍を紹介したいと思います。

昨今、盛んに叫ばれるようになった「パーパス」という概念について、それをどのように捉え、どのようにビジネスとして成立させるのかを、多様な事例と併せて紹介している書籍です。

著者はTakramのディレクター、佐々木康裕さん。イリノイ工科大学のデザイン学科修士で、以前ご紹介した「直感と論理をつなぐ思考法」の佐宗邦威氏と同じご出身、デザイン思考への造詣が深い実務家です。

今回は、そもそも「パーパス」とは何を意味するのか、世の中にはどのような事例が存在するのかを紹介した上で、個人的な解釈としての「パーパスをビジネスに実装する要点」を説明します。

1)「パーパス」とは

「パーパス」をそのまま翻訳すると「目的」となります。これ自体は間違いではないのですが、よりビジネスの文脈に合わせた表現にすると「社会的存在意義」となります。

その企業が社会に存在する意義を示すもの、社会に対して果たす責任(与える恩恵)とは何か、ということです。

過去のnoteでも何度か紹介している「ゴールデンサークル」における「Why(≒目的、信念)」に近い概念ですね。

つまり、概念としてはまったく新しくないのです。ただ、これが現在において非常に影響力を増してきているんですね。本書ではその変化の鍵となる考え方を「意義化」と表現しています。

この「意義化」という考え方は、「企業」「消費者」「コンテクスト」の3つの観点における経済変化を総括するものです。

【企業の変化】
・人間中心 → 地球中心
・利益 → 社会善
・破壊的ビジネス → 優しいビジネス

【消費者の変化】
・スタイル → スタンス
・X世代 → Z世代・ミレニアル世代

【コンテクストの変化】
・周辺 → 中心
・生徒会長 → アウトロー

ひとつずつ中身を見ていきましょう。

●人間中心 → 地球中心
人間中心設計は、「人間(ユーザー)を理解し、真のニーズを見つけて問題解決する」という設計思想ですが、よりサステナビリティに重点を置く考え方として「地球中心設計」が重要視され始めています。
●利益 → 社会善
現在、3分の2の消費者が「ブランドの社会的・政治的スタンスによって購買を決定する」ようになっており、社会善に資すること=消費者の支持を得ること、すなわち「儲かること」になりつつあります。
●破壊的ビジネス → 優しいビジネス
テクノロジーによる破壊的イノベーションによって、様々な倫理問題が発生しています。利便性 > 倫理観の構図です。このような状態から脱するために、ビジネスにHumanity(人間性)の観点を取り込んでいこう、という流れが生まれています。
●スタイル → スタンス
プロダクトやサービスの見栄えをよく見せる、インフルエンサー達が自分を視覚的によく見せる、といった行動は消費者に響かなくなっています。社会的・政治的課題に対してどんな姿勢を取り、活動しているか?が重視されてきています。
●X世代 → Z世代・ミレニアル世代
Z世代・ミレニアル世代は、すでにアメリカでは50%以上のシェアを持つ巨大なマーケットに成長しています。それだけでなく、質的観点においても次のカルチャーやスタンダードを作る世代として注目が集まっています。
●周辺 → 中心
これまで、社会課題の解決(≒非財務的活動)は、事業とは直接関係のない領域で、CSRとして慈善活動的に行われていた節があります。しかし、現在はそれを事業のど真ん中にピン留めし、そのパフォーマンスまで評価する時代へと変化しています。
●生徒会長 → アウトロー
「パーパス」をお行儀の良い、純粋な正論として語るだけでは人を動かすことはできません。それが「クール」であり「面白い」こととして、社会に受け入れられるような工夫が必要になっています。

これらを総称して、「意義化する経済」と呼び、「パーパス」はその中心に位置づけられている、というわけです。

2)パーパスのビジネス実装事例

これから紹介する事例は、パーパスを中心に様々なステークホルダーと協業・協働している事例です。

この「ステークホルダー」が非常に重要で、これまではビジネスにおけるステークホルダー=株主と捉えられてきましたが、現在はその限りではなくなっています。

【現代のステークホルダー】
株主、顧客、従業員、サプライヤー、コミュニティ

この点を念頭に置きながら、本書に掲載されている事例から3つの事例をピックアップしてご紹介します。

Case #01 sweetgreen:「コミュニティを健康にする」

sweetgreenはアメリカのサラダ専門店です。2007年設立、2018年には評価額が1,000億円を超えユニコーンとなった注目企業です。

sweetgreenの事例では、特にサプライヤーやコミュニティ、顧客との協働の在り方を見ることができます。

同社は、地域コミュニティとの結びつきを最重要視しており、様々な活動を行っています。

・出店時は元の建物の形状をなるべく変えない
・地元の食材を使用する(=店・季節によってメニューが違う)
・地元のアーティストの作品を店舗内で販売
・地元小学生に食のリテラシーを高めるワークショップやプログラムを提供
・生鮮食品が行き届いていないエリアで、生鮮スーパーの開業支援

