BMTHの新譜「LosT」と『パターン化されたエモ』

こんばんは。

BMTHが新曲「LosT」をリリースしましたね。
なんか最近好きなバンドの新譜聴くのが怖くて(あるあるだと思うんですけど)一日放置してたんですが、ついに手を出しました。

で、いろいろと考えさせられるというか、自分の内面とも関連の深い楽曲だなあと感じたので、楽曲そのもの、PV、Oliへのインタビュー記事について思ったことを軽くまとめてみようかと思います。

以下MVです。年齢制限がかかっていてサムネ表示されませんが…


最初の印象

BMTHもここまでポップになったか…と結構失望しました。すみません。
理由は明らかで、既存のBMTHイメージを前提において聴いたからですね。彼らが辿ってきたデスコア、メタルコア、エレクトロサウンドは、全て別のベクトルで自分に刺さるものでした。その上で、「LosT」はエレクトロ期の最前線に位置する楽曲だと思い込んでいたんです。
しかし意識的にジャンルの壁を取り払い、フラットな感覚で聴きなおして、ようやく気づきました。これはエレクトロのガワを被ったエモ・ソングにDjentyなブレイクダウン、そしてメンバーのサブカル趣味をぶち込んだ、ジャンルを超越した傑物であると。
批判に臆することなく、これほど変化を重ねてきたバンドが、「わかりやすい」ポップスで立ち止まると思っていた自分がバカでした。BMTHは未だ野心的な変化の途中に立っているんです。


マイケミの存在

「LosT」についてのKerrang!によるインタビューが面白いので、リンクを貼っておきます。

記事タイトルにもある通り、本作はエモカルチャー、とりわけマイケミの影響下にあることが語られています。
”Deftonesにそっくりな曲を作った人は、DeftonesじゃなくてGlassjawをたくさん聴いたとか言うもんだよ"と前置きしているとおり、曲調そのものがマイケミリスペクトというわけではなく、根幹の思想的な部分の話でしょう。

実際本作のPVでは、ダンサーたちが躍る中央で、Oliが両手を広げながら熱唱するようなシーンがあります。これは「Helena」のパロディかと思えるくらい似ていますね。それにVRゴーグルをつけた少年少女が洗脳映像を見せられているシーンは、オトナの教育によって社会の歯車にされる恐怖を歌った「Teenagers」の主張を連想させます。

またインタビューで強調しているのは、変化するBMTH自身を、肯定的にとらえるスタンスです。
"僕らは皆、広い好みを持っているから、ヘヴィさの探求はその一面に過ぎないんだ。ヘヴィな音楽を愛するファンにとっては迷惑になるかもしれないけど、それが僕らの全てではないんだ”
これにはいちリスナーとして、背筋が正される思いがします。BMTHを○○系バンドとくくるのは全くナンセンスで、ただ彼らはデスコアだろうがメタルコアだろうがエモだろうが、ジャンル問わずその道のリスナーを唸らせるほどの実力を持ったバンドである、という事実だけなんですね。

僕らは音楽文化の最盛期を逃した世代なんて言われていますが、BMTHはその軌跡をリアルタイムで追いかける価値のあるバンドだと思います。


「パターン化されたエモ」

という言葉は、日本の(音楽界隈に限らず)インターネットでちょっとしたミームになっていますね。
「喫茶店のクリームソーダをフィルムカメラで撮る」とか「深夜に起き出して恋人の寝顔を横目にタバコを吸う」とか、わかりやすく感傷的なシチュエーションが、若い世代の間で擦られまくって陳腐化していることを揶揄したフレーズ(だと勝手に思ってるけど違ったらごめん)です。

「LosT」が提示する世界観は、欧米版「パターン化されたエモ」なんだろう、と感じました。(病棟からの脱走という形で描かれる)社会への反発と自分は特別な存在だという妄想。ドラッグ、奇形、レトロゲーム、洗脳、人体実験。そして何といっても過剰に飛び散る血しぶきと下品なエロ。バスタブの裸婦とか双子の奇形児は、シャイニング見て影響されたんでしょうか。眼球をクローズアップするところには時計仕掛けのオレンジ風味も感じますね。サブカル好きの青少年なら一度は関心を持つであろう、非現実的で非常に刺激的なモチーフが、MV中に所狭しと陳列されています。

まさにこうした排他的で厭世的な思春期特有の趣味嗜好こそ、海外におけるEmoのテンプレートなんですね。日本語の「厨二病」という訳語とも少し違う気はしますが、まあ向こうのほうが銃器やドラッグが現実の身近にあるというだけで、方向性は似ているでしょう。

私はAmerican FootballやTexas Is the Reasonに代表される、ジャンルの始祖ともいうべき世代を「狭義エモ」、My Chemical RomanceやFall Out Boyなどポップパンクとの融合によりメインストリームに躍り出たバンドを「広義エモ」と呼び分けます。前者は純粋な音楽性による分類なのに対し、後者はマーケティング先行型の呼称という感もありますね。エモガキ諸兄には説明せずともある程度ご納得いただける分類かと思いますが、要するに海外でもエモといえば「広義エモ」を指すんだなあ、そしてそれはパターン化して象徴的に認識されているんだなあということを、再確認したわけです。

日本における「エモい」という形容詞、および「パターン化されたエモ」が本場とはすっかり乖離していることは事実ですが、しかしエモのパターン化という事象はガラパゴス的ではなく、むしろ本場に遅れてある種必然的にやってきたムーブメントだと言えそうです。

エモに進出するBMTH

これまでのBMTHがエモと一線を画していたかというと、全くそんなことはありません。「Drown」「Throne」はライブでのシンガロングを一層強く意識した楽曲ですし、「Happy Song」に見られるチアリーディングっぽいコーラスは、ポップパンクではわりとありがちです。マリリンマンソンがポップロックに漸近したころの「mOBSCENE」とかでも採用されてますね。
ただここまでわかりやすくエモに、しかも「sTraNgeRs」のようなバラードではなく、突き抜けて明るい方向性に振り切ってきたのは本当に驚きです。

BMTHにとって「LosT」でエモのテンプレートを改めて描き出すことは、どのような意味を持つのでしょうか?このMVを添えるということは、BMTH自身がこの曲を意識的に「エモ・アンセム」として作り上げたことの表明であるはずです。
これから堂々と乗り込んでいくエモ業界へのリスペクト?新たなリスナー層の獲得?それとも単にメンバーの思春期の投影?
興味は尽きません。次のアルバムには、このほかにもヘヴィな楽曲も入っているということなので、バランスをどのようにとっているのか、大変楽しみなところです。

また、主にamoリリース以来だとは思いますが、MVにアニメ「このすば」のカットを挿入したり、ベビメタとコラボしたり、ツアーのフライヤーが完全に勘違い・クールジャパンを意識してたりと、最近一層親日を前面に出しているBMTH(というかOli?)。今作も初っ端から歌詞にエヴァンゲリオンって入ってますしね。日本で作り上げられた独特のエモ界隈に、欧米のテンプレエモを詰め込んだ「LosT」がどのように受け止められるのか、その化学反応には非常に興味があります。Oliもたぶん気にしてると思います。今後BMTHフォロワーのHyperPop×エモ(×Djent)系ネット発アーティストが、ほんのちょっとでも増えることを期待しましょう。



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