この中でも、地元小学生向けのプログラムや、スーパーの開業支援などの活動は無償で行われています。つまり、短期的には何の利益も生みません。

ただ、長期的には、食のリテラシーを身に着けた子ども達が将来の顧客になるでしょうし、こうした教育を受けた子どもが地元の野菜を選択するようになれば、地元農家の繁栄にも繋がり、sweetgreenにとっても素材の安定供給につながっていきます。

これは、「顧客からお金を得て、相当する価値を提供する」という考え方ではなく、「ペイフォワード(Pay it Forward)」の精神で、未来の顧客に、自分たちの価値観が伝わるサービスを提供する行為と言えます。

Case #02 ネスレ:「食の持つ力で、現在そしてこれからの世代すべての人々の生活の質を高める」

続いてはネスレの事例です。紹介するのは日本の事例で、コミュニティや顧客に加えて、他の企業とも協働している興味深いものです。

ネスレは、流通におけるドライバー不足、再配達問題、梱包資材問題を解決すべく「MACHI ECO便」という仕組みを作っています。(上記問題は、食を持続可能な形で家庭に届けることを妨げる課題と位置付けられてます)

「MACHI ECO便」は、地域コミュニティを巻き込んだエコシステムで、「エコ ハブ」と呼ばれる”地域の宅配拠点”を設け、そこに集約された商品を地域住民がエコバッグを使って各家庭に届ける、という仕組みです。

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ネスレはこの仕組みを他の企業にもオープンにしており、P&G、ファンケル、カルビーなどが参画しているそうです。

これがとてもパーパスを体現していて、本書では「大きな船」という表現をしています。視点を社会に置いて、その実現のために様々なステークホルダーを船に乗せていく、という考え方です。

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Case #03 Salesforce:「ビジネスは世界を変える最良のプラットフォームである」

3つ目は意外かも知れませんが、シリコンバレーのテック企業セールスフォースです。

セールスフォースが拠点を置いているサンフランシスコ市では、ホームレス問題が深刻化していました。私も一度訪れたことがあるのですが、東京の比ではないです(人口にして約10倍)。

この問題を解決するために、同市ではホームレス対策法案(ホームレスを支援し、地域コミュニティを健全化するための法案)を定め、市内の大企業からホームレス対策のために0.5%の法人税を課すことが決まりました。

この法案可決をリードしたのが、セールスフォースのCEOであるマーク・ベニオフです。対象となるシリコンバレーのIT企業たちが尻込みするなか、積極的に法案を支持し、資金提供のみならず、自ら演説を行なったり、支援者との朝食会・夕食会を主催するなど様々な活動を通して法案を可決へと導きました。

本書で紹介されているマーク・ベニオフの言葉が印象的だったのでここで引用しておきます。

「ホームレス化と、それに追い打ちをかける大きな経済格差が、わが社の将来の見通し、さらにサンフランシスコとシリコンバレーのビジネスコミュニティ全体に大きな影響を与えかねない事実を、無視できるわけがない。」

自分たちのビジネスが何に立脚しているのかを、広い視野で把握しており、またどういうコミュニティにしていきたいのかを明確に持っていることが伺える発言だと思います。

3)パーパスとビジネスを結ぶ要点

本書を通じて私が感じた、パーパスとビジネスを結ぶ要点をここでまとめたいと思います。

大前提として、どのような社会を作りたいかというパーパスを持った上で、重要なのは、

「長期的視点と広い視野で、事業とステークホルダーのパーパスを通じたポジティブループを描くこと」

だと解釈しました。

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10年・30年という長い見通しを持ち、短期的な利益だけを追求せず、様々なステークホルダーをパーパスという大きな船に乗せた時に、どんなポジティブな循環が作れるか、これを考えることが重要なのだなと思いました。

図解総研さんが、「パーパスモデル」という図解フレームワークを作っておられ非常にわかりやすい整理ができるので、こちらを活用してみるのも良いかも知れません。

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(図:図解総研参照)

4)最後に

本書はとにかく事例が豊富で、対象とするビジネスも多岐にわたるので、パーパスをビジネスに実装するとはどういうことか、がとてもイメージしやすいです。

また、綺麗事を並べるわけではなく、あくまでも(そして徹底的に)ビジネスに繋げるという点に拘っているので、実務家の皆さんにも非常に腹落ちする内容なのではないかと思います。

以上、企業の存在意義を問う「パーパス」でした。最後までお読みいただきありがとうございましたm(_ _)m

ナカムラ

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